「………おい、蓮。
戻ってこい。」

社さんの言葉とパチンと鳴らされた指の音で、はっとなってから、いつもの敦賀さんに戻ってくれた。

「…あ……。」

少しの間、自分の様子に戸惑って苦笑いしてから、いつもの微笑みを浮かべて見せてくれた。
…こういうの、敦賀さんでもなるんだ…。
そういえばB・J役でカイン兄さんの時にもあったっけ。

「ご、ごめんね、最上さん。
いきなりでびっくりしたろう?」

何だかうろたえているように見えたけど、敦賀さんの事だから何か考えがあっての事よね。

「あ、は、はい。
それはもちろんびっくりしましたけど、先程も申し上げましたが、私があの馬鹿の相手をいつまでもしないで済むようにして下さったんですよね。
ありがとうございました。」

嬉しくて笑ってしまったけど、敦賀さんは無表情になってしまった。
…なんでかな。

「………そう。」

敦賀さんはそのまま黙ってしまったけど、社さんが私たち2人の背中をぽん、と叩いた。

「さ、2人共。
時間だよ。行こう!」

流石は敏腕マネージャー、社さん。
担当俳優だけじゃなく私の心配までして下さる。

はい、と元気に返事をして部屋を出て振り返ると、敦賀さんと社さんが何か小声で話していた。
何を話していたかは聞こえなかったけれど、二言三言で話を済ませ、小会議室を後にした。


「…げ。」

17歳の女子高生が発するにははしたない声だと分かってはいたが、出さざるを得なかった。
さっき敦賀さんと口裏を合わせて上手くだまくらかした相手、ショータローが顔合わせの会議室にいたからだった。




ごまかした筈が違った方向に?