負けず嫌いのキョーコには、最も嫌な言葉だった。
やりもしない内から、出来ないと決め付けて逃げるなんて。
さらにそこで奏江からトドメの一言が。

「やると言ってしまった以上、たとえどんな役でもやるのがプロの役者だわ。
逃げるなんて真似したら私、あんたをライバルとは認めないわよ?」



結局、キョーコは台本を読み漁り、苦悶しながらも蓮に相談して引きずられたくない一心で役作りに励んだ。

(あの敦賀さんと同等に渡り合うなんてまだまだ私には恐れ多いけど、教えを乞うた時点で負けを認めたようなものだわ!
今回は共演者なんだもの、始めから教えて貰ってたんじゃダメよ。
先ず、読み合わせで雰囲気を掴まなきゃ!)

蓮からの初の映画主演に対する気遣いのメールにも、キョーコは“精一杯頑張る”としか返さなかった。
ラブミー部の依頼も、読み合わせ当日までなかったために、蓮と会うことも無かった。


「よう、元気そうだな。」

配給会社の会議室に顔合わせに来たキョーコは、後ろからの声に振り返り芸能人とは思えない程嫌そうに顔を歪めた。

「…何であんたがこんなとこにいるのよ。
ショータロー。」

心底嫌そうに距離を取りつつ、言うなと言われている彼の本名を敢えて口にした。

「…てめ、その名前で呼ぶなって何度言わせんだよ。
仕事に決まってんだろ。
………?」

そこまで言うと、ショータローは少しの間キョーコを見詰め、首を傾げた。

「…何よ。
まだ何かあんの?
仕事でしょ、さっさと行きなさいよ。
私ももう行くから、じゃあね。」

その姿を視界に入れるのも、言葉を交わすのも嫌と言わんばかりに背を向けたキョーコに、ムッとした様子でショータローは声を掛けた。




さぁ、漸く馬鹿男登場。
…このペースだと全部終わるのに連載終わるかも…。少し削れるとこ探そう。