『京子さんに伺います!
敦賀さんのことを意識したのはいつ頃でしたか?』

その質問に、キョーコは戸惑いながらマイクを受け取ると思い出すように話し出した。

『えー…。
再会したのに気付いたのはずっと後でしたので、芸能界に入ると決めた初対面の時の印象は最悪に近かったです。
でもお仕事への真摯な態度とか、体調を崩してもやり遂げようとする自己の演技への飽く無き探求心とか見ているうちに、いつの間にか好きになってました。』

そもそも芸能界に入るきっかけとか動機が、今から思えば馬鹿みたいな理由でしたし、真摯に演技に取り組んでいた蓮さんには腹立たしかったのも当然でしたからと、笑って言うキョーコに、苦笑いするアイツ。

『でもそのきっかけと、動機が彼に引き合わせてくれたんですから、そこだけは感謝してますね。』

…動機ときっかけ…。
!!

『きっかけと、動機って何だったんですか?
それが無ければ再会できなかったって事ですよね。』

『幼なじみの男の子に言われたんです。
“お前みたいな地味で色気のない女、どうせ追いつける訳がない。
やれるものならやってみろ”って。
悔しくて、負けたくなくて、それで芸能界に入ったんです。』

会場が再びざわめき立つ。
俺が言った言葉が、今頃ひどいしっぺ返しになって返ってきた訳だ…。

『それは昨夜の収録で暴露していた、不破 尚さんの事ですか?』

『そうですけど、結果として今の幸せがありますから、正直に言えば今は不破さんの事なんてどうでもいいと思っています。』

縁を切りたくなるような幼なじみでしたからと、笑っていうキョーコが、自分の知らないまるで別人に見えた。
と同時に、見捨てられた絶望感のようなものに打ちひしがれている自分を自覚した。


「尚…。」

いたたまれなくなったのか、祥子さんはベッドの上にテレビのリモコンを置いて、支度すると部屋を出て行った。



ハッピームードの記者会見はまだ続く。
俺はただ見捨てられた者として、自分を見捨てた相手の幸せそうな会見の様子を逃げる事もできずに見入っていた。