「く…おん…さん…(///ω///)♪」


今まで名字でしか呼んだことの無い人をいきなり名前で呼ぶのは照れ臭い。

だからどうしてもさん付けしてしまうのは許して貰おう。

少し恥ずかしくて、小さな声になってしまったけど何とか口に出来た安心感からはにかみながら久遠さんを見上げると、久遠さんは口元に手を当て、赤面していた。

「…あの…久遠さん?
どうしたんですか…?」


「…なっ、なんでもないよっ!!
その…可愛いなぁって…。
…今度こそ、デート始めようね。」


そう言って差し出してくれた久遠さんの大きな手に、私は自分の手を重ねながら、本当に幸せな気分を味わっていた。


「…はいっ!!」



それからは本当に経験した事の無い事ばかり。

ランチを挟んでアトラクションに乗ったり、クルージングしたり。

本当に楽しくて、日が傾きかけるまで遊び回った。

そのまま1日が終われば、素敵な初デートの思い出になった筈だった。

そろそろ夕食にしようかという時間帯になった頃、信じられない事に、私達は遭う筈の無いあの馬鹿に遭遇してしまったのだった。



「…何だろう、あの人だかり。」


テーマパークの真ん中の広場に、イベントでもなさそうなのに不自然な程人が集まっているのに気付いて、私達も引き寄せられる様に近寄ったのだが、それが不味かった。


「…うぇっ!?
何でアイツがこんな所に…!」


私の呟きに、久遠さんもため息混じりで応える。


「…ギャラリーの話を総合すると、新曲のプロモーションビデオの撮影らしいよ。
全く間の悪い…!
今日みたいな混雑する日曜日の夕方なんて、常識はずれだよね…。」


そんな久遠さんの言葉に、私も苦笑いが出てしまう。

「…スケジュールの都合で今日しかダメだったらしいですよ。
追っかけファンの娘達の話を纏めると…。」


久遠さんも苦笑で返して来る。


「…なら、邪魔にならないように、さっさと離れようか。」


繋いでいた手を離して、久遠さんは私の肩に手を回してその場に背を向けようとした。


その時。


「おい、挨拶無しで行くとは、お偉くなったもんだな?
知らないふりするなんざ、百万年早いんだよ、キョーコのくせに!!」


自分のイメージが崩れる事が分かってないな!?

こんの馬鹿ショーがっ!!


「ああら、どなたかと思えばミュージシャンの不破 尚さんじゃありませんか!?
挨拶!?
はいはい、やってあげるわよ!
こんばんは、はい、さようなら!!
あんたなんかと話してたら折角の楽しい1日が台無しになるわっ!!
…久遠さん、行きましょう。
一応挨拶も済ませましたし、これ以上関わり合うと碌な事無いですから。」

「ちょっと待てやコラ!
それのどこが挨拶だよっ!!」


ムキになって怒るアイツ相手に、不思議な程冷静に話が出来た。