http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51699243.html

池田信夫氏がいろいろ批判されて「誤解だ」と弁明した。この議論に私は賛成できないので、書いておきたい。

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けさからツイッターで、やたらに「東電の手先」とか「いくら金もらってるんだ」とかいうコメントが来るので何事かと思ったら、勝間和代氏が謝罪したのでおまえも謝罪しろということらしい。でも申し訳ないけど、私は一度も「原発は絶対安全だ」とか「原発を推進しよう」とか言ったことないんだよ。
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なぜ池田氏がこう言うかというと、

原発推進派=原発絶対安全
原発反対派=原発は絶対に危険

という図式を描いているからである。しかし、既に述べたように、それはそもそも議論の誤認だと私は考える。


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結論からいうと私は原発推進派でも反対派でもなく、「現状維持派」ともいうべき立場である。総合的なリスクは原発より火力発電のほうが大きいが、こんな事故のあと原発を新設することは当分不可能だろう。しかし原発の運転を停止すると電力不足がもっと深刻になるので、とりあえず既存の原発は動かしてエネルギー政策を考え直したほうがいい。
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「総合的なリスクが原発より火力発電所のほうが大きい」というのは、

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51693454.html

による。しかし私は池田氏は事実誤認をしていると思う。

確かに、火力発電所は危険だ。たとえば日本の火力発電所の石炭はオーストラリアが多いが、一部が中国からやってくる。私は陝西省北部でフィールドワークをしているのだが、そこの石炭はかなりの部分が天津に運ばれて、日本に輸出される。中国の炭坑というのは、それはそれはすさまじく、アメリカの炭坑の500倍くらい、人が死ぬ。輸送にしても、何千台・何万台という数えきれない大型トラックが、天津に向かって果てしない渋滞の列を作っていて、良く横転する。この輸送の過程でも、沢山の人が死ぬ。またそれが引き起こす汚染も凄まじく、天津港など石炭で真っ黒である。その汚染は、恐らく、大量の癌死を生み出していることだろう。

だが、原子力がこういう問題から自由かというと、そうはいかない。たとえば、ウラン鉱山の汚染もすさまじい。

http://www.morizumi-pj.com/jadogoda/jadogoda.html

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/seminar/No79/kid000927.PDF

などを見て欲しい。

※追記:石田靖彦氏から以下の指摘。「池田信夫氏が、石炭石油の採掘事故の死者の数から原子力は火力より安全であると述べているのは、原子力発電のために大量の石炭石油を使っていることを忘れた言い方でもありますね。」

ウランやプルトニウムの輸送の問題がどれだけ厄介かは明らかだ。確かにそれで死んだ人は石炭輸送で死んだ人より遥かに少ないだろう。しかし、原子力の問題点は、すべてが隠蔽化されていることだ。もしその輸送に何かあれば、何が起きるかわかったものではない。チェルノブイリの死者数にしても、評価の仕方で桁が何桁も変わってくる。ウラン鉱山の汚染にしても、何世代も続いていくので、一体、どこまでが放射線による被害なのか、わけがわからない。リスクを見積もることが原理的に難しいのが、原子力の最大の問題である。

放射能を使うことの本質的問題は、使っている今、問題が出るのではなく、将来に出ることであり、それが一体、どういう規模のどういう被害なのか、見当がつかない、という点にある。不確定性が大きすぎるのだ。それゆえ、これまでに出た火力発電所のもたらした被害と、原発のそれとを比較したら、原発が有利に決まっている。しかしだからといって「クリーン」などとは言えない。

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その場合、原発のアキレス腱は安全性より経済性である。4月5日の記事でも書いたように、原発は核燃料サイクルや損害賠償のコストを考えると、私企業には不可能なプラントになったといわざるをえない。
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まさにこの点こそが、原発に反対する人々の指摘してきたところである。軍事利用をする気がないのなら、どう考えてもソロバンが合わないのである。


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たぶん短期的な解はガスタービンだと思うが、長期的なエネルギー安全保障を考えると、原子力というオプションは捨てないほうがいいと思う。
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長期的に考えれば、日本列島のような地震・津波集中地帯に原発を作れば、いずれ大事故が起きる。安全保障面から考えて、有害無益である。すぐに止めて、片付けに入るのが、経済的に最も合理的である。そもそもこんな厄介なものに手を出さければ、もっと合理的だったのだが。