(169) 輸液の半減期

テーマ:
意識のある健常volunteerによるstudyによると、
排泄半減期が長い輸液ほど、
plasma volume expansion効果は延長するものの、
同時にinterstitial volume expansionも延長し、
urinary excretionは少ない。

The half-life of infusion fluids: An educational review.
Eur J Anaesthesiol. 2016 Jul;33(7):475-82.



全身麻酔は輸液の排泄半減期に影響を与えないが、
麻酔により低血圧になったり、術前の状態や手術そのものによるストレスが加わると、
輸液の排泄半減期は延長してしまう。

手術中の麻酔では一般的に輸液の排泄半減期が延長しており、自然とvolume expansion効果が高い状態になっている、
と考えることもできる。

そこに術前の脱水補正だから、とか、
麻酔により相対的hypovolemiaになるから、とか、
晶質液は血管内に1/4しか残らないから、とか言って、
盲目的にじゃんじゃん輸液すると、
volume expansionしすぎてhypervolemicな状態になりかねない。

hypervolemicな状態になると、
ANP(atrial nariuretic peptidess)が増加する。
ANPは炎症反応と同様に
glycocalyx layerを消失させ、
血管透過性を亢進させる。
すると、
投与された輸液はすみやかに間質に分配され、
輸液のvolume expansion効果が減少する。

つまり、
輸液すればするほど、
血管内からvolumeが消えていくというparadoxに陥る。

少量(5mg/kg)の輸液はplasma volume内だけに分布するものの、
多量になると間質への透過量が増加してくる。

輸液負荷は必要性を吟味して実施する必要がある。

手術中の多くの場合、
輸液の排泄半減期が延長するということは、
urinary excretionも少なくなる。

また、輸液負荷によりhypervolemicな状態にしてしまうと、
血管透過性が亢進しはじめ、
輸液は血管内から消失し、
結果としてさらにurinary excretionは少なくなる。

urinary excretionがどの程度低下するかというと、
意識のある健常volunteerの1/10程度とかなり減少する。

そのような状況では輸液戦略を、
restrictive(4ml/kg/h)にしようが、
liberal(10ml/kg/h)しようが、
尿量は100ml/3h vs 107ml/3hとほとんど差がないという報告もある。

つまり、術中の尿量は輸液量の多少を反映しないということであるし、
ましてや過負荷の指標にもならない。

したがって、
尿量を見て輸液量を増加減する管理方法は疑問である。

排泄半減期の延長はvolume expansionには有利である。
一方、high complianceな間質への貯留も促進するため、
edemaの原因にもなり、術後回復遅延因子となりかねない。

hypervolemicな状態になったことによる血管透過性の亢進は、さらにedemaを助長することにもなる。

手術終了後、輸液の排泄半減期は速やかに回復する。
Urinary excretionも増加する。
ただ、これは新たに輸液した分による利尿反応であって、
間質にたまっていたものがすぐに出はじめるわけではない。

まとめ

手術中は輸液のvolume expansion効果は高い状態にある。
とはいうものの輸液の仕方により、
輸液の半減期は様々で、かなり差がでるし、
その結果、edemaが助長されることもあり、
術後回復遅延因子となりかねない。
従って、輸液負荷は必要性を吟味して実施、決して盲目的に行ってはならない。

手術中はdiuretic responseはweakだが、
腎障害となる証拠はない。
尿量を見て輸液量を増加減する管理方法は疑問である。



AD
人気ブログランキングへ

anesthemanのおすすめBOOKショップ

1993年にASAからdifficult airway guidlineが発表されてから、導入時の気道トラブルによる死亡/脳死の発生は半減した。
一方、抜管時のトラブルによる死亡/脳死の発生数は変わらないままである。
1998年の報告でも、抜管時、あるいは回復室での気道トラブルは、導入時の気道トラブルよりもそれぞれ約3倍も多く発生している。

そこでJSAでは抜管時のガイドライン、あるいはアルゴリズムの作成に取り掛かっている。

POINTとしては、
1.筋弛緩、
2.呼吸、
3.意識、
4.気道維持
それぞれの回復を確認してから麻酔終了(あるいは抜管)とする、ということである。

筋弛緩の回復はスガマデクスの登場した現在においては大きな問題とはならない。
問題は、意識の回復過程では、気道反射が起きやすく、それが呼吸、循環を不安定にさせることである。

この気道反射をいかに抑えながら意識を回復させるか!
ということが抜管時の安全につながる。

全身麻酔薬の濃度が下がっていく過程において、
気道反射を抑えるアイデアとしてはいろいろあるが、
プロポフォール、高二酸化炭素血症、などもあるようだが、
今時はレミフェンタニルの併用が有用である。

全身麻酔薬の濃度が下がるのを待つ間、
レミフェンタニルを併用すれば気道反射を効果的に抑制できる。
全身麻酔薬の濃度さえ低下すれば、意識は回復するので、
呼名開眼できる事を確認したらそのまま抜管してもよい。

これはDifficult Airway Societyの Extubation Guidelinesにも取り上げられており、
remifentanil extubation techniqueと呼ばれる方法である。

Difficult Airway Society Guidelines for the management of tracheal extubation.
Anaesthesia. 2012 Mar;67(3):318-40.

おそらく抜管する前の自発呼吸回復の確認は必ずしも必要ではない。
仮に、抜管後に自発呼吸がなくてもあわてなくてもよい。
意識さえ回復していれば、本人に呼吸を促せばしっかり呼吸してくれるからだ。

だからと言って、呼名確認→抜管→即、退室OKという流れになるわけではない。
ISONO Dr.が懸念していたのは、盲目的にそういう流れになってしまうのではないかという点だろう。

上記のような抜管では呼吸調節系の回復が保証されない。
呼吸調節系の回復していなければ、抜管後の再鎮静により容易に無呼吸に陥る可能性があるのだ。

Evolution of changes in upper airway collapsibility during slow induction of anesthesia with propofol.
Anesthesiology. 2009 Jul;111(1):63-71.


とはいうものの呼吸調節系の回復を阻害している因子はレミフェンタニルが主なので、ちょっと待つだけで普通は回復が確認できる。

呼吸調節系の回復を確認するPOINTとしては、
刺激を与えない状態において自発呼吸が安定していることを確認することである。

ISONO Dr.は覚醒前の自発呼吸確認の重要性を唱え、
筋弛緩、呼吸、意識、気道維持、全て確認してから抜管するという、いわばオーソドックスな抜管方法を提案した。
一方で、手術室退室前に呼吸調節系の回復を確認さえすれば、自発呼吸の回復を確認する前に抜管することに対しても若干寛容な雰囲気はあった。

大切なのは
抜管したから麻酔終了(退室)というわけではなく、
1.筋弛緩、
2.呼吸、
3.意識、
4.気道維持
それぞれの回復を確認したから麻酔終了(退室)、という事である。

興味深かったのは、
深麻酔下での吸引が推奨されていたが、
口腔内の記載はあるが、
気管内に関しては必要時のみとなっていた所である。
個人的には全例に対してルーチンでの気管内吸引は行っていないのでなんだかちょっと安心した。

個人的な感覚としては、
抜管までレミフェンタニルを少量であっても継続していると、抜管後しばらく自発呼吸がでない印象がある。
呼吸を促しながら待てばいいだけだが、やっぱりあんまり待ちたくないため、若干早めに中止するようにしている。

日本麻酔科学会第63回学術集会
シンポジウム:覚醒・抜管のリスクと安全
の講義メモをもとに、自分なりに改変。


今学会での一番の注目本

麻酔導入時、うまく気道確保できるかどうかは麻酔科には大きな問題である。

麻酔導入し患者の意識が消失すると同時に、
気道開存性を維持するための筋力が低下し、上気道閉塞が起こる。

Evolution of changes in upper airway collapsibility during slow induction of anesthesia with propofol.
Anesthesiology. 2009 Jul;111(1):63-71.


そこで我々はマスク換気を始めるのだが、
以前はマスク換気ができることを確認してから挿管のために筋弛緩薬を投与していた。

これはCVCIだったときのためにいつでも戻ってこれるように、という考えからなのだろう。しかし、筋弛緩薬の投与前のマスク換気は思いのほか難しいことが多く、マスク換気に習熟するまでは大変だった症例も多かった。無理やり換気しようとすると胃の中に空気を押し込み、逆流の心配や、手術操作がやりにくくなる懸念もあった。

最近、意識消失を確認し、筋弛緩薬を投与してからマスク換気を開始する、という順番がスタンダードになりつつある。

筋弛緩薬を投与したほうがマスク換気がやりやすくなるという報告がある。

The effect of neuromuscular blockade on mask ventilation.
Anaesthesia. 2011 Mar;66(3):163-7.


Ventilation by mask before and after the administration of neuromuscular blockade: a pragmatic non-inferiority trial.
BMC Anesthesiol. 2015 Oct 6;15:134.


日本麻酔科学会気道管理ガイドライン 2014でも
フェイスマスク換気が適切にできることを確認してから神経筋遮断薬を投与するべ きであるというエビデンスは存在しない(88%)。
フェイスマスクによる換気効率も向上させる可能性がある (92%)。
と多くのエキスパートが賛同している。

スガマデクスの登場はこれを後押ししている。

ロクロニウム1mg/kg、あるいは1.2mg/kg投与してから3分後にスガマデクスを投与し、TOFR0.9まで回復するまでの時間を検討した報告にによると、
スガマデクス4mg/kgでは不十分であるものの、
8mg/kg以上投与すれば概ね良好なリバース効果が得られることが示された。

Reversal of profound, high-dose rocuronium-induced neuromuscular blockade by sugammadex at two different time points: an international, multicenter, randomized, dose-finding, safety assessor-blinded, phase II trial.
Anesthesiology. 2008 Aug;109(2):188-97.


これから言えることは、
スガマデクスの薬剤添付文書に
ロクロニウム臭化物の挿管用量投与直後に緊急に筋弛緩状態からの回復を必要とする場合、通常、成人にはスガマデクスとして、ロクロニウム臭化物投与3分後を目安に1回16 mg/kg を静脈内投与する。
と記されているものの、
緊急時には16mg/kg全部吸い終わるまで待ってまとめて投与するのではなく、
1バイアルずつであっても準備できたものからどんどん投与していったほうが良い!ということになる。

スガマデクスという魔法の薬が登場してから、
迅速導入の方法も変わった。

以前は筋弛緩薬の選択は概ねサクシニルコリンの一択だったが、今ではスガマデクスがあるならロクロニウムを第一選択にするほうが良い、という意見がある。

ロクロニウムを投与後にスガマデクスでリバースする群と、
サクシニルコリンを投与し自然に回復を待つ群を比較した研究によると、
自発呼吸が回復するまでの時間、
T1が90%回復するまでの時間、
いずれもロクロニウムを投与後にスガマデクスでリバースする群のほうが早かったからだ。しかも、ちょっとどころかかなり早い。

Rapid sequence induction and intubation with rocuronium-sugammadex compared with succinylcholine: a randomized trial.
Br J Anaesth. 2012 Apr;108(4):682-9.


気道確保を語る上で避けて通れないのはCVCIだ。

CVCIはその性格上、RCTなどは存在せず、もっぱら症例報告ばかりである。

その症例報告を集めてみるとある特徴が見えてくる。
CVCIが発生した症例の多くは気道病変(腫瘍)がある。
従って、術前に気道腫瘍(たとえば喉頭蓋嚢胞)があることがわかっている症例はハイリスクと考え、覚悟して麻酔導入に臨む必要がある。

また、最近ではスガマデクスによる筋弛緩リバースが有効だった症例報告も多いが、筋弛緩リバースが無効だった症例報告も多い。
筋弛緩効果が改善しても、意識が回復しなければ気道開存性も回復しない場合が多いことを物語っている。

従ってCVCIになったら一刻も早く覚醒させることを考えたほうがいい。
でもどうやれば早く覚醒させることができるのだろうか・・という新たな問題は残る。

なんにしても、
いつなんどき発生するかもしれないCVCIに備え、
日本麻酔科学会気道管理ガイドライン 2014
を熟読し、イメトレしておく必要がある。

そしてテクニカルスキルを日々向上させるのはもちろんであるが、ノンテクニカルスキルも十分に意識しておく必要がある。

対人的スキルや認知的スキルだ。

その場の状況判断、ならびに適切な意思決定を迅速に行い、
麻酔科医のみならずco-medicalとも十分にコミュニケーションをとり、チームとして状況に対処していくことが求められる。

一人の医者だけで医療を行うことはできない。
co-medicalを中心とした多くの仲間の助けがあって初めて医療が行える。
そういう意識を常に忘れてはいけないと思う。

日本麻酔科学会第63回学術集会
招請講演「安全講習会」JSA気道管理ガイドラインから学ぶマスク換気と筋弛緩
の講義メモより。



今回の一番の収穫

雑誌編集長が欲しがる!! 医学論文の書き方 (Dr.あさいのこっそりマスターシリーズ)

英文誌に論文を投稿しようにも、なにかと勝手がわからず思わず尻込みしがちです。投稿する際のいろはを丁寧に、わかりやすく解説してくれています。
英文誌への投稿の仕組みがよくわかる必携の一冊です。










AD
人気ブログランキングへ

anesthemanのおすすめBOOKショップ



日本区域麻酔学会 第3回学術集会
教育講演1
「臨床研究施行上の倫理とルール」

聴講メモ

臨床研究においては1964年のヘルシンキ宣言に則って行う必要がある。

ヘルシンキ宣言

1964年初期の頃は10項目だったが、
何度も改訂され、2013年の改訂で37項目まで増えている。

No.22 利益相反や、損害を受けた場合の治療や補償も含む研究計画書を作成。
No.23 倫理委員会 研究内容が変更の必要なときも少人が必要
No.35 一般的にアクセス可能なデータベースに事前登録(UMINが適切)

などは基本事項として重要と。

RCTにおいてはCONSORT 2010声明も確認しておく必要がある。

CONSORT 声明による RCT 論文を投稿する際のチェックリスト

国内での研究といえば言えば、

人を対象とする医学系研究に関する倫理指針

も確認しておく。

侵襲とは:
研究目的で行われる、穿刺、切開、薬物投与、放射線照射、心的外傷に触れる質問 等によって、研究対象者の身体又は精神に傷害又は負担が生じることをいう。

介入とは:
通常の診療を超える医療行為であって、研究 目的で実施するものを含む。すなわち保険適応外のものは全て介入に該当する。

教育・研修について:
研究者等は、研究の実施に先立ち、研究に関する倫理並びに当該研究の実施に必要な知識及び技術に関する教育・研修を受けなければならない。
大学のように臨床研究センターがあればいいが、中小規模の病院に在職のDr.ならどうすればいいのだろうか。

倫理委員会について:
1 医学・医療の専門家等、自然科学の有識者が含まれていること。
2 倫理学・法律学の専門家等、人文・社会科学の有識者が含まれていること。
中小規模の病院では設置自体が難しいかもしれない。
その場合は近隣の大学病院の倫理委員会に相談を。

個人情報の保護:一般的に目隠しだけではダメ

オーサーシップからコントリビューターシップ
全ての著者は研究テーマに関して行われた方法と結果の全てにおいて、正確にそして適切に行われたとの説明責任が取れる必要がある。
一部のみの寄与者は、authorではなく、contributerとしてわけ、その役割をハッキリと示す必要がある。

などなど、
臨床研究に携わるためのいろいろ基本的な素養について講演していただいた。
ここではあまりうまくまとめることができないが、
講演自体はとてもわかりやすいものでした。

まあ、
臨床研究ならなんでもかんでも
臨床研究計画書、倫理委員会、同意書、登録。
日常診療では何があるかわからない。
だから将来、後ろ向きに何を情報収集するかわからないので、
麻酔同意書をとる時、同時に情報活用(臨床研究)のための同意書もセットで取得しておくといいかもしれない。

人気ブログランキングへ

anesthemanのおすすめBOOKショップ





anesthemanのおすすめBOOKショップ

肝切除術の麻酔に際し、
pringle法に先立ち、ステロイドの投与を依頼される。
何も考えずにいつも投与していたが、
先日、後輩に「何のためにやるんでしょうかねえ。」と言われたので、
いい機会だからちょっと調べてみた。

pringleさんが報告したオリジナルはこちら
意味もなく恐れ多い気がしてしまう。

とりあえずPubMedで、
「pringle maneuve steroid」と入力して検索してみたところ、
ちょうど良さそうなのが一番上に出てきた。

PubMed画面

Preoperative steroid administration in liver resection: a systematic review and meta-analysis.
Hepatogastroenterology. 2013 Jan-Feb;60(121):160-9.


でも残念ながらFreeではなさそう。
諦めきれず、とりあえずそのタイトルをグーグル先生に放り込む。

google先生の答え

すると、ちょっと違うけれど、似たようなのが2番目に出てきた。
しかも都合のいいことにFree!。

Use of pre-operative steroids in liver resection: a systematic review and meta-analysis.
HPB (Oxford). 2014 Jan;16(1):12-9.


手術侵襲が加わると、内因性サイトカインやfree radicalsが放出される。
それはそれで障害組織の修復には必要なことかもしれないが、過剰に産生されてしまうとSIRS(systemic inflammatory response syndrome)に陥る。SIRSの程度はmorbidityやmortalityと相関するだけでなく、術後機能回復の遅れにもつながる。この一連のサイトカインの反応を軽減することにより、週術期予後の改善を期待する、というのがsteroidの投与目的である。

1950年から2012年までの文献を収集し、内容が合致した5文献、379症例を解析している。

Primary endpoints

post-operative complications:OR=0.68(95%CI 0.44~1.06、P=0.09)

Secondary endpoints

length of stay:
MD( mean difference )=-0.99(95%CI -3.86~1.89、P=0.5)

post-operative serum bilirubin:
MD=-0.43(95%CI -1.04~-0.015、P=0.05)

postoperative PT:
MD=-0.04(95%CI -0.1~0.01、P=0.1)

post-operative serum IL-6:
MD=-46.4(95%CI -83.4~-9.39、P=0.01)

結果としては、
臨床的に重要な合併症の発生や、
術後入院日数には差がない。

ステロイドを投与したからといって、
予後はそんなに簡単に改善してくれない。

ビリルビン値や、IL-6値は少し下がる。

術後1日目のビリルビン値は肝不全発生の予測因子らしいが、
下がったといっても平均で0.52だから、
どれだけの意味が臨床的にあるかは疑問である。

IL-6値も少し下がるようなので、
少しは炎症反応が軽減されているかもしれない。
とは言うものの、低下しているステロイド投与群ですら基準値を大きく上回る。

さらには、今回の解析対象である5studyの全症例数は379症例。
1つのstudyで症例数の過半数(200症例)を稼いでいる。
これがなければ今回の結論すら変わってしまうかもしれない。

まとめると、
今回の文献だけを見るかぎりでは、
肝切除術の際にステロイドを投与するのは、
おまじないというか、
お作法の範囲内といったら語弊があるか。

人気ブログランキングへ

anesthemanのおすすめBOOKショップ
睡眠時無呼吸症候群(SAS)があると周術期の合併症が増える、
と考えられている。

そのメカニズムとしては、

1. airway abnormality
→ 挿管・抜管時のトラブル

2. 麻酔薬・鎮静薬・麻薬により
上気道の筋緊張低下、換気応答性低下
術後の仰臥位安静がそれを助長する。
→ 上気道閉塞が発生し、低酸素状態へ。

3. 併存疾患の存在(肥満、高血圧・肺高血圧・虚血性心疾患)

さらに、
周術期に睡眠リズム(周期的な睡眠パターン)が変化することが、術後合併症の発生に大きな影響を与える。

4. 術後一過性にREM睡眠が減少、その後のREM睡眠増加
(REMリバンド)
→ 上気道の筋緊張低下→SAS増悪
→ hemodynamic instability(不整脈、循環変動、突然死も)
→ 術後せん妄

一般的に睡眠リズムは、
だいたい1サイクル90分で、
non-REM睡眠1→2→3→4→REM睡眠→
を繰り返している。

手術侵襲の影響のため周術期にはこのサイクルがくずれる。
痛みや、オピオイド投与、術後環境も影響する。
REM睡眠までサイクルが進まないためか、
特に術後2-3日までは、REM睡眠が減少するのが一般的である。
その後 REM睡眠は回復してくるが、
むしろ増加しすぎ(REMリバウンド)てしまう。

REM睡眠中には
・咽頭筋群の筋緊張低下→SAS発生しやすい
・循環動態不安定→血圧変動、不整脈、虚血性心疾患が発生しやすい

術後突然死は術後3-5日目に多く発生し、
そのほとんどは夜間睡眠中といわれる。
これにはREMリバウンドが影響しているのだろう。

死亡、低酸素脳症などの重篤な合併症が発生するタイミングは
intraoperative 21%
postanesthesia care unit 33%
surgical floors 46%
という調査結果があるが、
REMリバウンドの影響がいかに大きいかを裏付けていると思われる。

Perioperative Complications in Obstructive Sleep Apnea Patients Undergoing Surgery: A Review of the Legal Literature.
Anesth Analg. 2016 Jan;122(1):145-51.


とある施設ではSASの手術患者に対して、
術後1週間は夜間酸素投与を継続しているところもある。
酸素投与により無呼吸をマスクしてしまうデメリットもあるが、
低酸素を回避できるというメリットの方が上回る。

睡眠時無呼吸症候群・・・。
存在は地味!?・・ではあるが、周術期管理する上では重要だ。

SASの患者のうち約80%は診断すらされておらず、本人はまったくの無自覚、というのも大きな問題である。

そのため、
自己申告の病歴の確認だけではなく、
術前のスクリーニングが大切である。

STOP-Bang questionnaire

S:snoring いびき
T:tired 日中の倦怠感や眠気
O:observed 家族からの無呼吸の指摘
P:blood pressure 高血圧の既往
B:BMI 肥満
A:age 年齢50歳以上
N:neck circumferennce 頸部周囲長40cm以上
G:gender 男

感度: 軽症83.6%、中等症92.9%、重症100%
特異度: 軽症56.4%、中等症43%、重症37%

該当項目が3項目以上あればSAS疑い。
polysomnograpy(sleep study)したいところだが、
残念ながら当院ではできない。

太った中年男性というだけでSAS疑いか。

Perioperative evaluation for the patients with obstructive sleep apnea syndrome.
Tuberk Toraks. 2015;63(1):53-9.


Obstructive sleep apnea of obese adults: pathophysiology and perioperative airway management.
Anesthesiology. 2009 Apr;110(4):908-21.

http://www.seminmedpract.com/pdf/jcom_sep11_apnea.pdf
ほか

麻酔といえば気道確保。
そのためにはをまずは気道の特徴を知らなければいけない。

成人の気道で最も狭いところは声門部。
小児は声門下、すなわち輪状軟骨部が一番狭い。

どのテキストにそう書いてあったし、
当然そのまま指導もされた。
だから、後輩にも何も考えずに伝承してきた。

これはいわゆる常識である。

・・・と思っていた。最近まで。



小児は声門下、すなわち輪状軟骨部が一番狭い。

その根拠は、

Some anatomic considerations of the infant larynx influencing endotracheal anesthesia.
Eckenhoff JE. Anesthesiology. 1951;12:401–10.


これが引用されることが多い。

これによると、確かに、
The narrowest point may be at the level of the cricoid cartilage.
と記載されている。

もっともこの記載も単なる引用だ。

引用元はというと、
Bayeux. Tubage de larynx dans le Croup. Presse Med. 1897;20:1.

なんと100年以上前のデータだ。

御遺体を使用したstudyで、
上気道に石膏を流し込み、型取りをして、
それぞれの部位の径を計測した。
その結果、輪状軟骨部が一番狭かった、という内容のようだ。

引用が、引用を呼び、さらに引用され、
小児の気道の最狭窄部は、声門部ではなく、輪状軟骨部である。
という常識ができた。

常識と思っていたのだけれど、
ずいぶん前からこの常識に対して疑問が投げかけられていた。
(知らなかったけれど。)

たとえば、
The shape of the pediatric larynx: cylindrical or funnel shaped?
Anesth Analg. 2009 May;108(5):1379-81.


Bayeux.のstudyだが、
輪状軟骨部は硬いから、石膏を流し込む時の影響を受けずにそのものの径が測定できるが、その上下の軟部組織は流し込む圧力によって拡張し、実際の径よりも大きく計測されてしまったのではないか。

つまり輪状軟骨部が最狭窄部ではないのでは!?

100年以上前の技術ならありえそうだ。

それを裏付けるstudy。

Pediatric Laryngeal Dimensions: An Age-Based Analysis
Anesth Analg. 2009 May;108(5):1475-9.


気管支鏡で測定したところ、
一番狭いのは声門部で、どの年齢もそれは変わらないという内容。

Developmental changes of laryngeal dimensions in unparalyzed, sedated children.
Anesthesiology. 2003 Jan;98(1):41-5.


MRIで検査したところ、
一番狭いのはやっぱり声門部の横径でどの年齢も変わらない。
前後径はどのレベルでも変わらない。

以上より、

小児も成人も、
上気道で一番狭いのは声門部である。


これまで常識と思っていたことが、
そうではなかった!

って、なかなか興味深いなあ。

それから、
輪状軟骨部は円形ではなく、楕円形だった。
というのも今回わかったもう一つの重要なポイントである。
これは小児でカフなしチューブを使用しない根拠の一つになる。
これはまた機会があれば。

人気ブログランキングへ

anesthemanのおすすめBOOKショップ







肺外科手術や、食道外科手術などでは、
良好な術野を提供するために、片肺換気を行う。

片肺換気のため虚脱した肺は、換気/血流比が悪化する。
そこを循環する血流は、酸素化されないまま全身循環に戻る、
いわゆる機能的シャントとなる。
シャント/全血流比が増えれば増えるほど、Pa02が低下する。

ただPaO2が低下してくると、代償的に肺血管収縮、すなわちHPV(hypoxic pulmonary vasoconstriction)が起こり、
換気/血流比が改善し、シャント/全血流比が減り、Pa02が少し改善する。

もっとも、このHPVは万能なわけではない。
残念ながら片肺換気をした7-28%の症例で低酸素血症を呈する。

HPVの本態は血管収縮にあるので、
当然ながら血管作動性のある物質により影響を受ける。

例えば、
炎症によりアラキドン酸カスケードが活性化されると、
シクロオキシゲナーゼを介したPGI2(prostaglandin)が産生される。
PGI2は強力な血管拡張作用があるため、HPVが弱められる可能性がある。

HPVが弱められるということは、
低酸素血症になりやすいということにつながる。

フルルビプロフェンアキセチルはNSAIDsの1種であり、
ロピオンという商品名で周術期に頻用されている。
シクロオキシゲナーゼを抑制することにより、
血管拡張作用のあるPGI2の合成を抑制する。

片肺換気の時に、
フルルビプロフェンアキセチルを投与すれば、
PGI2の合成が抑制され、
HPVがしっかり働き、
シャントが減り、
PaO2の低下が軽減するではないか!?

と考えた人たちがいる。

Flurbiprofen axetil increases arterial oxygen partial pressure by decreasing intrapulmonary shunt in patients undergoing one-lung ventilation.
J Anesth. 2015 Dec;29(6):881-6.

無作為比較試験
片肺換気開始の約30分前にフルルビプロフェンアキセチル100mgするF群と、
プラセボを使用したC群を比較している。

PGI2は非常に不安定のため直接測定することができない。
そのため代謝産物である6-keto-PGF1αを測定している。

<結果>

F群では6-keto-PGF1αは投与後から片肺換気終了後まで低いままだった。

→ フルルビプロフェンアキセチルにより血管拡張物質であるPGI2の合成が抑制された。

F群ではシャント/全血流比は片肺換気後の15分、30分、60分で有意に低い。

→ PGI2の活性が低かったため、しっかりHPVが働いた。

PaO2:片肺換気後の15分、30分は有意にF群が高い。

→ シャントが減ることにより、PaO2の低下が軽減した。



片肺換気の際に、PaO2が低くて困る時があれば、
フルルビプロフェンアキセチルを使用するといいかもしれない。
もしかしたらPaO2が少し改善するかもしれないから。


もっといえば、全例に予防的投与してもいいかも。


ただ、最近はフルルビプロフェンアキセチルの術中投与は保険適応外として切られることが多いからどうしたものか・・・。



フルルビプロフェンアキセチルは血管収縮作用のあるTXA2(thromboxane)の合成も抑制してしまう。
実際、TXA2の代謝産物であるTXB2はフルルビプロフェンアキセチルの投与後から片肺換気終了後まで低いままだった。
しかし、フルルビプロフェンアキセチルの作用は、TXA2の合成抑制よりも、PGI2の合成抑制の方が強い。
このことはTXB2/6-keto-PFF1α比が片肺換気終了後まで有意に高い状態が続いたことからわかる。
またこの、TXB2/6-keto-PFF1α比とシャント/全血流比の間には負の相関関係があった。

人気ブログランキングへ

anesthemanのおすすめBOOKショップ








麻酔を始めた頃、
帝王切開術の脊髄くも膜下麻酔後の低血圧に対して、
エフェドリンが第1選択と指導された。

しかし、時代は移り変わっている。

前回の臨床麻酔学会で、
日本産科麻酔の大家である埼玉医大の照井先生は、
「 エフェドリンは胎児移行性が高いため、胎児への影響が大きく、UA-pHが低くなるため、昇圧剤の第1選択はフェニレフリン 」
と講演していた。

(158) 帝王切開術の脊髄くも膜下麻酔

さらに、
もう一人の大家である順天堂大学の角倉先生も、
脊髄くも膜下麻酔後の低血圧に対して、エフェドリンはもはや第1選択ではないとしている。

When was the last time you induced general anesthesia for cesarean section?
J Anesth. 2015 Dec;29(6):819-20.


これらをふまえ、
日々の日常診療でフェニレフリンを第1選択するようにした。
低血圧に対してフェニレフリンを使うと、
当然といえば当然かもしれないが、脈拍数が少なくなる。
これまでエフェドリンを使用し、必要以上の頻脈でいることに慣れてしまったのか、
なんとなく気になってatropineを使ってしまう。
これって必要なのだろうか?




無痛分娩関係の本が続々改訂されていました。
今更ですが、無痛分娩にもやっと関心が出てきました。

外科手術は固形癌にとって重要な治療法である。

一方で、手術侵襲のため代謝性・神経内分泌性の変化が起こり、細胞性免疫機構が抑制される。しかも、手術による腫瘍切除、血管処理は、腫瘍細胞の播種や循環への遊離をもたらす可能性もある。
結果として、手術は固形癌の重要な治療法ではあるものの、転移・再発のリスクにもなる。

麻酔がこの転移・再発のメカニズムを助長するかもしれない!?
という報告もある。


昔取り上げたのでは、

(12) 乳癌手術 傍脊椎神経ブロックの効果

Can anesthetic technique for primary breast cancer surgery affect recurrence or metastasis?
Anesthesiology. 2006 Oct;105(4):660-4.


オピオイドが腫瘍細胞の増殖や血管新生に関与しているようなので、
周術期にオピオイドの使用を制限(代替手段:局所麻酔)するだけで、
腫瘍の転移・再発のリスクが減少する可能性が指摘されていた。

同様の可能性が全身麻酔薬でもあるかもしれないという。

悪者は吸入麻酔薬だ。


Long-term Survival for Patients Undergoing Volatile versus IV Anesthesia for Cancer Surgery: A Retrospective Analysis.
Anesthesiology. 2016 Jan;124(1):69-79.


retrospectiveな調査。
3年間で11395症例を対象とした。
麻酔方法の選択は麻酔科医に一任。
いろいろ除外して、
吸入麻酔群(3316症例)vs TIVA群(3714症例)

1年生存率:87.9%(86.7-89.1) vs 94.1%(90.6-91.8)
follow up中央値:2.91年(2.85-2.96) vs 2.51年(2.62-2.69)
死亡率:24%(796/3316) vs 13.6%(504/3714)
NNT:9.6

患者背景に差があるので。
propensity matchingして解析。

多変量解析後のガス麻酔(INHA)使用のhazard比:1.46(1.31-1.64)

吸入麻酔が癌細胞の転移・再発に影響を与えるのは次の3点による。

1. natural killer細胞の機能低下
2. HIF-1のup-regulation
3. IGFのup-regulation

吸入麻酔はPONVの点でも不利である。

Consensus guidelines for the management of postoperative nausea and vomiting.
Anesth Analg. 2014 Jan;118(1):85-113.


そのうえ、腫瘍の転移・再発のリスクもあがるとなれば、
ますます吸入麻酔は使いにくくなってくるなあ。



ビジュアル麻酔の手引
ビジュアル麻酔の手引
posted with amastep
メディカルサイエンスインターナショナル(2015-10-06)
Amazon.co.jpで詳細情報を見る


1施設に1冊、常備しておくべき本かなと思います。


1. natural killer細胞の機能低下

natural killer細胞の機能低下により、
周術期に循環中に遊離した腫瘍細胞が生き残る可能性がある。

2. HIF-1のup-regulation

HIFs ; hypoxia inducible factors

低酸素誘導性因子
生化学 第85巻 第3号,pp. 187―195,2013


低酸素ストレス に対する細胞の適応応答で中心的な役割を果たす転写因子で、血管新生や細胞増殖に関与する。癌細胞も例外ではなく、この因子の影響を受ける。HIFによるグルコースの取り込み増加、VEGF発現増加や、酸化還元ストレスからの保護を通して、腫瘍細胞の増殖、血管新生、転移に寄与する。
実際にHIFが高いレベルで発現していると、予後が悪いという臨床データもある。

HIF1A overexpression is associated with poor prognosis in a cohort of 731 colorectal cancers.
Am J Pathol. 2010 May;176(5):2292-301.


一方、propofolはHIF-1αの活性化を抑制という。

3. IGFのup-regulation

IGF ; insulin-like growth factor

IGFは細胞の血管新生や増殖に関わるだけでなく、様々な誘因によるアポトーシスを抑制する。
腫瘍細胞も影響を受けるため、IGFのup-regulationにより、腫瘍の転移・再発のリスクが上がる可能性が考えられるという。

Role of the insulin-like growth factor family in cancer development and progression.
J Natl Cancer Inst. 2000 Sep 20;92(18):1472-89.


腫瘍細胞におけるIGF-Ⅰレセプターの役割と婦人科癌分子標的治療への応用
岡山医学会雑誌 第117巻 May 2005,pp.27-33




無痛分娩の基礎と臨床


新しくなりました。



それにしても、
今回のstudyでは解析前の両群の症例数が、5377症例 vs 5351症例とほぼ綺麗に分かれていた。
吸入麻酔薬か、静脈麻酔薬か、どちらを選ぶかは担当麻酔科医に一任されていたとなっているのにこんなに綺麗に分かれたことにはやや違和感を感じる。
しかも、イギリスでの全身麻酔はほとんど吸入麻酔で行われているらしいのに・・・。