「京子さん‥話があるんだけど良いかな?」

それは大人の恋愛ドラマ『ラバーズ』の収録直後のこと。

私は『ラバーズ』の里見監督に何故か呼び止められ、緊張した状態で話をすることとなった。
そして私は里見監督から告げられた思わぬ言葉に、驚愕してしまった。

それはまさしく青天の霹靂だった。


◆◆◆


「‥ごめんね?京子さん‥落ち着いて聞いて欲しいんだけど‥実は脚本の内容を大幅に変えようと思っているんだ。」


「え、今からですか?既に半分以上撮り終わって‥ラストまであともう少しなのに?」


「ああ。今までの撮りは勿論使うよ?ただね?思い切って結末を変えようと思うんだ!」


「え、ええ!? 」

私は里見監督の言葉にただ驚愕することしか出来なかった。


(だって、今まで撮りの直しは聞いたことあるけど‥結末を変えるなんて聞いたことないもの‥)


「京子さん‥本当にごめんね?最初は僕も『アキ』には誰も選ばせないで、この先ずっと男を翻弄していく展開にさせようと思っていたんだけど‥」


「ええ‥その筈でしたよね?」
正直救われることの無い展開。でも、私にとってはある意味救いのある展開の筈だった。


「でもね‥京子さんの演じる『アキ』を見て考え方が変わってきたんだ。いくら過去や背景がどんなものであっても‥愛することを止められない『アキ』を幸せにしてあげたいなって」


「里見監督‥」


「‥まあ‥それはもう一度緒方監督の『Dark MOON 』を観直した結果でもあるんだけど‥ね。自分の考えだけでは自信が持てなくて‥つい観直してしまったよ。でもそれで確信が持てた。僕はやっぱり『アキ』を幸せにしてあげたい。京子さんが演じた『未緒』のように、全てを許すことは出来なくても自分を許す結末を迎えさせてあげたい」

「里見監督‥それはつまり‥」
私は里見監督の言わんとしていることを悟り、心臓がドクドクとし始めたのを感じた。


「そう‥京子さんも予想がついたと思うけど‥僕は『アキ』に選ばせたいと思うんだ。文字通り‥アキに『最後の男』をね」

「――‥お相手は?」

里見監督の言葉に私は声を出すだけで精いっぱいだった。


「‥うん。実はそこが問題なんだけど‥無難に考えれば今まで共演した男性陣からになるけど」


「そう‥ですか」

監督の言葉に、私は目の前が暗くなるような感覚を覚え‥途方に暮れてしまうのだった。