キョーコがカフェテリアから見えなくなったところで、椹に近付く人影が一つ。
近付いて来た人影に、椹は深くため息をついてから振り返り、若干の罪悪感を持って見詰めた。

「…はい、お返ししますよ、ミニマイク。
本当にいいんですか?
こんな形でオファー請けさせて。
あの娘、台本のタイトルすら見てないし。
共演が誰かも知らずに請けちゃいましたよ。」

振り返った先には、最早突っ込む事さえ事務所内にいない、カフェテリアにはそぐわぬスコットランド民族衣装スタイルの社長が立っていた。

「構わん。
というかそれが目的なんだよ、椹。
彼女が気付く前に、新開君にオファーを請ける事を伝えてくれ。
何、責任感のある娘だからな。
いまさら断るなんざ出来ないから大丈夫だよ。」

完全な騙し討ちですね、と呆れ顔の椹だったが、何分にも社長命令。
逆らう気はまるでなかった。
どんな形にせよ、今回の仕事は間違い無く“京子”のステップアップに繋がる仕事だと理解していたからだった。


カフェテリアを後にしたキョーコは、うきうきと軽い足取りでラブミー部の部室に向かっていた。

「初映画で初主演…!
信じられないくらい!
まさか夢?
夢じゃないの?
そうよ、きっと夢だわ!
ほっぺつねったらきっと夢から覚めるのよ…。」

ぶつぶつ言いながら、部室の入口で頬をつまもうとしていたキョーコの手を、骨張った大きな手が優しく包み込んで止めた。

「こらこら、何しようっていうのかな?
この手は。」

耳元に響くテノールボイスに、キョーコは思わず悲鳴を上げて飛び退いた。

「うきゃあぁっっ!
つ、つ、つ、敦賀さんっ!
セクハラは止めて下さいぃぃ~!!」




…やっと出て来た。
なのに一言だけだよ。
がっくりorz