[え、え~。
次の質問をお願いします。]


固まる報道陣に司会者が質問を催促する。


「はいっ!
京子さん、敦賀さんからの猛アタックに今まで応えなかった理由をお聞かせ下さい。」


「…え、えっと…。
色々ありまして、私、自分に自信を持てなかったんです。
何の取り柄も無い地味で色気もない自分なんか、こんな素敵な男性(ひと)が好きになってくれるなんてあり得ないって決めつけて信じないで…。
からかわれてるんだって思い込んでたんです。
…でも彼が言ってくれたんです。
最悪の恋の思い出を一生一度の最後の恋にしないで、自分との恋を最後で最高の思い出にしてくれって…。
その言葉で私、彼が本気で言ってくれてるって信じることが出来たんです。 …だから、敦賀さんの気持ちを受け入れる事が出来ました。」


「京子さんは敦賀さんのその言葉に何と答えられたんですか?」


「え、えっと…私もあんな馬鹿が一生一度、最後の恋の思い出なんて死んでも嫌だから、最後の恋の相手になって下さいってお願いしました。」


「それはプロポーズにも聞こえますが、如何ですか?
 敦賀さん。」


その質問に、蓮は晴れやかな笑顔で頷いて見せた。


「そう取ってもらって構いません。
まだ彼女が未成年ですので、将来の約束といったくらいですが、私には彼女以外考えられないので。」


やだぁ…、と頬を染め、潤んだ瞳で恋人を見つめる少女の信じられない愛らしさに、やっと回復したばかりの男性報道陣が再悩殺。


「あ、あの!
投稿された動画からはロックシンガーの不破 尚さんと京子さんがただの知り合いではないように見受けられましたが!?」


固まっていない女性レポーターから聞かれた質問に、蓮の纏う空気の温度が一気に下がったが、直ぐに京子の答えで冷気が緩んだ。


「…子供の時からの知り合いであるのは否定しません。
  消したい過去ではありますが。
私、不破さんの実家に家庭の事情で預けられていましたので。
そのためか不破さんは私の事を都合のいい家政婦か召し使いと勘違いしていまして、未だにあんな風に声を掛けて来るんです。
私にとって不破さんは預けられていた家の息子さんというだけで、それ以下になる事はあってもそれ以上には決してなり得ない存在です。」


だからああして突っ掛かられても迷惑極まりないだけなんですよね、と京子が笑いながら蓮に目を向けると、蓮も頷き返した。




テレビ画面を見つめながら、京子の言葉を胸の中で反芻する男がいた。

たった今、話題に上っていたミュージシャン、不破 尚である。


???消したい過去…。

???預けられた家の息子と、預かられた子供。
ただそれだけ、それ以下にはなってもそれ以上には決してなり得ない存在…。

???突っ掛かられても迷惑極まりないだけ…。


尚が凹むには十分すぎる言われようだった。