さて、予告通りに話が少し戻ります。
蓮さん視点のお話が欲しいのです。
誰がって…私がです。
こういう時のナンバーはいくつにすべきか考えて、結局こうなりました。




Side Ren



今日は最上さんの初主演作「華恋」のキャストの顔合わせを兼ねた台本の読み合わせがある。
俺との共演になって、一度も相談して来なかった最上さんの事が気になっていた。
最上さんらしいとも思いながら、もっと頼って欲しいとも思っていた。

スケジュールを予定通りにこなして、読み合わせの行われる会議室への通路で、気になっていた彼女が、遭って欲しくない彼と遭遇していた。


「…なんであんたがこんなところにいるのよ、ショータロー。」

俺が知ってる限りだが、あのバレンタインから彼女は不破に遭ってはいない筈だ。
明らかに嫌そうではあるが、怒り狂ってはいない様子が見える。
俺がした彼女へのお礼が効いたのかな。
役者の心の法則…。
気にする様子のない彼女に、不破は更に言葉を投げ付ける。

「おい、ファーストキスの相手に冷たいんじゃねーか?」

だが彼女には通じない。
動揺させたかっただろう不破の言葉を一蹴した。

「あんたなんかとキスしたことなんか有るもんですか。
役者にとっちゃただ唇がくっついただけでしかないのよ!
気持ちが伴ってなきゃね!」

吐き捨てる様に言って背を向けた最上さんに、苛立って腕を掴もうとする不破。
俺の身体は勝手に動いていた。

「おはよう、“京子”。
そろそろ時間だよ?
行こうか。」

敢えて芸名“京子”と呼ぶ事で、これは芝居の予行演習なんだよ、と合図してみた。
不破への牽制にもなる。