「……さっきはどうも。」

それだけ言うと、さっさとショータローの前を通過して、敦賀さんと並んで席についた。
ショータローは何か言いたげにしていたが、周りの目を気にして何も言っては来なかった。
おそらく祥子さんに止められたんだろう。

「…京子ちゃん。」

「!?」

今まで呼ばれた事のない敦賀さんからの呼び掛けに、心臓が跳ね上がった。

「周りの人の目もあるからね。
いない時はいつも通りにするから。
…いい?」

小さな声で話し掛けてきてくれる敦賀さんを見上げると、優しい微笑みを向けてくれていた。
それが何とも言えず嬉しくて、こっちも笑い返してしまった。
初めての映画出演の緊張感を、敦賀さんは解してくれたんだ…。
そう思ってほっとして、周りを見渡すと、見覚えのある先輩方の姿を見つけたので、挨拶に行くことにした。


「…え~、それではあらためて各配役の紹介を致します。
町娘、りょう役。京子さん。
檜原藩藩主の四男、檜原永遠役。敦賀蓮さん。」

助監督が一人一人紹介していく。
合わせて私も敦賀さんも挨拶するが、敦賀さんの隣、私とは反対側の席が空いたままだった。

「え~、りょうに片思いの大店の若旦那、正太役なんですが…。」

助監督が新開監督を見遣ると、頷いてマイクを取った。

「正太役は現在、まだ空いたままです。
蓮に張り合う若手を探してるところでね。
…続けてくれ、宮永君。」

「あ、はい。
続きましてりょうの父親役。」

次々と読み上げられていく配役の中に、以前お世話になった上尾さんや、DARKMOONで共演し、沢山勉強させていただいた飯塚さんも入っていた。
これほどの大御所差し置いて、私が主役で本当に良いの~!?




パニクるキョーコちゃんを書くのは楽しいなっと。