「蓮、取り敢えず主任達への連絡はしておいたよ
 …あれ?
キョーコちゃんは?」


電話を掛ける為に席を外していた社さんが、部屋に入って来ながら不思議そうにキョロキョロしている。


「…今日は色々ありましたからね。
随分と疲れていたみたいで…。
社さんを待っている間に眠ってしまったんで、今、ゲストルームに寝かせて来たんですよ。」


…社さんはそれだけで何かピンときたらしい。

こういうところ、特に鋭いんだよな、この人は…。


「…るぅえぇ~んんん…?
お前、キョーコちゃんに何したんだよ…!?」


まさかほんの数分でいけないコトしたなんて言わないだろうな?なんてとんでもない事を言われてしまった。


「バカな事言わないで下さいよ。
俺は何もしちゃいません。
ただ、今後の事についてちょっと話していたら真っ赤になってひっくり返っちゃったんです。
…何がいけなかったんだろうか。
そりゃまあちょっと浮かれてて真っ正直に話したとは思うけど…大した事言ったつもりは無いんですよ、俺。」


「…お前のちょっとは十分刺激的だよ。
特にキョーコちゃんみたいな純情乙女にはな。
…まぁいいや。
一応今日出来ることは済ませたから、話を聞かせてくれるか?
 お前とキョーコちゃんがデートっていうのは始めから知ってるけど、その格好は行き過ぎだろう。」


腰を落ち着けてさぁ聞かせて貰おう、と気合いを入れているのが分かる。

俺も姿勢を正し、真っ直ぐに向き合って話を始めた。


「実は…この姿が本来の俺なんです。
俺は日本人のクォーターで、4分の3は外国人なんですよ、社さん。
15歳の時に日本に来て、16歳で日本人の“敦賀 蓮”として再デビューしたんです。
…過去を封印して。」


そうして俺はありのままを社さんに打ち明けた。

本名も、両親が誰なのかも。


「…大変だったんだな。
当時を知らない俺にはかける言葉もないよ。
…ま、そういう生い立ちのお前なら、だからこそ納得のいく部分が多々あるけどな。」


「何がですか?」


「行動も言動もどこか日本人離れしていたよ、お前は。
少なくとも日本の男なら言わない様な台詞をさらっと言ってのけるくらいにはな。」


「…そうでしょうか。」


「ああ、人を褒めるにしてもあしらい方にしても、女性の対応にしても、な。
これからは気を付けろよ!?
漸くモノにしたキョーコちゃんを、一歩間違えたら悲しませる事になりかねないぞ?」


お前は不特定多数の女に期待させ過ぎる根っからのフェミニストだから、と釘を注された。


「…お、もうこんな時間か。
明日の1時には事務所に来いよ。
社長と直接対決してから対応しないとな。」


そう言って壁掛け時計に目を遣った社さんは、静かに立ち上がり、キョーコちゃんに宜しくな、と言い置いて帰って行った。








内心、社さんはかなりパニックだった筈です。

自分の家に着いてからわたわたして、この夜は眠れないかも…。