自主避難している人に対する賠償が、極めて望み薄であることがわかってきた。

http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110928dde012040029000c.html

この毎日新聞の記事によれば、

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今回の東電の賠償内容は基本的に、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が8月にまとめた中間指針に沿ったもの。そこには「自主避難」は盛り込まれなかったが、今月21日の審査会では、「事故後1カ月程度」の間に自主避難したケースは賠償を認める方針が打ち出された。だが、それ以降の避難については今後の検討課題とされている。
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となっている。「文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が8月にまとめた中間指針」というのは、以下で見られるが、私のような素人にはチンプンカンプンである。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2011/08/17/1309452_1_2.pdf


ただ、政府の命令もないのに勝手に逃げた人が全く対象外となっているのは確実である。「今月21日の審査会」はまだ議事録が出ていないが、資料が掲載されていて、以下のようなものが配布されたらしい。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/kaihatu/016/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2011/09/21/1311103_2_2.pdf


この資料の冒頭に、

「当該指示等に関係なく自らの判断で自主的に行った避難(以下「自主的避難」という。)に係る被害については、避難に至った状況及び事情が多岐に渡る上にその実態を明らかにすることが困難であること等から、中間指針の対象とされていない他の損害と併せ、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得るとの一般論を示している。」

と書かれている。

「個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る」

というのは、

「相当の因果関係が認められない限り、損害とは認めない」

という意味である。日本政府が広島・長崎の被曝者に対して、どれだけ冷たい扱いをしてきたかの経緯を見れば、彼らが自主避難者を切り捨てるつもりであることはほぼ確実であろう。

ちなみに、原爆の「黒い雨」の被害を認め<ない>という政府の立場を、裁判所で繰り返し補強する発言を繰り返した御用学者が小佐古敏荘東大教授である。彼は、今回の事故では一転して、「黒い雨」を浴びた福島の子どもに20ミリシーベルト基準を適用することに抗議して内閣官房参与を辞任した。

http://ameblo.jp/anmintei/entry-10876272382.html
http://ameblo.jp/anmintei/entry-10876991870.html
http://ameblo.jp/anmintei/entry-10879150655.html

さて、このまま放置すると、自主避難者が賠償を受けられる可能性は極めて低い。一旦、この委員会が、自主避難の賠償の「基準」を示せば、政府も東電もそれを盾にして、最小限のケースを認めることでお茶を濁そうとするだろう。そのあとで裁判を起こしても、日本の司法は行政べったりなので、救済される可能性は無に等しい。高額の弁護士費用を払ったところで、何十年も争って、ようやくわずかな救済が得られる、という広島、長崎、水俣などのパターンが関の山であろう。

そうすると、事態を変えるには、今、行動を起こすしか無い。ではどうするのか。私の考えでは、

今すぐ、裁判を起こす

である。裁判なんかで救済されない、と言っておきながら、一体、何を言っているのか、と思われるかもしれないが、この裁判の名目は救済であるが、狙いは救済ではない。何を狙うのかというと、

無数の裁判を起こして東電と政府に圧力を掛ける

ことである。東北・関東から放射能怖さに、各地に逃げた人は、上記の中間報告に出ている、

[損害項目] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
1 検査費用(人) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
2 避難費用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
3 一時立入費用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
4 帰宅費用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
5 生命・身体的損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
6 精神的損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
7 営業損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
8 就労不能等に伴う損害 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
9 検査費用(物) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
10 財物価値の喪失又は減少等・・・・・・・・・・・・・・・・29

を良く読んで、さらに、ここに含められていない住宅ローンや家賃なども含めて損害額を、自分で勝手に確定するのである。領収書などがあれば、できるだけキチンと整理して、大切に保存しておく。

そうして地方裁判所か簡易裁判所に、損害賠償請求を求める訴訟を起こすのである。もちろん、この裁判で勝つ見込みはゼロに近い。それゆえ、弁護士に頼んだって無駄である。お近くの弁護士事務所に相談に行けば、相談料5千円とか1万円とかをとられて、「これでは勝つ見込みがありませんよ」と言われて門前払いを食らうだけなので、無駄である。それゆえ、裁判は自分で起こさないといけない。

申し立ては、相手方の住所のあるところの裁判所でやらないといけないが、訴状は郵送でも構わない。やり方は、以下に出ている。

http://www.courts.go.jp/saitama/saiban/tetuzuki/minji/index.html

勝つ気がなければ、裁判を起こすのは簡単である。

こんなことをして、お金をもらえるかというと、多分、無理である。何をやりたいのかというと、損害賠償請求を、多くの自主避難者が起こすことで、東京電力や政府が悲鳴をあげるようにしたいのである。5人や10人なら、屁の河童であろう。しかし、500人とか1000人が、訴訟したら困るであろう。5000人とか10000人とかが訴訟したら、悲鳴をあげるであろう。

訴訟の先も、東電の本店や日本政府ばかりに集中すると、一箇所の裁判所になって敵は楽なので、できるだけ、いろいろなところで訴訟するのが良い。たとえば、不動産に関する裁判であれば、その不動産の所在地でやることができる。大阪に逃げてそこの家賃を請求するなら、大阪で訴訟できるかもしれない。福島の家のローンの訴訟をするなら、福島に出せる。そうやってアッチコッチで、大小様々の、多種多様な訴訟が起きると、東電は困る。印紙代やら何やらが掛かるらしいが、何もしないよりはマシではないだろうか。

これを「原告団」とか作って、一つの裁判にまとめてやると、東電や政府は楽チンなので、平気の平左である。そんなことをしても、負けるに決まっている。絶対にやってはいけない。

少額訴訟という制度があるそうで、やり方は以下に出ている。

http://www.courts.go.jp/saiban/wadai/1902.html

これをやって、被害額のうち、「家賃」とかだけ請求してみるのも悪くなさそうである。不動産の所在地、つまり避難先の裁判所にダメもとで行ってみたらどうだろうか。避難先で仕事がなくて暇だったら、そのくらいやっても悪くはない。とりあえず家賃分10万円でも訴訟を起こしてみたら、東電にすると、めんどくさいので払うかもしれない。そうしたら、また別のネタで起こせば良いのである。

裁判が沢山起これば、政府も東電も焦る。焦れば、上の審議会やら委員会の議論にも影響が出る。そうやって多くの波が起きれば、政治家も動く。官僚もショックを受ける。学者も考える。マスコミも面白がって報道する。

黙っていれば、このまま泣き寝入りである。

どうせ駄目なら、訴状を郵送するくらいのことは、したほうがいい。

訴状を郵送したら、twitter や facebook やブログで、成り行きをアップする。

そうするとそこからまた何か新しい波が起きるかもしれない。



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特集ワイド:賠償どこまで? 原発被害者の憂鬱


被災者が殺到し開始30分で約2時間待ちになった東電の損害賠償相談窓口=福島市で、河津啓介撮影
 ◇二重ローン▼死んだペット▼空き巣▼観光客減…
 福島第1原発事故の避難者らに対し、東京電力が賠償の手続きを始めた。分厚い説明書、記入欄だらけの請求書……難解さと煩雑さに批判が出る一方、対象から外されたり、賠償されるか不透明なケースも多い。不便な暮らしを強いられる被害者の「憂鬱」に迫った。【江畑佳明】

 ◇自主避難者「対象にすべきだ」
 「娘が成人するまで、福島に戻すつもりはありません」。福島県郡山市在住の男性(37)は、電話越しに強い口調で言った。

 妻(34)と小学2年の長女(7)、次女(1)が自宅から150キロ以上離れた新潟市に避難している。政府指定の避難区域ではない場所から別の場所に移動した、いわゆる「自主避難」だ。8月上旬から二重生活が続く。

 理由はもちろん、子どもへの放射線の影響だ。4~5月に自宅庭の放射線量を計測すると、毎時2~3マイクロシーベルトもあった。家の中でも最も高い値で0・8マイクロシーベルト。学校の校庭は除染されたが、通学路は行われていない。体の小さい子どもは地面からの放射線の影響を受けやすいのではないか--不安が募った。「本来は政府が避難などの対応をすぐに行うべきだ」と思ったが、それがなかったため、妻子の避難を決意した。

 新潟での生活のため、家具や日用品を準備し、さらに交通費も合わせると40万円以上もかかった。「何年後かに娘たちの体がおかしくなっても、政府も東京電力も治療費を払うか分からない。ならば今、お金をかけてでも避難しなければと思った」と心境を明かした。だから当然、「賠償はされるべきだ」と言う。

 今回の東電の賠償内容は基本的に、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が8月にまとめた中間指針に沿ったもの。そこには「自主避難」は盛り込まれなかったが、今月21日の審査会では、「事故後1カ月程度」の間に自主避難したケースは賠償を認める方針が打ち出された。だが、それ以降の避難については今後の検討課題とされている。

      ■ 

 避難者が抱える負担で、何といっても大きいのは住宅ローンだろう。だが、今回の東電の賠償対象にはなっていない。被災者の支援活動をしている郡山市の斉藤正俊弁護士に話を聞くと、こんな事例があるという。

 原発事故の警戒区域で、立ち入りが制限されている福島県富岡町。30歳代の夫婦が家を新築し、引き渡しを受けた直後に被災。工事代金はすべて支払ったが、一度も住まないまま郡山市の賃貸アパートに避難した。その家賃と新居の住宅ローンが重なり、いわゆる「二重ローン」状態が続いている--。

 斉藤弁護士は言う。「いつ戻れるか、そもそも除染は進むのか、避難者の不安は大きい。東電は最低でもまず、賃料か住宅ローンのいずれかを支払うのが筋でしょう」。土地・建物の資産価値への影響も懸念されるが、事故が収束していない現状では賠償対象となるか不透明だという。

 東京の3弁護士会(東京、第一、第二弁護士会)の有志は8月中旬、「東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団」(電話0120・730・750)を発足させた。その一人で相談にあたる鎌田毅弁護士は「総論的には(賠償項目を)網羅しているのですが、個別には分からないことが多く、避難者の間に憂慮が広がっている」と話す。

 避難区域の被害者について、弁護団に寄せられている相談の声にはこんなものがある。ペットを残したまま避難したが、その後、一時帰宅したら死んでいた▽避難中、空き巣の被害にあった▽避難先でそろえた家具の代金はどうなるのか▽家族が離れて暮らすようになったら、携帯電話料金が大幅に増えた--。

 東電のガイドラインでは、そこまで細かくは規定されていない。広報担当者に問い合わせると「個別に相談させていただきたい。生活費の増加分は精神的損害への賠償(8月まで月10万円か12万円、9月から月5万円)に含まれるが、それ以上かかった分については、個別の事情を確認して対応したい」と説明する。

 結局、自分はどこまで賠償されるのか、請求してみないと見当がつかない状態だ。

 「『自分は被害者なのに、なぜこんなに煩雑な請求書を書かなければいけないのか』という怒りの声は多い。対象者が膨大だということはあるとしても、東電は加害の立場であることを忘れずに対応すべきです」と鎌田弁護士。

      ■ 

 観光業の損害も深刻だ。東電はまず「福島、茨城、栃木、群馬に主たる事業所を置く観光業」の風評被害を賠償の対象とした。21日には、4県以外の地域については外国人観光客のキャンセル分を対象とする、と発表。当然、「納得がいかない」という地域も出ている。千葉県鴨川市でホテル「三水」を経営する吉田安男社長は「かき入れ時の夏休みは昨年の半分の入り。外国人観光客が対象と言われても、数%です」と、ため息をつく。パート職員に早期退職してもらうなどして、しのいでいる状態だという。

 再び東電に尋ねると「4県以外でも、ご相談の結果、事故との相当因果関係があれば対象になる」とのこと。だが、吉田社長は「事故の影響で、海で遊ぶ人が減少したのは明らかでは」と訴える。

 今回、原子力損害賠償紛争審査会が参考にしたのが、99年に茨城県東海村で起きた核燃料加工会社「ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所」の臨界事故における損害賠償のケースだ。高濃縮ウランを扱う原子力施設での事故で作業員2人が死亡。さらに住民の避難も行われた。損害賠償は約7000件の請求に応じたが、決着までに約10年もかかった。そのJCO事故の賠償指針作成にかかわった中所(なかじょ)克博弁護士に聞いた。

 「避難が数日間だったJCO事故に比べ、今回は避難区域の広さや期間などが全く異なるので、賠償の手続きが膨大にならざるを得ず、東電は賠償を絞り込みたいのかもしれない。だが、『審査会の指針にないから対象外』では被災者は納得しない。自主基準を設け、指針を越えて積極的に賠償すべきです」と強調する。原子力損害賠償法に定めた上限1200億円を負担する国に対しても、「東電は私企業だが、原発という国策を委託された側面もある。政府は現在の法律の枠を再検討するなど、さらに前向きに支援してほしい」と注文をつける。

 東電、そして国には被害者一人一人と心から向き合う姿勢が求められている。

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