「‥さっきは、ごめんね」

敦賀さんの言葉に私は余計自己嫌悪に沈んだ。

だって、男の人にとってあんなの意識さえしていなければ何でもないことだろうし。だから敦賀さんは全然意識していないからああいうことをしたんだろうし‥。


(あ‥拙い)

拙いことに、そう思ったら自然とポロポロと涙が零れ落ちてきてしまった。


(‥ッ‥恥ずかしい。たかたが自分が意識されてない事実を目の当たりにしただけじゃない。彼が謝っているのに泣いたら私ウザいだけじゃない!)


「‥最上さん。そんなに強く擦ったら痕になっちゃうから‥ね?無理に涙を止めなくて良いから、そこの公園のベンチに座ろう?」

でも敦賀さんは怪訝な顔をするでもなく優しく私の体を引き寄せ、励ますようにポンポンと肩を叩いたのだった。


◆◆◆


「‥落ち着いた?」

敦賀さんが自販機で出したホットのお茶をカイロ代わりに持たされ、漸く涙が止まった頃にはすっかり温くなってしまっていた。


「‥はい。お騒がせしてしまってすみませんでした。私に免疫がないばかりに手間を掛けさせてしまって」

幸い泣くだけ泣いたら逆に頭はスッキリしていて、漸く私は平常心を取り戻すことが出来たのだった。


「‥手間なんて思ってないし、逆に俺は最上さんがああいうことに免疫があったら怒っていると思うから、そんなの全然気にしなくて良いからね?」


「‥恐れ入ります‥。でも免疫ってあればある程男の人は一緒に居て楽しいんじゃないですか?」

私に比べる対象はないから、どうしても敦賀さんの言葉を素直に受け止めることが出来なかった。だから


「‥冗談じゃない。俺は最上さんにそんな風になって欲しいとは思わない。免疫なんてなくて良い。俺はそのままの最上さんが好きなんだから」

通常なら有り難くて嬉しい筈の敦賀さんの言葉が何故か勘に障ってしまい。


「――私、もうそんな子どもじゃないです。私だっていつまでも変わらないままで居られる訳ないじゃないですか!」

何も変わらなくて良いことは、何も変えるなと言われているようで。

なのに自分の心だけは大きく変わってしまって‥激しいジレンマが私を苦しめていた。しかし


「最上‥さん」

驚いたような彼の表情に私はハッと慌てて自分の口を手で覆ったけれど‥全ては遅かった。

あやすようだった彼の瞳が、真っ直ぐに私の姿を捉えていたのだったから。