「よ~。
お~つか~れ~。」

撮影スタッフ行きつけの居酒屋の一角、文字通り隅っこの座席に、このところ数回連続で呑む前からふらふらの一団が陣取っていた。
前回同様、撮影スタッフのぼやきな会話である。

「お~。
先にやってるぞ~。」

「いいよ別に…。
はぁ…。
くたびれたぁ。」

「あの緊迫感、撮影終了まで続くんだよな…。
村雨さんや愛華ちゃんの和やかな雰囲気が無かったら、俺やってけないよ…。」

「…なんかあの2人がスタジオ入ってからというもの、1日に1回は何かしらトラブってる気がするよ、俺。」

「お前もそう思ってた?
…実は俺もだよ。」

「なんか呪われてるのか?
モノがモノだけに。
今日のなんかマジに慌てたよ。」

「直接被害出なかったのがラッキーなくらいだったもんな。」

「え、そういやあ今日は?
何にも無かったんじゃ…?」

「あったよ。
昼休み前、30分くらい撮影が延びただろうが。
あの時、俺とこいつと…あの娘で乗り切ったんだ。」

「あの娘?」

「セツカちゃんだよ。
マジ今日のトラブルはあの娘いなきゃ大パニックだったよ。」

「何があったんだ?
俺ら何にも知らないぞ?」

「…昼の弁当。
いつものとこのじゃなかったろ?」

「あ、すっげえ旨かった!
何処の店のだよ。」

「何処の店のでもねぇよ。
あの娘が作ったんだ。」

「「「「へ!?」」」」

「いつもの店が、運んで来る途中で交通事故の巻き添え食ってさ。
弁当全滅。
他に手配しようとしたけどとても間に合わないって涙ながらに連絡してきて。
助監督に報告入れてからコンビニ行こうとしてたら…。」



~以下 回想~



「…分かったよ。
じゃあコンビニ廻り頼むな。」

「「はい。」」

「…助監督さん。」

「お?
何か用かな、セツカちゃん。」

「立ち聞きしたけど、今からコンビニ廻りするの?
全員分、用意できるの?」

「あ~、いや、確実にとはいかないかも…。」

「……休憩時間までどれくらい時間あるの?」

「えーっと…。
さ、30分くらいかな…。
順調に行けば、だけど…。」

助監督、小娘相手にタジタジ。

「…撮影、30分だけ延ばして貰って。
それからお弁当代と、このお兄さん達と、撮影所の厨房、貸して。」

「…え?」

「…時間、ないの。
さっさと貸して。
アタシ、兄さんが仕事してる姿見るの好きなの。
だから仕事は最高の状態でやって欲しいの。
周りのヒトたちに足引っ張って欲しくないの。
解ったらさっさと貸す!」

「はっ、はいいっ!!」

助監督は慌てて金の入った封筒をセツカに手渡し、近くにいたスタッフ2人を手伝いに貸したのだった。




後編に続く。