「おい、あいつら、今日の午後に日本に行くらしいぞ」
ソウルの上司からの電話だ。
そうか。
・・・こんなに早いとは思わなかった。
「今日、2人がOFFだと知ってるのか?やはり連絡とりあってるな・・・あいつらと」
連絡はたぶん取り合ってる。
しかし・・・インフォーマルコミニュケーションまで厳密に阻止することはできない。
「おまえ、知ってたのか?」
「いえ・・・。知りませんでした」
「どうする?また何か仕掛けてくるぞ?そこを幹部は気にしてるんだ」
「・・・わかりました。なんとかします」
「うん、なんとかしろ」
俺は携帯を持ったまましばらく目を閉じる。
明け方、2時間程度の睡眠でたたき起こされたので、頭がよく働かない。
しかし、緊急事態だ。
ふ・・・誰の面子にとっての緊急事態だ?
いやいや、面子どころじゃない。
社員たちの、スタッフたちの、俺の、生活がかかっている。
しかし、幹部たちと違って、もっと現場に近いところにいる俺には、
株主のことは普段頭から抜けている。
とはいえ、会社に何かあって給料が下がったり、リストラにあったり、合併とか、
そんなのはごめんだ。
しかし・・・まあ・・・それだけってわけでもない。
アジアの覇者・東方神起のマネージャーとしての自負は大きい。
この、才能あふれ、努力家で、立派な志を持つ2人の若者を
なんとかしてやりたいという純な気持ちを俺は失っていない。
だからこそ2人も俺をヒョンと慕ってくれ、心を開いてくれている。
とりあえず・・・今期の目標はビギストの会員数を伸ばすこと。
そして期間を更新させること。
ツアーの成功はもちろんだが、俺たちは常にその先を見なくてはいけない。
ユノの兵役前にやっておくべきことは多いが、
実は、その後に控えている2人との契約更新が、会社にとって、最大の鬼門だ。
2人が更新に意欲的なのか・・・微妙なのだ。
韓国の裁判の和解と、日本の1審の敗訴のあと、
ユノに世間話のように今後の話を振ると、以前とは違った反応が返ってくるようになった。
「人気も落ちるだろうし、帰ってきてからでないとわからないです」
あのユノの口から「先はわからない」などという言葉を聞くとは思わなかった。
明らかに心境の変化がある。
しかし、もっと若いころのように、心をガラス貼りみたいに無防備に見せてはくれなくなった。
2~3本電話をかけてから、俺なりのシナリオを作り、さらに数本の電話をかける。
かちゃり・・・。
そっと寝室のドアを開けると、暗闇に、ユノとチャンミンの深い呼吸音が聞こえる。
それぞれの部屋は与えてあるのに、眠るのは一緒の部屋だ。
デビュー前からの習慣だという。
電灯のスイッチを入れる。
今日は別々のベッドで寝ているが、一緒の毛布に包まっていることもあって、
俺は初めてこいつらを担当したとき、合宿生活の長いタレントとはそういうものかと驚いたものだ。
「・・・何時?」
気配で起きたチャンミンが半分ねぼけて、片目を開ける。
「朝、4時半・・・。いまから帰国するぞ。起きて支度しろ」
「帰国・・・?え~?なんでですか~?」
不満げな声を出す。
もぞもぞと毛布が動き、ユノが頭を持ち上げる。
「ヒョン・・・でも、今日・・・」
「うん、急に韓国の事務所に呼ばれた。緊急の会議だ。」
「緊急の会議・・・。今日じゃなきゃ、だめなんですね?」
「今日でなきゃだめだ」
ベッドの上に座ったユノが、髪をガシガシとかきむしる。
「わかりました。起きよう、チャンミン」
緊急の用件なんてない。
ユノも察しているのだろうが、なにも言わない。
電話で会議の用意を韓国のスタッフに頼んだが、
なぜ急いで帰国するのか、そこまでの緊急の議題なのか
たとえ会議中に疑問がわいても、そんなことは口にしない2人だと知っている。
早めに会議は終わらせて、うまく2人を眠らせてやるつもりだ。
だから会議室に食事も毛布も用意させた。
すまんな、ユノ。
たぶん今夜は・・・俺が寝たのを見計らって、目黒川に繰り出すはずだったんだろう?
新生東方神起から担当した俺だって、そのくらいわかる。
SNSをチェックしていれば、いやでも情報通になる。
だから・・・今夜は早々に酔っぱらって寝室に引きこもってやる予定だった。
目黒川の花は満開だそうだよ、ユノ。
きれいだろうなぁ。
見たかったろうなぁ。
着衣を整え、くしゃくしゃの髪のままパスポートを探しているユノを見ていた俺の瞼の裏に、
ひとりの美しい男の姿が浮かぶ。
俺は会った事のない、しかしよく知っているその男。
ユノと特別な絆を持つと噂されている男。
その男の、感情をたたえた大きな瞳が、俺を見ている。
すまんな・・・。
俺はもう一度心の中でつぶやいた。
JYJが来日した日、その直前に、よれよれの格好で急いで帰国した2人を見て
妄想した内容です^^
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