ヨーロッパ映画通信


ミケランジェロ・アントニオーニの1966年作品『欲望』。1967年カンヌでパルム・ドールを受賞しています。原題の『BLOW UP』は「爆発」という意味で良く使われる言葉ですが、それとは全く別に「(写真の)引き伸ばし」という意味もあるそうです。1993年頃の日本で60'sブームが起きた時にこの作品がかなり再流行し、私もその頃から少なくとも3回は鑑賞してますが今回改めて鑑賞しなおしました。

 

 

 

1960年代中頃のロンドンのある日、写真家の主人公が公園で男女の逢引をひそかに撮影する。単なる逢引の写真ではない雰囲気を感じた主人公は撮影したフィルムを現像するが、そこには想定外の不審な点があり、さらに引き伸ばした写真には殺人の過程が写っていた・・・という物語です。

 

 

 

 

 

 

完璧な作品とはまさにこのことです!非の打ち所が見つかりません!芸術的映画作品の歴史の中でも最高峰に位置する作品のひとつだと思います。演出と演技の完璧さ、完璧な撮影と編集からなる完成度の高い映像、当時最先端でありながら現代でも魅力的な音楽構成、そしてなによりも扱っているテーマの深遠さなど、どの点をとっても完全無欠な作品です!

 

 

 

 

 

 

物語自体がサスペンスの体を成しているのですがこれがまた非常にうまいサスペンスでありながら、あっさりとその物語性を捨て去ってしまうあたりは、現代の作家でいうとミヒャエル・ハネケのような感じがありますね。というか逆にハネケがアントニオーニの影響を受けているのでしょうけど。

 

 

 

 

 

 

「芸術家と現実社会の関係」 「芸術的価値とは何か」というテーマを失望を基本に描いたこの作品ですが、芸術家が世俗と乖離していくというテーマは、この『欲望』の6年前の1960年に製作されたフランソワ・トリュフォーの『ピアニストを撃て』
と共通した部分と言えます。しかしながら描き方が全く違い、『ピアニストを撃て』はやはりトリュフォーらしい親しみ易さの中に深いテーマを交えているような手作り感のある小規模作品でなのに対し、この『欲望』はこれでもかというぐらいにアントニオーニらしい抽象的表現を羅列させた最後に大エンディングを迎えるという所謂大作になっています。もちろん、1960年のトリュフォーと1966年のアントニオーニの映画作家としての立場が全く違うので作品の価値や存在意義も大きく違って当然ですが。

 

 

 

 

 

 

60'sカルチャー好きな私としては本当にヨダレものの映像満載なのですが、その中でも最も凄いのはやっぱりヤードバーズの演奏シーンですね。しかもこのヤードバーズがジェフ・ベックとジミー・ペイジが同時在籍してる時期ってのが凄いですよね。ここで演奏している曲は「Stroll On」という曲で、名曲「Train Kept a Rollin'」の替え歌なのですが、この元曲はエアロスミスやシーナ&ロケッツにもカバーされた名曲で、二人のボーカルが違う歌詞を同時に唄うという非常に面白い曲になっています。

 

 

 

 

 

 

60年代のスウィンギン・ロンドンという非常に貴重な時代のアートやファッションを、予算をふんだんにかけた美しい映像で後世に残したというだけでも素晴らしい作品なのですが、この作品のアートセンスがまるで70年代以降のウィリアム・クラインに匹敵するぐらいハイレベルなことも、アントニオーニの偉大さを証明しているものだと思います。