「天宮さん、ちょっと良いかな?」

TBMに収録の仕事に来ていた俺は、かつてキョーコが所属していたラブミー部の現部員である天宮さんに声を掛けた。

‥偶然を装ってはいるが、実はこれはれっきとした情報からだったりする。なので‥


「芸能界の大先輩が私に何のご用でしょうか?‥というより廊下で大先輩に気さくに声を掛けられる程、私は偉くないのですが?」

彼女は、言葉は丁寧で顔はニコニコと笑顔だったが‥その中味はもの凄く警戒心を露わにしていた。


(‥正しい訳をすると『わざわざ目立つことをして何を企んでいるのか?何が目的なんですか?』と言った所か‥)

仄黒いオーラを纏った彼女と対峙していると、確実に彼女は俺を特別視しないことを悟り、俺はニッと口角を上げた。


「‥俺の大事な恋人のことだよ。‥俺の大事なキョ‥「あ!敦賀さん!そういえばそうでしたね!私、敦賀さんのマネージャーさんから書類預かってて、渡す予定でしたね!ああいけない!私ったら楽屋に置いてました。すみません!すぐ済みますので中へどうぞ!」


(‥流石だな)

俺は皆まで言うことを許されず彼女の言葉に思い切り遮られ‥天宮さんの楽屋に半ば強制的に入室させられることとなった。

◆◆◆


「わざわざ楽屋に招かなくても廊下で良かったのに」

俺が敢えて、殊勝な態度を作って思慮深く言えば、彼女は冴え凍る瞳と声で俺を牽制した。


「‥あんな人の行き交う廊下で京子さんの名前を出そうとする人を野放しに出来ません。で?さっさと用件言って貰えますか?」


「‥キョーコに対する愛がつい溢れた結果だから、そうあまり睨まないで欲しいな?じゃあ、単刀直入に言うけど『ラバーズ』で天宮さんはキョーコと共演するよね?」


「‥?ええ。そうですよ?それがどうかしましたか?」


「で、主役はキョーコで、キョーコに恋人を奪われて苛める役が天宮さんだよね?」


「‥そうですけど‥何か?京子さんをあまり苛めないでやってくれとでも言いに来たんですか?それとも‥Σッ」

些か、怪訝そうに俺を見て話す天宮さんは、それ以上言葉を紡ぐことはなかった。


「いや‥話してくれてありがとう。天宮さん。大丈夫‥大事な演技対決に口を挟むなんて無粋な真似はしないから‥」

俺は、笑顔で微笑した筈なのに何故か彼女は青ざめて俺の服の裾を掴んだ。

そして、俺はここで漸く本題を切り出すことに成功したのだった。