○ 「時間帯」/「標準時」
北緯1度!(かろうじて北半球です) という殆ど赤道直下に位置する為に、当地シンガポールでの日の出、日の入りは年中ほぼ変わらずで大体 午前7時に午後7時です。
(わかりやすくっていいですね)
これだけですと、特に違和感は抱かれないかと思うのですが、当地シンガポールの「標準時」は、(例えば) 日本の「標準時」(協定世界時 Universal Time,Coordinated「UTC+9」)に較べて-1時間(1時間遅れ)です。
というと「あれ?」という疑問が起きます。
単純な地理の問題ですが、通常は経度が15度違うごとに1時間の時差があって然るべきです。
(360度÷24時間=15度/時)
シンガポールの経度は東経103度。日本の「中央標準時」の基準にされていた経度は東経135度。つまり経度が30度以上違うのですから普通であれば-2時間(2時間遅れ)の時差があって然るべき。
実際、シンガポールよりやや東にあるベトナム(ハノイもホーチミンも共に大体東経106度)やカンボジア(プノンペンは東経105度)は-2時間(UTC+7)。 シンガポールと似たような経度にあるラオス(ビエンチャンは東経102度)やタイ(バンコクは東経100度)も同様に-2時間(UTC+7)になっています。
早い話、インドシナ半島の4カ国は同じ「UTC+7」の時間帯を使っているという事です。
一番西に位置するミャンマー(旧称ビルマ:首都ヤンゴンは東経96度)のみが更に30分遅れで日本との時差は-2.5時間(UTC+6.5)になっています(半端な時差ですね)。
シンガポールは香港(東経114度)との競争を意識して同じ「UTC+8」の時間帯をあえて使っているという話しを良く聞きますが、ASEAN10カ国の内、シンガポールと同様の時間帯(UTC+8)を使っている国としては、マレーシアとブルネイ(ボルネオ島のマレーシア領内に飛び地のようにある小さな王国)とフィリッピンがあります。
(インドネシアについては、ややこしいので後述)
シンガポールのような赤道直下の小国では、冒頭述べましたように島内どこでも一年中、朝7時に夜が明け、夕方7時に日が暮れますので現在の「標準時」には特に違和感無く、香港との対抗関係の理由等どうでもいいのですが、マレーシアのような、西のペナンの東経100度から東のボルネオ島サンダカン辺りの東経118度まで20度近くの経度差がある国において国内を「UTC+8」の一つの時間帯に縛っているのはちょっと無理があるような気がします。(尤も、日本でいうと沖縄、那覇の東経127度と北海道、根室の東経146度との間の経度差のようなものですが。)
ただ、マレーシア領内で「UTC+8」っていうのは本来ボルネオ島あたりで妥当であって、首都KL(東経101度、北緯3度)ではやや早過ぎる感がありますので、マレーシアの標準時は首都ではなくボルネオ島にあわせてあると考えると面白いですね。
フィリッピンは東西経度差がそれ程無くマニラの位置も東経121度と上海や台北とほぼ同じですので「UTC+8」は妥当です。
で、ASEAN残りの一国インドネシアですが、さすがにこの東西に伸びる大国には西部、中部、東部の3つの時間帯があります。
この国は西のスマトラ島西端の東経95度から東のイリヤンジャラ(ニューギニア)島中央部の東経141度線で引かれたパプア・ニューギニアとの国境まで米国本土の東西経度差とほぼ同じの46度程の差があります。(東京の東経139度よりも更に東の東経141度までインドネシアの国土は広がっているというのはちょっと意外ですよね)
ただ、東部時間(UTC+9)はパプアのみ、中部時間(UTC+8)はバリ島やスラウェジ島等で使われているもので、人口が集中する首都ジャカルタ(東経106度でシンガポールより東に位置し、南緯6度でASEANの中で唯一南半球にある首都です)があるジャワ島やスマトラ島では西部時間(UTC+7)が使われています。
もっとも、スマトラ島西端からジャワ島東端までの経度差もマレーシア同様20度程ありますので、これも体感的には結構違いますね。
さて、東南アジアのタイムゾーンの話は以上なのですが、「異常な」タイムゾーンの話として中国があります。
この国は西端が東経75度、東端が東経135度と東西経度差が60度もある広大な国で、本来であれば4つの時間帯があって然るべきところが、なんと全国中「UTC+8」の一つの「標準時」で縛っています。
要は北京(北緯39度、東経116度)に中国全土を合わせており、上海(東経121度)、香港(東経114度)といった沿海部主要地域にとっては同経度の為不都合がないから良いということでしょうか。
しかし、夜9時だから子供はもう寝ろと言われても、西の新疆やチベットではまだ太陽が出ていたり、逆に朝7時だから起きろといってもまだ深夜のように暗かったりするのですから西の人にとってはたまったものじゃありません。中国の民族問題にはタイムゾーン問題も少なからず絡んでいるような気がするのは私だけでしょうか?
そもそも、人の営みは本来「(その地において)日が昇れば起き、日が暮れれば寝る」というものであって、国家の都合である日突然この地域の「標準時」はxxとする、なんていわれても東西差がある国においては必ず不具合が生じます(経度15度毎のタイムゾーンを設けたとしても境目に住む人にとってはややこしくてかないません)。
「東西差がある国」にとっての「標準時」問題と言うのは、「利害対立者が混在する国」における「政治決定」問題のようなもので、土台「無理筋」な命題のような気がします。
要は「標準時」なんていうものは単に便宜的なものにすぎませんので、人の営み自体は「標準時」に縛られること無くその地毎の自然な営みであるべきなのでしょうねえ。
そういえば、先程若干無理があると述べたマレーシアとインドネシアですが、どちらも国民の大半はムスリムです(インドネシアは世界最大のムスリム人口を擁する国です)。
つまり日々の5回の礼拝のうち最初は「夜明け前の礼拝(ファジュル)」から一日は始まるわけです。
夜明けというのは、その地における夜明けであって、(日本全国どこでも6時半からのラジオ体操ではなく)それが「標準時」で何時なのかは関係ありません。従って「標準時」自体にはそれ程意味が無いのかもしれませんね。
ファジュルの礼拝の時を知らせる呼び声(アザーン)が東から西に順次動いていく(つまり地球の自転と共にその地その地が起き上がり連綿と続いていく)様を改めて想うと結構すごい話しですね。