そう言って、春樹はICレコーダーを操作し始めた。

「これは隠し録りだから、音が少しこもってるけど…。
新開さん達が帰った後の音声よ。」

操作し終えたICをコトリ、と卓上に置いたすぐ後、聞き慣れた春樹の声が出てきた。

『面白い人達でしょ?ああいう人達を引き付ける、京子ちゃんってすごく魅力的な素材だわ。
歌手だったら絶対私がプロデュースしたいところなんだけど…。
あ、そういえば尚?貴方“DARKMOON”の撮影所で何かやらかしたらしいわね。
あのドラマの監督、私の幼なじみなんだけど、後で私経由で注意しといてくれって言われちゃったわよ?
…一体何したのよ。』

『べっつに~?たいした事してないぜ?
ちょっとあいつに花束渡してやっただけだよ。』

『嘘ね。そんな事だけで啓文…緒方監督から苦情が来るなんて有り得ないわ。
何しでかしたのよ?』

『…だからたいした事じゃねーよ。ちょっと人前であいつにキスしてきただけで…。』

『はあ?それのどこがたいした事じゃないって言うのよ。
プライベートでしょ?
何をどうしたら“花束渡しに行った”が“人前でキス”になるって言うの?』

確かに少し音声がこもってるけど、聞こえないほどじゃない。
僕らはICの声に聴き入っていた。

『そもそも、なんで花束なの?
何かお祝い事でもあった?』

『あ?ああ、まあね。
結局間違いだって分かったんだけどさ。
あいつがバレンタインデーに手作りチョコを作ったって話を聞いたから、男と付き合った事のないあいつにもついに彼氏が出来たのかと思って、祝いの花束くらい幼なじみとしては渡してやろうと思ったんだよ。』




麻生さんの忍耐に拍手ものなICの内容はまだまだ続きます。