「おいこら、そこの重量級の愛情持ちども。
サラが潰れるから離してやれや。」

呆れ返る、といった風情の社長のぼやくような文句に、ヒズリ夫妻ははっとなって腕の中の愛らしい存在に視線を移すと、彼女が真っ赤な顔で目を回していた。

「ああっ!?
サ、サ、サラ!
大丈夫かい?」

「サラ!?
ごめんね、つい!」

手を離して軽く揺すると、すぐに意識を取り戻したサラは、これまたそれは愛らしい微笑みを浮かべて首を横に振った。

「大丈夫よ、パパ、ママ。
恥ずかしいけど…嬉しいもの❤」



此処に容姿的百戦練磨実態的恋愛初心者のヘタレ俳優がいたらまず間違いなくハートを狙い撃ちであったろう、と、大人達は思った…。



「待ち合わせ場所はボスのオフィスだったからね、挨拶しないで出かける馬鹿はしないよ。」

社長室に戻ってから、クーの言葉にローリィも頷くと、キョーコに課題を追加した事を教えた。

「なぁ、今日は1日、最上君は“サラ”で過ごすんだろ?
ま、夕方の仕事までだが。
で、俺が課題を追加しといた♪
見破った者以外、あとは事情を知っている者以外の前で正体を明かすな、とね。
構わんだろう?」

「事後承諾ですみません。
より演技の幅を拡げるためにも必要かと思いましたので…。」

キョーコの言葉にクーも同意した。

「いいんじゃないか?
ならばあちこち行ってみたいな。
後々のフォローはボスに任せるからな。
じゃあジュリ、サラ、行こうか。
…よかったらマリアちゃんも一緒にどうだい?もちろんボス抜きで♪」

祖父とハリウッドスターの会話を黙ったままじっと見詰めていたマリアに気付いたジュリがクーに合図し、マリアに提案すると、マリアはぱぁっと顔を輝かせて喜んだ。

「よろしいんですの?
~嬉しいっ!
お姉様とおじ様たちともう一度お出かけ出来るなんて!
最高の休日ですわ~♪」

じゃあそういうことで、とヒズリ一家にマリアを含めた4人は、ローリィに手をひらひらさせて社長室を後にしたのだった。



「ずるいぞマリア~!
そんな面白い事で私をのけ者にするなんて~!!」

…後からローリィの叫び声が響いていたのは言うまでもない。