「こちらこそ宜しく。
…いやぁ、監督が言ってた意味がよく解ったよ。」
「…は?」
綺麗な姿勢は全く崩れる事なく、真っ直ぐにこっちを見る姿にまた好感を覚える。
「楚楚とした、水仙が似合いそうな子だって言ってたからね。
ねぇ、監督?」
「うん、確かに言ったよ。」
「そ、そんな…。
誉め過ぎです。」
…今時見ない反応をする子だなぁ。
そこがまたいいのかも…。
「ああ、そうだ。
…ねぇ、君もしかして敦賀君と共演してた?
《DARKMOON》で。」
「…あ、はい。
《DARKMOON》の緒方監督のお声掛かりで、“美緒”を演らせて頂きました。」
はにかむ彼女とあの凶悪に毒を含んだ美緒は全く重ならない。
俺も近衛監督も想像が付かないまま、敦賀君に視線を向けたが、彼は口許に笑みを浮かべて居るだけだった。
「…なんか、すごいギャップがあるなぁ。」
それだけを言うのが精一杯の監督に、彼女は笑って応えた。
「知ってる人以外ですと、私と美緒を結びつけられる人はそうはいませんから。
以前素の状態でマスコミの皆さんと一般の方の黒山の人だかりの前に立ちましたが全く気付かれませんでした♪」
…どこか楽しんでるみたいだなぁ、この子。
だからこその疑問が湧いた。
「…そんな話題性たっぷりの君が、カインの妹をするのは何故かな。
スケジュールだって詰まってるんじゃないの?」
「そのあたりのご心配は無用です。
今は細かい仕事の他はドラマが1本入っているだけですし…何より社長命令ですから、時間の融通は利きます。」
「ドラマが1本って…今は何を?」
「安南監督のお仕事で、《BOX-R》という作品が放送中なんですが、そちらに出させて頂いてます。
丸山留美さんが主演のドラマですが、ご存知ですか?」
「ああ、リアルなイジメシーンが話題の…。
リーダーの子が美人なのに怖くて、すごい印象的だよね、あれ。」
正直な感想を述べると、今度は照れくさそうにしていて、敦賀君はクスクス笑っていた。
「…良かったね、京子ちゃん。
印象的だって。」
観る人に印象的に映るって大事だしね、とにこやかに話す敦賀君に、まさか…と思いつつも聞いてみた。
「…つ、敦賀君。
もしかして…。」
「そのリアルなイジメシーンのリーダーの子が彼女ですよ。
お気付きになりませんでしたか?」
最早開いた口が塞がらない。
全然別人だぞ!?
ちらっと横にいる監督に目を遣ったが、監督は何故か上を見たり下を見たり。
時折彼女を見てはため息を吐いていたが、何が気に入らないのだろうか。
「…今回は出てもらえないけど、機会があったら一緒に仕事してみたいなぁ。」
考えておいてね、と言い残し、ふらふらと監督は部屋を出て行ってしまった。
俺も監督を追いかけなきゃいけない都合上、挨拶もそこそこにぽかんとしていた彼らを残して部屋を後にした。
「監督!!」
足取りの怪しい監督の横に並びながら顔を覗き込むと、何とも言えない顔つきになっていた。
「…か…」「すごい楽しみだなぁ~。」
こちらが声を掛けようとした所で話し始めた監督は、昼間のB・Jのアクションを見た時に勝るとも劣らない興奮で頬を紅潮させていた。
「前川さんもあの子見て凄く楽しみにならない!?
美緒にセツカにあのリーダー!!
誰が見たって同じには見えないよ!!
…あの子の背中には、色を持たないのに光輝く翅が有るんだ。
役者であれば誰もが欲して止まない透き通った翅。
あの子の翅が次にどんな色を映してどんな風に光輝くのか、俺は楽しみで堪らないよ。
今回は仕方ないけど、次の時は絶対!彼女を使う!」
創作意欲湧くなぁ~♪とうきうきしている監督の手綱を引くのもプロデューサーとしての俺の役目だな。
「…そうですね。
そのためにも《トラジック・マーカー》、最高の出来に仕上げましょう。
いい作品に仕上げれば次の作品の時、彼女は喜んで仕事を請けてくれますよ、きっと。
あの監督の作品なら、ってね。」
「ああ!!
いい手応えもあったし、明日からも頑張れるよ。
英気を養いに何処かで一杯やらないか?
前川さん。」
「いいですね。
明日に響かない程度にお付き合いしますよ、監督。」
笑みを交わしあいながら、俺と監督は夜の街に繰り出したのだった。
「…敦賀さん、打ち合わせは…?」
「…さぁ…。」
-END-
行き詰まっての逃避ネタが思いの外長くなっちゃいました。
途中、ご指摘頂いたので修正した部分を説明(いいわけ)します。
私は“娘”という字を“こ”というイメージでもって書いてたんですが、読む側からすると“むすめ”というごく当たり前な状況でして、非常に紛らわしいという事で“あの娘”を“あの子”に修正いたしましたです、はい。
読みにくくて大変失礼致しました。m(__)m
…いやぁ、監督が言ってた意味がよく解ったよ。」
「…は?」
綺麗な姿勢は全く崩れる事なく、真っ直ぐにこっちを見る姿にまた好感を覚える。
「楚楚とした、水仙が似合いそうな子だって言ってたからね。
ねぇ、監督?」
「うん、確かに言ったよ。」
「そ、そんな…。
誉め過ぎです。」
…今時見ない反応をする子だなぁ。
そこがまたいいのかも…。
「ああ、そうだ。
…ねぇ、君もしかして敦賀君と共演してた?
《DARKMOON》で。」
「…あ、はい。
《DARKMOON》の緒方監督のお声掛かりで、“美緒”を演らせて頂きました。」
はにかむ彼女とあの凶悪に毒を含んだ美緒は全く重ならない。
俺も近衛監督も想像が付かないまま、敦賀君に視線を向けたが、彼は口許に笑みを浮かべて居るだけだった。
「…なんか、すごいギャップがあるなぁ。」
それだけを言うのが精一杯の監督に、彼女は笑って応えた。
「知ってる人以外ですと、私と美緒を結びつけられる人はそうはいませんから。
以前素の状態でマスコミの皆さんと一般の方の黒山の人だかりの前に立ちましたが全く気付かれませんでした♪」
…どこか楽しんでるみたいだなぁ、この子。
だからこその疑問が湧いた。
「…そんな話題性たっぷりの君が、カインの妹をするのは何故かな。
スケジュールだって詰まってるんじゃないの?」
「そのあたりのご心配は無用です。
今は細かい仕事の他はドラマが1本入っているだけですし…何より社長命令ですから、時間の融通は利きます。」
「ドラマが1本って…今は何を?」
「安南監督のお仕事で、《BOX-R》という作品が放送中なんですが、そちらに出させて頂いてます。
丸山留美さんが主演のドラマですが、ご存知ですか?」
「ああ、リアルなイジメシーンが話題の…。
リーダーの子が美人なのに怖くて、すごい印象的だよね、あれ。」
正直な感想を述べると、今度は照れくさそうにしていて、敦賀君はクスクス笑っていた。
「…良かったね、京子ちゃん。
印象的だって。」
観る人に印象的に映るって大事だしね、とにこやかに話す敦賀君に、まさか…と思いつつも聞いてみた。
「…つ、敦賀君。
もしかして…。」
「そのリアルなイジメシーンのリーダーの子が彼女ですよ。
お気付きになりませんでしたか?」
最早開いた口が塞がらない。
全然別人だぞ!?
ちらっと横にいる監督に目を遣ったが、監督は何故か上を見たり下を見たり。
時折彼女を見てはため息を吐いていたが、何が気に入らないのだろうか。
「…今回は出てもらえないけど、機会があったら一緒に仕事してみたいなぁ。」
考えておいてね、と言い残し、ふらふらと監督は部屋を出て行ってしまった。
俺も監督を追いかけなきゃいけない都合上、挨拶もそこそこにぽかんとしていた彼らを残して部屋を後にした。
「監督!!」
足取りの怪しい監督の横に並びながら顔を覗き込むと、何とも言えない顔つきになっていた。
「…か…」「すごい楽しみだなぁ~。」
こちらが声を掛けようとした所で話し始めた監督は、昼間のB・Jのアクションを見た時に勝るとも劣らない興奮で頬を紅潮させていた。
「前川さんもあの子見て凄く楽しみにならない!?
美緒にセツカにあのリーダー!!
誰が見たって同じには見えないよ!!
…あの子の背中には、色を持たないのに光輝く翅が有るんだ。
役者であれば誰もが欲して止まない透き通った翅。
あの子の翅が次にどんな色を映してどんな風に光輝くのか、俺は楽しみで堪らないよ。
今回は仕方ないけど、次の時は絶対!彼女を使う!」
創作意欲湧くなぁ~♪とうきうきしている監督の手綱を引くのもプロデューサーとしての俺の役目だな。
「…そうですね。
そのためにも《トラジック・マーカー》、最高の出来に仕上げましょう。
いい作品に仕上げれば次の作品の時、彼女は喜んで仕事を請けてくれますよ、きっと。
あの監督の作品なら、ってね。」
「ああ!!
いい手応えもあったし、明日からも頑張れるよ。
英気を養いに何処かで一杯やらないか?
前川さん。」
「いいですね。
明日に響かない程度にお付き合いしますよ、監督。」
笑みを交わしあいながら、俺と監督は夜の街に繰り出したのだった。
「…敦賀さん、打ち合わせは…?」
「…さぁ…。」
-END-
行き詰まっての逃避ネタが思いの外長くなっちゃいました。
途中、ご指摘頂いたので修正した部分を説明(いいわけ)します。
私は“娘”という字を“こ”というイメージでもって書いてたんですが、読む側からすると“むすめ”というごく当たり前な状況でして、非常に紛らわしいという事で“あの娘”を“あの子”に修正いたしましたです、はい。
読みにくくて大変失礼致しました。m(__)m