…………………「あやかし掃討」第1話
なぜ私がここに?
目覚めれば、見覚えのない景色。
むせ返るような、焦げた匂い。
迫り来る炎。
硝煙に巻かれ、息が苦しい。
ガラガラと何かが崩れる音。
ここは、一体…?
ガタンと目の前の襖が倒され、獣のような目をした男が現れた。
「見つけたぞ、早くこちらへ。」
理由など分からぬまま、男に手を引かれ、燃え盛る炎の中を突き進む。
途中、行く手を阻むように現れる無数の影。
男は、声無きままに、縦横無尽に切り捨てていく。
「まーーーーてーーーーー
歪んだ低い声が、地響きのように唸りをあげる。
紅蓮の炎は、蛇のごとく追いすがり、大きく口を開けて、私たちを飲み込もうと巻き上がった。
「こっちだ!」
男は私を抱えるようにして、猛火の中を駆け抜ける。
ザザッ…
男の足が止まった。
行く先を閉ざされて、後ろを振り向けば、迫りくる炎の大蛇。
背中から吹き付ける熱風に煽られて、身体が前のめりになる。
眼下は、暗黒の川。
轟々と、渦巻く水の流れる音がする。
「くそっ!」
男は刀を構えたまま、大声で叫んだ。
「飛べっ!」
暗黒の激流に足がすくむ。
「行けっ!必ず助ける!俺を信じろ!」
私は大きく息を吸い込み、闇に向かって身を投げた。
ザンッ!
高く水しぶきが上がり、ゴボゴボと身体が沈んでいく。
息が…できない…
身体に力が入らない…
朦朧とした意識の中、突然腕を掴まれ、唇を押し当てられた。
苦しかった息が楽になり、その腕にしがみつく。
「必ず助ける。」
頭の中で、そう聞こえた気がした。