聞くんじゃなかったかな…。
私もマリアちゃんも目が点。

「ま、ある意味周りの人間がどれだけ君の演技に気付くか、を見るいい機会だろう?
だから君がサラ…だっけ?
クーの娘を演じていると気付いた相手の前でのみ、正体を明かしていい。
どうだ?
 やってみるか?」

ただ楽しいからだけって訳でもないのかな、社長さん。

「…解りました。
この部屋を出ましたら演技開始でよろしいですか?」

こっちが納得して頷くと、実に楽しそうに社長さんはひらひらと手を振った。

「おう、いいとも。
そうそう、君がここに着く少し前にクーから連絡が入ってな、30分程遅れるそうだ。
そういう訳だから、あいつらが来るまで事務所の中をうろうろしてろや♪」


余裕を持って行動したいが為に、待ち合わせ時間30分以上前に到着していた私は、軽く1時間程事務所の中をうろつかなければならなくなった。

「…いますぐスタートって事ですね。」

ため息混じりに社長さんを見遣ると、にんまりといや~な笑みを浮かべて頷き返してきたので、マリアちゃんが口を尖らせた。

「お祖父様!
せっかくお姉様にお会いできたのに、いきなり課題与えて、つまらないですわ!」

ぷりぷり怒る孫娘に、社長さんはさらりと言い放った。

「いいじゃねぇか。
事務所に不慣れな“サラ”を案内してやれや。
な、マリア。」

…やっぱり社長さんは口が上手い。
たちまちマリアちゃんの機嫌が直る。

「その手が有りましたわ!
さすがはお祖父様♪
では早速参りましょう、お姉様…じゃなくて、サラさん♪」

…ノリノリね、マリアちゃん…。

そうしてうきうきとマリアちゃんは私の後ろに回り込み、私を押し出すかのように社長室を後にしたのだった。





ヒズリ夫妻だけでなく、宝田祖父孫コンビにも遊ばれ決定。あわれキョーコちゃん。
そしてまた振り回される被害者続出…かな?