(‥里見監督‥なんて無茶振りなのかしら)

私は、頭の上に暗雲が立ち込めて途方に暮れている京子さんを見て、同情を禁じ得なかった。

(確かに、ね?私達は演じさせて頂く側で、どんな役もシチュエーションもこなすのが役者魂の見せ所だけど‥こんな突然の無茶振りは‥京子さんが可哀想すぎるわ)

アンハッピーエンドからハッピーエンド。

視聴者にとっては好ましい展開だけど、演じる側からすればいきなりの方向転換を余儀無くされていて。


(しかも‥この雰囲気‥拙すぎるわ)

私は、里見監督から発表された『台本の結末書き換え』に京子さんと私達女性陣を除く男性陣達‥特に京子さんと共演した男性達の興奮したような盛り上がりと熱気に‥私は冷や汗が止まらなかった。


『なあ‥これって敗者復活戦ってことだよな?』


『‥もしかして俺達の誰かが京子さんに選ばれるかも知れないってことだろ?』


『バカ!京子さんじゃなくて『アキ』にだろ?何、お前実はプライベート狙い?』


『そういうお前だって期待してる癖に』


所謂‥女子の『高嶺の花』の存在に対するトークがそのまま男性トークにシフトされ‥私はひたすら不安な気持ちになってしまった。


(監督!ハッピーエンドは良いけど‥何、京子さんを危険に晒しているのよ!アンタ(男)達も息捲くんじゃないわよ!ていうか何コレ‥蓋開けてみたら彼女持ちの男性以外、皆、京子さん狙い?)

だから、本来であれば、妬み嫉み嫉妬の嵐になる筈の女性陣達も

「‥すごい人気ね‥京子さん」

「うん‥普通だったら羨ましいって思うけどね。現実にこんなハーレム状況って‥。本人が望んでれば嬉しいことだけど。でもさ」


「「全く望んでなかったら‥すごい苦痛よね‥」」

京子さんのあまりにも沈んだ表情に、キツい言葉を浴びせる女性陣達は誰一人としていなかった。そこだけがある意味救いだった。

だから私を含む女性陣達はソッと京子さんを見守る形を取ったのだけれど。

‥空気を読まない男達は一筋縄ではいかなかった。


「「ねえ‥俺がもしその『最後の男』役に抜擢されたら宜しくね?」」


「‥‥」

皆、演技に定評がある人物達の為、全員自分に自信を持っているだけに余計性質が悪かった。
京子さんはうなだれるように頷くことしか出来ず私は見ていて胸が痛くなってしまった。

そして、私はこの現状を打開して欲しくて『彼』に連絡を取ったのだった。