「…キョーコちゃんには最大にして最後の壁が残ってる。
異性を愛し、愛されるっていう壁がね。」


社の言葉にキョーコは勢い良く首を横に振る。


「そそそそんな!
私みたいな地味で色気の欠片もない女は、男性方が鼻にも引っ掛けません!」


その言葉に本人以外は盛大にため息をついた。


「…あのさ、そんな馬鹿な事言うのは、どっかの見る目がない馬鹿な幼なじみくらいなもんだよ。
今のキョーコちゃんの何処が地味で色気の欠片もないって言うのかな。
なぁ、蓮。」


「…そうだよ。
“DARKMOON”の打ち上げパーティーの時だって、みんな君に見惚れてた。
 ……本当に綺麗だったよ。」

正直に言うね、との言葉に、キョーコは真っ赤になった。


「敦賀さんの褒め言葉はリップサービスだって分かってますから…。
…でもありがとうございます。」


「…キョーコちゃん。
蓮は真面目に言ってるよ。
社交辞令でもなんでもない。
もう少し、男の気持ちも理解してやってね。
 …さて、と。」


ごちそうさまでした、と両手を合わせ、社は食器を持って立ち上がると、キョーコちゃんも帰ろうね、と促した。
既に11時半近い時間帯、蓮のマネージャーとしてキョーコや自分の送迎に大事な休息の時間を割くのは避けたい。
送ると言う蓮に、社はマネージャーとして休息を命じた。


「大丈夫だよ。
もうタクシーも呼んであるし、先にキョーコちゃんの下宿に回るから、心配するな。
明日は7時に出なきゃならないんだし、お前はもう休めよ!」


「お疲れ様でした。
明日は午後からご一緒出来ますね。
休める時に休まないといけませんから、ゆっくり休んで下さいね。
 おやすみなさい。」

そう言ってタイミング良く迎えに来たタクシーに、お邪魔しましたと社と共にキョーコは蓮のマンションを辞去したのだった。


慌ただしく二人が帰り、一人ぽつんとマンションに残される形になった蓮は、キョーコが出て行ったドアを見つめながらぽつりと呟いた。



「…自分が綺麗になった事や俺の気持ちも自覚して欲しいけど…、自分がいろんな男から狙われているって事も自覚して欲しいよ、…最上さん。」



一方、こちらはタクシーに乗り込んだ社とキョーコ。



「ありがとうね、キョーコちゃん。
依頼したわけでもないのに、夜食作ってくれて。
助かったよ。」


「いいえ、敦賀さんの壊滅的な食事情も、結果付き合って不規則にならざるを得ない社さんの食糧事情も知ってますから。
気になって仕方ないんです。
ですから私の我が儘に付き合って貰ってるようなものですし…。
ご迷惑じゃありませんか?」


気を遣うキョーコに、社は頭をぽんぽん、と撫でてきちんと言葉で返した。


「迷惑な訳ないじゃない。
あのまんまただ帰ったって、蓮が夜食なんか摂る訳がないし、俺だってコンビニ弁当食べるのが関の山だもんね。
キョーコちゃんのおいしい夜食で明日の英気を養えたって気がするよ。
本当にありがとう。」


自分の言葉に、本当に嬉しそうに笑うキョーコに、本当に綺麗になったと兄が妹を見るように思う社であった。