ピンポンピンポンピンポン!!

インターホンのチャイムがけたたましく鳴らされ、すぐに来ると言っていた人物がやって来た事を告げていた。

…いくらなんでも早すぎる気がするんだけど…。


「…早いなぁ。」


感嘆の声を上げながら、久遠さんはドアを解除していた。

モニター越しにマンションのロビーに飛び込んで行く社さんの姿が見えた。


それから間もなく、今度はドアのチャイムがけたたましく鳴り響いた。


「蓮、蓮っ!!
俺だっ!!
開けてくれ!!」


余程慌ててたみたい、社さんが声を荒げるなんて初めて。


「はい、今開けます。
すいません社さん、わざわざ来て頂いて…。」


「そんな挨拶なんかどうでもいいよ!
お前、本当に蓮か?
俺は動画サイト観て我が目を疑ったぞ?」


兎に角上がってくださいと社さんを促して、久遠さんがリビングに戻って来た。
私は社さんの為のお茶の用意をするのに、キッチンに行っていたので出迎えが出来なかったのだけど、常にない社さんの慌てた声は自然と大きくなっていて、私のいたキッチンまで、まる聞こえだった。


「こんばんは、社さん。
せっかくのオフの夜を騒がせてすみません。」


社さんのお茶をトレーに乗せてリビングに戻ると、既にパソコンの画面を久遠さんと二人で見詰めていて、私が声を掛けたらまたびっくりした顔をしていた。


「…はぁ、相変わらず凄いねぇ。
確かにお前とキョーコちゃんだな、この動画。」

見事な変身ぶりだよ、と苦笑いする社さんに、久遠さんは笑って話し始めた。


「…社さん、観て貰った通り、不破の余計な邪魔のせいで周りのギャラリーに気付かれてしまいまして…。 で、動画に撮られてこの状態です。」


「済みません、私があの馬鹿に絡まれさえしなければ久遠さんに迷惑を掛けることもこんな騒ぎになる事もなかったんです!!
久遠さんは何も悪く無いんです。」


テーブルの脇に正座して深々と頭を下げた私を、社さんが制する。


「キョーコちゃんのせいだなんて、そんな事無いんだよ?
こういう事って分かる時には分かっちゃうものだからね。
…まさかお付き合い初日にマスコミにバレるっていうのも珍しいとは思うけど。
…ねぇ、キョーコちゃん。
さっきから蓮の事を何か別の名前で呼んでない?」


たしか“くおんさん”とか言ってたよね?と、社さんが首をかしげた。

…久遠さんが全部社さんに話すって言ってたから、私、気にしないで話しちゃってた!!

血の気が引く思いで久遠さんを見ると、久遠さんは苦笑いでも似非紳士の笑顔でもない、穏やかな笑みを浮かべていた。

…良かったぁ。


「それについては後で説明しますから、今日のうちに出来るだけの対応を済ませておきたいんです。
お願いします、社さん。」


久遠さんはそう言って頭を下げると、寺岡さんからのファックスを社さんに見せた。


「…これ…!」


社さんはその紙に目を通すと、三度目のびっくり状態になったみたい。


「寺岡さんからの社長撃退計画書と言いますか…、交際宣言をする時の被害拡散防止マニュアル…みたいなものです。
何しろあの社長ですから、普通の記者会見が結婚披露宴並みに派手になりかねないと思いましたから…。
気を悪くしないでくださいね、社さん。
俺が寺岡さんとした最後の約束なんです。
…いつか大切な人が出来て、社長を出し抜きたいと思ったら連絡するって。
俺が虎の巻を授けてやるからな、って言ってたんですよ、あの人。」


懐かしそうに言う久遠さんに、社さんも納得したように笑った。