『ふぇ?』

携帯越しから聞こえた裏返ったような君の声に、相当動揺していることを悟った俺は慌てさせないように何気ない素振りで話掛けた。


「ん?仕事大丈夫だった?疲れてない?」


『あ‥はい。大丈夫です//』


「そっか。あまり無理したら駄目だよ?ところでドラマの進み具合はどんな感じ?滞りなく進んでいる?」

君の声音から、体の疲れはひとまず安心というのは伝わったが‥やはり心の面が気になり俺は少しずつ核心に触れていくのだった。


◆◆◆


『ドラマの進み具合はどんな感じ?』

彼の‥敦賀さんの言葉に一瞬ドキッと心臓が跳ねたような気がした。


(ああ‥ここで洗いざらい言ってしまいたい)

けれど‥喉元まで言葉は出掛かってくるのだけど‥やっぱり上手く言葉に出来なくて、私はただ押し黙ることしか出来なかった。


『もしかして‥演技で行き詰まっている?それとも何か辛いことがあった?』


「あ‥ええと‥」

『沈黙は肯定』の言葉をすっかり忘れていた私はしどろもどろになってしまった。


『‥もしかして現場で何かあった?対立シーンで役柄からの感情移入が抜けなかったとか』


「‥!あ‥はい。そうなんです。実は‥」

しかし、彼の憶測に(そうだ!そういう設定だった(泣))と改めて気付かされ。

私はずるいことだと分かりつつも‥私と天宮さんを置き換えて彼に相談を求めるのだった。


(‥天宮さん、名前借りてごめんなさい(泣)でも私だけじゃ苦しくてどうにもならなくて‥本当にごめんなさい)

心の中で、神様と天宮さんに懺悔をしながら。


◆◆◆


「そうか‥それは大変だったね」

俺の助け舟にどうにか、ちょこんと乗ってくれた君に感謝をしながら、俺は現在状況とこれからの事を瞬時に算段する。


「‥でもきっと彼女なら乗り越えられるからキョーコもあまり気負わないで?」

そうすると、導き出されるのは無難な言葉。


『そう‥ですよね。私が気負っても仕方ないですよね//つい、演技に魅了されている内にまるで自分のことのように感じちゃいました』

あはは、と何事も無いように笑う君に胸が痛んだ。と、同時に俺は改めて君を救うことを誓った。


「ん‥魅了されるのは当たり前だよ。だって『アキ』は想いが一途という所が、君そのものだからね。『アキ』が幸せになれる展開を俺も心から望んでいるよ。」

ほんの少し‥君に伏線を残しながら。