「…何だよあの男。
おりょうもおりょうだぜ!
俺ってもんがありながら、あんなに…!」

役がそうなのだと分かっていても、明らかに自分と扱いが違う態度に、役を忘れ、素が顔を出しかけている尚だった。

「申し訳ありません、永遠さま。
…あれが例の金づる馬鹿でして…。
あ~、もうっ!
いい気分が台なしだわ。
…失礼しました。
おとっつぁん、話が途切れてごめんなさい。」

父に永遠を紹介し、おりょうは下屋敷に厄介になったいきさつを話した。

「…あんの馬鹿旦那!
そんな事しといて、よくもうちに顔出せたもんだ!
…おりょうっ!」

怒りに打ち震える利助の、普段の父からは考えもつかない態度におりょうは目を丸くした。

「は、はいっ!?」

「あの馬鹿旦那、お前が近くにいたら何しでかすか分かったもんじゃねぇ!
ここは永遠さまのご好意に甘えさせて貰って、しばらくご奉公させてもらおう。
よろしいでしょうか、永遠さま。」

「私は構わないよ。
むしろそう願いたいね。」

いつの間に意気投合したのか、利助と永遠はおりょう抜きで話を進め、早速明日から始めると決めてしまっていた。

「いいね、おりょう。
今すぐ支度して、このまま行った方がいいと思うんだ。」

永遠の言葉に戸惑わずにはいられないおりょうは、急ぐ理由を聞いた。

「え…!?
い、今すぐ!?
何故ですか?」

「今までのいきさつも聞いた。
さっきの様子からして、今夜にも力ずくで来る事も否定出来ないとなると、お前もお前の父上もここにいては危ない。
お前の父上だけを残しても居場所を聞き出そうとなりふり構わない手に出るかも知れない。
だから今すぐ、なんだよ。
家の腕の立つ者を二人、ここに居させてお前と父上は下屋敷に行こう。
いいね?」

こういう時の自分の勘は当たるんだ、と苦笑いしておりょう父娘に支度を急がせたのだった。



長屋の大家にはしばらく家を明ける事を告げ、長屋の仲間や懇意にしている人達には後から文を届ける事にして、三人は早々に長屋を後にした。
足がまだ治り切らぬおりょうの早さに合わせ、足取りはかなり緩やかだった。


「…少し急ぎたいな。
あ…、おい、そこの駕籠屋!」

永遠は運よく前を通り掛かった駕籠屋を呼び止め、おりょうを押し込むと少し遠回りして下屋敷に向かうように告げ、利助共々先に行かせる事にした。
後からつけてくる気配を断つためだった。



下屋敷に着くほんの少し前、駕籠に追い付いた永遠は、思った通り後をつけられていたと利助に告げたが、足止めしておいたから平気だともいったのだった。



一晩、おりょう父娘の代わりに長屋の留守を預かった手練れの藩士二人の元には、永遠の予想を違える事無く正太の腰ぎんちゃくのごろつき共がやって来たのは言うまでもない…。








反省、日々反省です。
更新がまばらな時間な割に内容がうっすいわ~。
orz