2人が社長宅の応接間に入っていくと、ローリィはキョーコの顔を見た途端に内線で誰かに呼び出しを掛けた。


「…この馬鹿がっ!
気持ちが通じて嬉しかったからって理性ぶっ飛ばしてがっつきまくってんじゃねぇ!
ったく可哀想に、よれよれじゃねぇか…。
  最上くん、暫く別の部屋で休んでろ。
コイツにお説教しといてやるからな。」


久遠につかつかと歩み寄ると、ローリィは金色の頭をぐわしっ、と掴んで腕で締め上げる様にして抱え込んだ。

所謂ヘッドロック状態である。


「いたたっ、痛いですよ、社長。」


一応藻掻いて抵抗する素振りはするものの、キョーコに無茶を強いてしまった自覚のある久遠は甘んじて説教もお仕置きも受けるつもりだった。
そうこうしている内に執事の彼が、数人の女性を引き連れてやって来てあれよあれよという間にキョーコを抱えるようにして出ていってしまった。


「へぇっ!?
や、ちょ…待っ…くっ、久遠さぁ~ん!!」


朝っぱらから啼かされまくり、かなり掠れた声で久遠に助けを求めたキョーコだが、慣れない行為の後遺症で体力も尽きていたために大した抵抗も出来ずにあっさり連れ去られてしまったのだった。



執事の青年・セバスチャン(仮)が一礼してドアを閉めると、残ったのはローリィと久遠の2人きり。

ローリィはもう一度ぎりりと久遠の頭を締め上げると、半ば引き摺る様にしてぽいっとソファーに放り出して、自分は一人掛けのソファーにやや乱暴に腰を下ろした。


「…ふん。
“久遠さん”か。
最上くん、受け入れてくれたんだな。
お前がクーの息子だって事を。
しかもあの様子からも解るが、愛情も、だな?
めでたくラブミー部卒業だな!!
しかし…どうやってあの恋愛感情壊死を再生させたんだ?」


首を傾げるローリィに、久遠はキョーコに言ったままの言葉を伝えた。


「…正直に思うまま伝えただけですよ。
キョーコの事が好きで、焦ってて、俺の気持ちがキョーコの周りの人達にダダモレでいい加減にしろって言われまくってるって。」


うんうん、とローリィは頷いたが、それだけじゃなさそうだと久遠に先を促した。


「…で、それだけじゃ最上くんは納得なんざしねぇだろ?
決め台詞は何だったんだ?」


「……大したことじゃありませんよ。
二度と恋をしないって事は不破との最悪な思い出をずっと抱え続けるって事なんだから、幸せな思い出に書き換えようって言ったんですよ。」


「…そしたら最上くんはなんて言ったんだ?」


「自分もあんな奴が一生一度、最後の思い出なんて絶対に嫌だから、最後の恋なら想いを返してくれる人がいいですって。
  傷つくのは嫌だけど、同じ傷なら、貴方の方がずっといい、私の最後で最高の恋の相手になってくれますか、って。」


ローリィは心から安堵の笑みを浮かべ、ポン、と足を叩いた。


「上出来だな。
…さて、記者会見が待ってる。
テンに髪色直してもらってこい。
一応のマニュアルは用意しといてやる。」


そう言って再び内線でセバスチャンを呼び出し、久遠から“蓮”に戻させるために部屋を追い出したローリィは、にんまりしながら昨日のデートを余すことなく隠し撮りした、ローリィ精鋭出歯亀部隊の報告映像DVDを取り出したのだった。