代表的な下肢手術として、

膝関節や股関節の人工関節置換術がある。

これらの手術の麻酔は何を選択するか。

 

脊髄くも膜下麻酔、

いわゆる下半身麻酔でも十分に実施できる。

もちろん全身麻酔でもよい。

 

脊髄くも膜下麻酔の術前説明をしていると、

「手術の音が聞こえるのが怖いから、

下半身麻酔はちょっと・・・。

できたら全身麻酔がいいんですけど。」

と全身麻酔を希望する人もなかにはいる。

 

鎮静薬をきちんと使えば、

脊髄くも膜下麻酔でも寝ている間に手術は終わる。

手術中に寝ることができれば、

必ずしも全身麻酔でなくてもいいのでは!?

と思ってしまう。

 

確かに病院収益的には全身麻酔の方が有利かもしれないが、

医療費高騰が問題になっている現在の医療経済を考えると、

全身麻酔を実施するのはやや気がひける。

 

脊髄くも膜下麻酔 850点

 

全身麻酔 6100点

 

医学的な見地からはどちらがいいのか?

下肢の人工関節置換術の麻酔は

全身麻酔がいいのか?

それとも脊髄くも膜下麻酔か?

 

プロペンシティスコアを用いた後ろ向き観察研究によると、

 

Anesthesia Technique and Mortality after Total Hip or Knee Arthroplasty:

A Retrospective, Propensity Score-matched Cohort Study.Anesthesiology. 2016 Oct;125(4):724-31.

 

30日死亡率は、

 

全身麻酔 0.8%(17/2135)

脊髄くも膜下麻酔 0.19%(4/2135)

 

と脊髄くも膜下麻酔の方が少ない。(P=0.0045)

 

微妙・・・、だけど、確かに統計学的には差がある。

164人やれば1人は減る。

 

ただ、本当に因果関係があるのだろうか。

なんで全身麻酔を選択すると30日死亡率が高くなるのだろうか?

(その理由は評価不能とのこと。)

 

実際に集計したことがないから実感としてないが、

そもそもそんなに不幸な転帰に至る症例ってあるのか。

 

とりあえず、

「脊髄くも膜下麻酔推し」の麻酔科医としては、

 

患者 「今度の手術の麻酔ですが、全身麻酔でやってもらえませんか?」

 

って希望されたら、

 

麻酔科医「死亡率が低いので、全身麻酔よりも脊髄くも膜下麻酔の方がオススメですよ!」

 

って言ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

新・麻酔科研修の素朴な疑問に答えます
新・麻酔科研修の素朴な疑問に答えます
posted with amastep
メディカルサイエンスインターナショナル(2016-09-06)
Amazon.co.jpで詳細情報を見る
 

 

 

 

AD

 

手術麻酔の術前診察をしていると、

高血圧として治療されている割にはコントロール不良な症例や、

放置された高血圧症、

さらには、そもそもの自覚もなく日常生活を送っているとんでもない高血圧症に遭遇することも多い。

 

高血圧症では、

術中低血圧や、高血圧緊急症を契機とする周術期合併症の発生が懸念される。

術前診察時の対応としてはどうすればいいのだろうか。

 

ESC/ESAガイドライン(PMID25086026)によると、

合併症のない180/110mmHg未満の高血圧症であれば、

血圧コントロールのために手術を延期する意義はない。

 

もちろん、

高血圧症単独では周術期の主要なリスク因子にならないと考えられているが、

高血圧症は様々な疾患のリスク因子となるため、

合併症の有無を確認し、あればそれぞれへの対応は必要だ。

二次性高血圧の可能性があるかも確認しておく。

 

一方、

grade3の高血圧症(収縮期血圧180mmHg以上、あるいは拡張期血圧110mmHg以上)の場合、

手術を延期し、

薬剤による血圧コントロールを検討することが推奨される。

 

日本循環器学会のガイドライン

でも同様に、

コントロール不良、あるいは未治療の高血圧症では、

術前の評価と治療が推奨されている。

 

とはいうものの、

降圧目標について検討された報告はない。

 

しかも、

ニフェジピン10mgを投与してそのまま手術を実施しても、

手術を延期してしっかり薬剤コントロールしても、

周術期合併症の発症率に差がなかった、

という報告(PMID12770652)もある。

 

ので、

どこまで術前に血圧コントロールする意義があるかは不明である。

 

実際、

ACC/AHAのガイドライン(PMID25091544)では高血圧症への言及はなくなっている。

 

高血圧症の周術期リスクとマネージメント

Hospitalist Vol.4 No.2 2016 248-54

 

のsummaryによると、

grade3高血圧症では手術の延期も検討する、

となっているが、

 

個人的には、

あくまでも「検討」であって、

血圧コントロールを目的とした手術の延期は必要ないかな、

と現在は考えている。

 

どうなんでしょうか。

 

 

Hospitalist Vol.4 No.2 2016

 

現在の術前管理のスタンダードを確認するためにも、

麻酔科医はmust buyと思います。

 

 

 

AD

今回のエントリーですが、エキスパートは読まないほうがいいです。

 

 

↓新刊 出るそうです。

 


 

 

先日のエントリー↓

術前の心エコー図検査の意義

を踏まえ、

 

仮に既往歴が色々あったとしても、

日常生活に支障がない無症候性の術前患者において、

術前心エコー検査は

術中の血行動態管理の方針を変えるのか!?

 

身近なところで質問してみた。

 

1.

弁の性状を確認することにより、

rate controlの方針が変わるかも。

選択する昇圧剤が変わるかも。

 

教科書的には閉鎖不全症と狭窄症は逆の対応が求められる。

しかし、術前心エコー検査で患者の術中の至適HRがわかるのか!?

という素朴な疑問もある。

 

2.

あらかじめ持続血管作動薬を準備して手術に臨むかも。

 

なるほど。

 

3.

訴訟になった時に、

やることやってましたよ。

的ないいわけになるかも。

 

という意見もあった。

 

 

エキスパートはどのように活用しているのだろうか。

 

レベル低いエントリーで申し訳ありません。

 

 

Hospitalist(ホスピタリスト) Vol.4 No.2 2016(特集:周術期マネジメント)

 

 

 

 

 

 

 

 

Hospitalist Vol.4 No.2 2016

[ミニコラム]術前心エコー図検査は必須か?P242-47

 

 

 

 

anesthemanのおすすめBOOKショップ

 

人気ブログランキングへ

 

 

 

 

 

 

AD

Hospitalist Vol.4 No.2 2016

[ミニコラム]術前心エコー図検査は必須か?P242-47

より。

 

 

Hospitalist(ホスピタリスト) Vol.4 No.2 2016(特集:周術期マネジメント)
 

 

 

心不全は周術期心合併症のリスク因子である。

 

非心臓手術での30日死亡率(PMID21709059)は、

 

非虚血性心不全 8.5% OR2.92 2.44-3.48

虚血性心不全 8.1% OR1.98 1.70-2.31

心房細動 5.7% OR1.69 1.34-2.14

冠動脈疾患 2.3%

 

冠動脈疾患以上に、心不全は周術期合併症&予後のリスク因子として重要である。

 

心不全といえばEF低下!?

 

ということで、

術前の心エコー検査により測定されたEF低下は、

術後合併症の発症と関連があるという報告もある。

 

AAAの手術を対象とした報告(PMID8107716)では、

術後の心不全発症と有意に相関(OR2.9 1.1-8.1)。

 

非心臓手術を対象とした報告(PMID11230829)では、

周術期心筋梗塞(OR2.8 1.1-7.0)、

心原性肺水腫(OR3.2 1.4-7.0)の発症に関連。

周術期合併症の予測因子(特異度76%、陰性的中率94%)。

 

中等度〜高リスク非心臓手術を対象とした報告(PMID20412467)では、

高齢、DMとともに独立した30日以内の心有害事象の規定因子。

 

など。

 

心エコー検査でEFを確認しておくことは、

術前評価の一つとしてやっぱり大切だ。

 

しかし、

ACC/AHAのガイドライン(PMID25091544)によると、

無症状で、4METs以上の運動耐容能があれば、術前の精査は不要とされ、心エコー検査の実施は推奨されない。

 

日常生活を普通に営むことができるような人、

つまり、大抵の術前の患者には心エコー検査は過剰医療となる。

 

心エコー検査の費用:880点

 

ガイドライン(PMID19713421)でも心エコー検査の実施が推奨されているのは

原因が特定されていない呼吸困難の症状がある場合や、

心不全患者で症状の悪化が疑われる場合のみである。

 

心エコー検査していいのは、

見るからにやばそうで、

担当したら麻酔管理に不安を感じるようなイキの悪い人だけなのか。

 

とはいうものの、

血管手術を対象とした報告(PMID20502115)では、

術前心エコー検査の結果、

40%の人に無症候性の左室機能障害があり、

無症候性の収縮障害(OR2.3 1.4-3.6)、

拡張障害(OR1.8 1.1-2.9)、

ともに30日以内の血管手術後の心血管イベントと相関していた。

 

ということは、

無症候性でも、

心エコー検査はやっぱり必要なのでは!?

 

無症候性であっても、

手術リスクによってはルーチンの心エコー検査を実施し、

術後合併症の発症リスクの層別化をしておくことは大切かもしれない。

PMID19713421

 

しかし、

EBM全盛のこの時代、

心エコー検査で術前評価し、

リスクを層別化したとしても、

それにより予後が改善したというエビデンスはない。

 

エビデンスがないなら、

やっぱり心エコー検査いらないのでは?

 

いやいや、

エビデンスって簡単に言うけれど、

心エコー検査をルーチンで実施すると、予後が改善する!

ということを証明するのは、

非常に困難で、実現可能性はとても低い・・・と思うので、

エビデンスなんかなくて当然では。

たぶん、今後も出てくることはないだろう。

 

だから、

予後を改善するエビデンスがないからといって、

心エコー検査の意義が否定されるわけではない。

 

実際、術前の心エコー検査で、

未診断の心疾患患者の同定や、

それに伴う麻酔・周術期の血行動態管理の改善につながったという報告(PMID19549642)もある。

 

これはこれで、

22%で新規の内科医が介入するような心疾患が見つかったり、

5%で手術が延期になったり、

46%で麻酔方法が変更になったりしているようなので、

すこし多すぎな印象で、どうなのかなあと思ったりもする。

 

心エコー検査で得られる情報(各chamberの大きさ、機能、弁膜症、左心と右心の関係、EFの計測など)で、

麻酔方法をどのように変更しようと思うのだろうか?

という、あまり大きな声では言えないが、

素朴な疑問も個人的にはある。

 

が、

術中&術後の血行動態管理の方針決定に必要としている心エコー図検査を重要視している麻酔科医が多い現状においては、

たとえ無症候性であっても、

術中管理する麻酔科医からの要望がある場合に限り、

たとえそれが、

麻酔科医の単なる精神安定剤に過ぎないのでは!?

と思ったとしても、

術前検査として心エコー検査の実施は許容して(大目に見て)もらいたいところです。

 

ここらへんは、

周術期合併症の有無や、

死亡率などをエンドポイントする臨床研究では、

なかなか評価できない領域と思われ、

新たなエンドポイントの必要性が言われている。

PMID21976704

 

anesthemanのおすすめBOOKショップ

 

人気ブログランキングへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(169) 輸液の半減期

テーマ:
意識のある健常volunteerによるstudyによると、
排泄半減期が長い輸液ほど、
plasma volume expansion効果は延長するものの、
同時にinterstitial volume expansionも延長し、
urinary excretionは少ない。

The half-life of infusion fluids: An educational review.
Eur J Anaesthesiol. 2016 Jul;33(7):475-82.



全身麻酔は輸液の排泄半減期に影響を与えないが、
麻酔により低血圧になったり、術前の状態や手術そのものによるストレスが加わると、
輸液の排泄半減期は延長してしまう。

手術中の麻酔では一般的に輸液の排泄半減期が延長しており、自然とvolume expansion効果が高い状態になっている、
と考えることもできる。

そこに術前の脱水補正だから、とか、
麻酔により相対的hypovolemiaになるから、とか、
晶質液は血管内に1/4しか残らないから、とか言って、
盲目的にじゃんじゃん輸液すると、
volume expansionしすぎてhypervolemicな状態になりかねない。

hypervolemicな状態になると、
ANP(atrial nariuretic peptidess)が増加する。
ANPは炎症反応と同様に
glycocalyx layerを消失させ、
血管透過性を亢進させる。
すると、
投与された輸液はすみやかに間質に分配され、
輸液のvolume expansion効果が減少する。

つまり、
輸液すればするほど、
血管内からvolumeが消えていくというparadoxに陥る。

少量(5mg/kg)の輸液はplasma volume内だけに分布するものの、
多量になると間質への透過量が増加してくる。

輸液負荷は必要性を吟味して実施する必要がある。

手術中の多くの場合、
輸液の排泄半減期が延長するということは、
urinary excretionも少なくなる。

また、輸液負荷によりhypervolemicな状態にしてしまうと、
血管透過性が亢進しはじめ、
輸液は血管内から消失し、
結果としてさらにurinary excretionは少なくなる。

urinary excretionがどの程度低下するかというと、
意識のある健常volunteerの1/10程度とかなり減少する。

そのような状況では輸液戦略を、
restrictive(4ml/kg/h)にしようが、
liberal(10ml/kg/h)しようが、
尿量は100ml/3h vs 107ml/3hとほとんど差がないという報告もある。

つまり、術中の尿量は輸液量の多少を反映しないということであるし、
ましてや過負荷の指標にもならない。

したがって、
尿量を見て輸液量を増加減する管理方法は疑問である。

排泄半減期の延長はvolume expansionには有利である。
一方、high complianceな間質への貯留も促進するため、
edemaの原因にもなり、術後回復遅延因子となりかねない。

hypervolemicな状態になったことによる血管透過性の亢進は、さらにedemaを助長することにもなる。

手術終了後、輸液の排泄半減期は速やかに回復する。
Urinary excretionも増加する。
ただ、これは新たに輸液した分による利尿反応であって、
間質にたまっていたものがすぐに出はじめるわけではない。

まとめ

手術中は輸液のvolume expansion効果は高い状態にある。
とはいうものの輸液の仕方により、
輸液の半減期は様々で、かなり差がでるし、
その結果、edemaが助長されることもあり、
術後回復遅延因子となりかねない。
従って、輸液負荷は必要性を吟味して実施、決して盲目的に行ってはならない。

手術中はdiuretic responseはweakだが、
腎障害となる証拠はない。
尿量を見て輸液量を増加減する管理方法は疑問である。



人気ブログランキングへ

anesthemanのおすすめBOOKショップ

1993年にASAからdifficult airway guidlineが発表されてから、導入時の気道トラブルによる死亡/脳死の発生は半減した。
一方、抜管時のトラブルによる死亡/脳死の発生数は変わらないままである。
1998年の報告でも、抜管時、あるいは回復室での気道トラブルは、導入時の気道トラブルよりもそれぞれ約3倍も多く発生している。

そこでJSAでは抜管時のガイドライン、あるいはアルゴリズムの作成に取り掛かっている。

POINTとしては、
1.筋弛緩、
2.呼吸、
3.意識、
4.気道維持
それぞれの回復を確認してから麻酔終了(あるいは抜管)とする、ということである。

筋弛緩の回復はスガマデクスの登場した現在においては大きな問題とはならない。
問題は、意識の回復過程では、気道反射が起きやすく、それが呼吸、循環を不安定にさせることである。

この気道反射をいかに抑えながら意識を回復させるか!
ということが抜管時の安全につながる。

全身麻酔薬の濃度が下がっていく過程において、
気道反射を抑えるアイデアとしてはいろいろあるが、
プロポフォール、高二酸化炭素血症、などもあるようだが、
今時はレミフェンタニルの併用が有用である。

全身麻酔薬の濃度が下がるのを待つ間、
レミフェンタニルを併用すれば気道反射を効果的に抑制できる。
全身麻酔薬の濃度さえ低下すれば、意識は回復するので、
呼名開眼できる事を確認したらそのまま抜管してもよい。

これはDifficult Airway Societyの Extubation Guidelinesにも取り上げられており、
remifentanil extubation techniqueと呼ばれる方法である。

Difficult Airway Society Guidelines for the management of tracheal extubation.
Anaesthesia. 2012 Mar;67(3):318-40.

おそらく抜管する前の自発呼吸回復の確認は必ずしも必要ではない。
仮に、抜管後に自発呼吸がなくてもあわてなくてもよい。
意識さえ回復していれば、本人に呼吸を促せばしっかり呼吸してくれるからだ。

だからと言って、呼名確認→抜管→即、退室OKという流れになるわけではない。
ISONO Dr.が懸念していたのは、盲目的にそういう流れになってしまうのではないかという点だろう。

上記のような抜管では呼吸調節系の回復が保証されない。
呼吸調節系の回復していなければ、抜管後の再鎮静により容易に無呼吸に陥る可能性があるのだ。

Evolution of changes in upper airway collapsibility during slow induction of anesthesia with propofol.
Anesthesiology. 2009 Jul;111(1):63-71.


とはいうものの呼吸調節系の回復を阻害している因子はレミフェンタニルが主なので、ちょっと待つだけで普通は回復が確認できる。

呼吸調節系の回復を確認するPOINTとしては、
刺激を与えない状態において自発呼吸が安定していることを確認することである。

ISONO Dr.は覚醒前の自発呼吸確認の重要性を唱え、
筋弛緩、呼吸、意識、気道維持、全て確認してから抜管するという、いわばオーソドックスな抜管方法を提案した。
一方で、手術室退室前に呼吸調節系の回復を確認さえすれば、自発呼吸の回復を確認する前に抜管することに対しても若干寛容な雰囲気はあった。

大切なのは
抜管したから麻酔終了(退室)というわけではなく、
1.筋弛緩、
2.呼吸、
3.意識、
4.気道維持
それぞれの回復を確認したから麻酔終了(退室)、という事である。

興味深かったのは、
深麻酔下での吸引が推奨されていたが、
口腔内の記載はあるが、
気管内に関しては必要時のみとなっていた所である。
個人的には全例に対してルーチンでの気管内吸引は行っていないのでなんだかちょっと安心した。

個人的な感覚としては、
抜管までレミフェンタニルを少量であっても継続していると、抜管後しばらく自発呼吸がでない印象がある。
呼吸を促しながら待てばいいだけだが、やっぱりあんまり待ちたくないため、若干早めに中止するようにしている。

日本麻酔科学会第63回学術集会
シンポジウム:覚醒・抜管のリスクと安全
の講義メモをもとに、自分なりに改変。


今学会での一番の注目本

麻酔導入時、うまく気道確保できるかどうかは麻酔科には大きな問題である。

麻酔導入し患者の意識が消失すると同時に、
気道開存性を維持するための筋力が低下し、上気道閉塞が起こる。

Evolution of changes in upper airway collapsibility during slow induction of anesthesia with propofol.
Anesthesiology. 2009 Jul;111(1):63-71.


そこで我々はマスク換気を始めるのだが、
以前はマスク換気ができることを確認してから挿管のために筋弛緩薬を投与していた。

これはCVCIだったときのためにいつでも戻ってこれるように、という考えからなのだろう。しかし、筋弛緩薬の投与前のマスク換気は思いのほか難しいことが多く、マスク換気に習熟するまでは大変だった症例も多かった。無理やり換気しようとすると胃の中に空気を押し込み、逆流の心配や、手術操作がやりにくくなる懸念もあった。

最近、意識消失を確認し、筋弛緩薬を投与してからマスク換気を開始する、という順番がスタンダードになりつつある。

筋弛緩薬を投与したほうがマスク換気がやりやすくなるという報告がある。

The effect of neuromuscular blockade on mask ventilation.
Anaesthesia. 2011 Mar;66(3):163-7.


Ventilation by mask before and after the administration of neuromuscular blockade: a pragmatic non-inferiority trial.
BMC Anesthesiol. 2015 Oct 6;15:134.


日本麻酔科学会気道管理ガイドライン 2014でも
フェイスマスク換気が適切にできることを確認してから神経筋遮断薬を投与するべ きであるというエビデンスは存在しない(88%)。
フェイスマスクによる換気効率も向上させる可能性がある (92%)。
と多くのエキスパートが賛同している。

スガマデクスの登場はこれを後押ししている。

ロクロニウム1mg/kg、あるいは1.2mg/kg投与してから3分後にスガマデクスを投与し、TOFR0.9まで回復するまでの時間を検討した報告にによると、
スガマデクス4mg/kgでは不十分であるものの、
8mg/kg以上投与すれば概ね良好なリバース効果が得られることが示された。

Reversal of profound, high-dose rocuronium-induced neuromuscular blockade by sugammadex at two different time points: an international, multicenter, randomized, dose-finding, safety assessor-blinded, phase II trial.
Anesthesiology. 2008 Aug;109(2):188-97.


これから言えることは、
スガマデクスの薬剤添付文書に
ロクロニウム臭化物の挿管用量投与直後に緊急に筋弛緩状態からの回復を必要とする場合、通常、成人にはスガマデクスとして、ロクロニウム臭化物投与3分後を目安に1回16 mg/kg を静脈内投与する。
と記されているものの、
緊急時には16mg/kg全部吸い終わるまで待ってまとめて投与するのではなく、
1バイアルずつであっても準備できたものからどんどん投与していったほうが良い!ということになる。

スガマデクスという魔法の薬が登場してから、
迅速導入の方法も変わった。

以前は筋弛緩薬の選択は概ねサクシニルコリンの一択だったが、今ではスガマデクスがあるならロクロニウムを第一選択にするほうが良い、という意見がある。

ロクロニウムを投与後にスガマデクスでリバースする群と、
サクシニルコリンを投与し自然に回復を待つ群を比較した研究によると、
自発呼吸が回復するまでの時間、
T1が90%回復するまでの時間、
いずれもロクロニウムを投与後にスガマデクスでリバースする群のほうが早かったからだ。しかも、ちょっとどころかかなり早い。

Rapid sequence induction and intubation with rocuronium-sugammadex compared with succinylcholine: a randomized trial.
Br J Anaesth. 2012 Apr;108(4):682-9.


気道確保を語る上で避けて通れないのはCVCIだ。

CVCIはその性格上、RCTなどは存在せず、もっぱら症例報告ばかりである。

その症例報告を集めてみるとある特徴が見えてくる。
CVCIが発生した症例の多くは気道病変(腫瘍)がある。
従って、術前に気道腫瘍(たとえば喉頭蓋嚢胞)があることがわかっている症例はハイリスクと考え、覚悟して麻酔導入に臨む必要がある。

また、最近ではスガマデクスによる筋弛緩リバースが有効だった症例報告も多いが、筋弛緩リバースが無効だった症例報告も多い。
筋弛緩効果が改善しても、意識が回復しなければ気道開存性も回復しない場合が多いことを物語っている。

従ってCVCIになったら一刻も早く覚醒させることを考えたほうがいい。
でもどうやれば早く覚醒させることができるのだろうか・・という新たな問題は残る。

なんにしても、
いつなんどき発生するかもしれないCVCIに備え、
日本麻酔科学会気道管理ガイドライン 2014
を熟読し、イメトレしておく必要がある。

そしてテクニカルスキルを日々向上させるのはもちろんであるが、ノンテクニカルスキルも十分に意識しておく必要がある。

対人的スキルや認知的スキルだ。

その場の状況判断、ならびに適切な意思決定を迅速に行い、
麻酔科医のみならずco-medicalとも十分にコミュニケーションをとり、チームとして状況に対処していくことが求められる。

一人の医者だけで医療を行うことはできない。
co-medicalを中心とした多くの仲間の助けがあって初めて医療が行える。
そういう意識を常に忘れてはいけないと思う。

日本麻酔科学会第63回学術集会
招請講演「安全講習会」JSA気道管理ガイドラインから学ぶマスク換気と筋弛緩
の講義メモより。



今回の一番の収穫

雑誌編集長が欲しがる!! 医学論文の書き方 (Dr.あさいのこっそりマスターシリーズ)

英文誌に論文を投稿しようにも、なにかと勝手がわからず思わず尻込みしがちです。投稿する際のいろはを丁寧に、わかりやすく解説してくれています。
英文誌への投稿の仕組みがよくわかる必携の一冊です。










人気ブログランキングへ

anesthemanのおすすめBOOKショップ



日本区域麻酔学会 第3回学術集会
教育講演1
「臨床研究施行上の倫理とルール」

聴講メモ

臨床研究においては1964年のヘルシンキ宣言に則って行う必要がある。

ヘルシンキ宣言

1964年初期の頃は10項目だったが、
何度も改訂され、2013年の改訂で37項目まで増えている。

No.22 利益相反や、損害を受けた場合の治療や補償も含む研究計画書を作成。
No.23 倫理委員会 研究内容が変更の必要なときも少人が必要
No.35 一般的にアクセス可能なデータベースに事前登録(UMINが適切)

などは基本事項として重要と。

RCTにおいてはCONSORT 2010声明も確認しておく必要がある。

CONSORT 声明による RCT 論文を投稿する際のチェックリスト

国内での研究といえば言えば、

人を対象とする医学系研究に関する倫理指針

も確認しておく。

侵襲とは:
研究目的で行われる、穿刺、切開、薬物投与、放射線照射、心的外傷に触れる質問 等によって、研究対象者の身体又は精神に傷害又は負担が生じることをいう。

介入とは:
通常の診療を超える医療行為であって、研究 目的で実施するものを含む。すなわち保険適応外のものは全て介入に該当する。

教育・研修について:
研究者等は、研究の実施に先立ち、研究に関する倫理並びに当該研究の実施に必要な知識及び技術に関する教育・研修を受けなければならない。
大学のように臨床研究センターがあればいいが、中小規模の病院に在職のDr.ならどうすればいいのだろうか。

倫理委員会について:
1 医学・医療の専門家等、自然科学の有識者が含まれていること。
2 倫理学・法律学の専門家等、人文・社会科学の有識者が含まれていること。
中小規模の病院では設置自体が難しいかもしれない。
その場合は近隣の大学病院の倫理委員会に相談を。

個人情報の保護:一般的に目隠しだけではダメ

オーサーシップからコントリビューターシップ
全ての著者は研究テーマに関して行われた方法と結果の全てにおいて、正確にそして適切に行われたとの説明責任が取れる必要がある。
一部のみの寄与者は、authorではなく、contributerとしてわけ、その役割をハッキリと示す必要がある。

などなど、
臨床研究に携わるためのいろいろ基本的な素養について講演していただいた。
ここではあまりうまくまとめることができないが、
講演自体はとてもわかりやすいものでした。

まあ、
臨床研究ならなんでもかんでも
臨床研究計画書、倫理委員会、同意書、登録。
日常診療では何があるかわからない。
だから将来、後ろ向きに何を情報収集するかわからないので、
麻酔同意書をとる時、同時に情報活用(臨床研究)のための同意書もセットで取得しておくといいかもしれない。

人気ブログランキングへ

anesthemanのおすすめBOOKショップ





anesthemanのおすすめBOOKショップ

肝切除術の麻酔に際し、
pringle法に先立ち、ステロイドの投与を依頼される。
何も考えずにいつも投与していたが、
先日、後輩に「何のためにやるんでしょうかねえ。」と言われたので、
いい機会だからちょっと調べてみた。

pringleさんが報告したオリジナルはこちら
意味もなく恐れ多い気がしてしまう。

とりあえずPubMedで、
「pringle maneuve steroid」と入力して検索してみたところ、
ちょうど良さそうなのが一番上に出てきた。

PubMed画面

Preoperative steroid administration in liver resection: a systematic review and meta-analysis.
Hepatogastroenterology. 2013 Jan-Feb;60(121):160-9.


でも残念ながらFreeではなさそう。
諦めきれず、とりあえずそのタイトルをグーグル先生に放り込む。

google先生の答え

すると、ちょっと違うけれど、似たようなのが2番目に出てきた。
しかも都合のいいことにFree!。

Use of pre-operative steroids in liver resection: a systematic review and meta-analysis.
HPB (Oxford). 2014 Jan;16(1):12-9.


手術侵襲が加わると、内因性サイトカインやfree radicalsが放出される。
それはそれで障害組織の修復には必要なことかもしれないが、過剰に産生されてしまうとSIRS(systemic inflammatory response syndrome)に陥る。SIRSの程度はmorbidityやmortalityと相関するだけでなく、術後機能回復の遅れにもつながる。この一連のサイトカインの反応を軽減することにより、週術期予後の改善を期待する、というのがsteroidの投与目的である。

1950年から2012年までの文献を収集し、内容が合致した5文献、379症例を解析している。

Primary endpoints

post-operative complications:OR=0.68(95%CI 0.44~1.06、P=0.09)

Secondary endpoints

length of stay:
MD( mean difference )=-0.99(95%CI -3.86~1.89、P=0.5)

post-operative serum bilirubin:
MD=-0.43(95%CI -1.04~-0.015、P=0.05)

postoperative PT:
MD=-0.04(95%CI -0.1~0.01、P=0.1)

post-operative serum IL-6:
MD=-46.4(95%CI -83.4~-9.39、P=0.01)

結果としては、
臨床的に重要な合併症の発生や、
術後入院日数には差がない。

ステロイドを投与したからといって、
予後はそんなに簡単に改善してくれない。

ビリルビン値や、IL-6値は少し下がる。

術後1日目のビリルビン値は肝不全発生の予測因子らしいが、
下がったといっても平均で0.52だから、
どれだけの意味が臨床的にあるかは疑問である。

IL-6値も少し下がるようなので、
少しは炎症反応が軽減されているかもしれない。
とは言うものの、低下しているステロイド投与群ですら基準値を大きく上回る。

さらには、今回の解析対象である5studyの全症例数は379症例。
1つのstudyで症例数の過半数(200症例)を稼いでいる。
これがなければ今回の結論すら変わってしまうかもしれない。

まとめると、
今回の文献だけを見るかぎりでは、
肝切除術の際にステロイドを投与するのは、
おまじないというか、
お作法の範囲内といったら語弊があるか。

人気ブログランキングへ

anesthemanのおすすめBOOKショップ
睡眠時無呼吸症候群(SAS)があると周術期の合併症が増える、
と考えられている。

そのメカニズムとしては、

1. airway abnormality
→ 挿管・抜管時のトラブル

2. 麻酔薬・鎮静薬・麻薬により
上気道の筋緊張低下、換気応答性低下
術後の仰臥位安静がそれを助長する。
→ 上気道閉塞が発生し、低酸素状態へ。

3. 併存疾患の存在(肥満、高血圧・肺高血圧・虚血性心疾患)

さらに、
周術期に睡眠リズム(周期的な睡眠パターン)が変化することが、術後合併症の発生に大きな影響を与える。

4. 術後一過性にREM睡眠が減少、その後のREM睡眠増加
(REMリバンド)
→ 上気道の筋緊張低下→SAS増悪
→ hemodynamic instability(不整脈、循環変動、突然死も)
→ 術後せん妄

一般的に睡眠リズムは、
だいたい1サイクル90分で、
non-REM睡眠1→2→3→4→REM睡眠→
を繰り返している。

手術侵襲の影響のため周術期にはこのサイクルがくずれる。
痛みや、オピオイド投与、術後環境も影響する。
REM睡眠までサイクルが進まないためか、
特に術後2-3日までは、REM睡眠が減少するのが一般的である。
その後 REM睡眠は回復してくるが、
むしろ増加しすぎ(REMリバウンド)てしまう。

REM睡眠中には
・咽頭筋群の筋緊張低下→SAS発生しやすい
・循環動態不安定→血圧変動、不整脈、虚血性心疾患が発生しやすい

術後突然死は術後3-5日目に多く発生し、
そのほとんどは夜間睡眠中といわれる。
これにはREMリバウンドが影響しているのだろう。

死亡、低酸素脳症などの重篤な合併症が発生するタイミングは
intraoperative 21%
postanesthesia care unit 33%
surgical floors 46%
という調査結果があるが、
REMリバウンドの影響がいかに大きいかを裏付けていると思われる。

Perioperative Complications in Obstructive Sleep Apnea Patients Undergoing Surgery: A Review of the Legal Literature.
Anesth Analg. 2016 Jan;122(1):145-51.


とある施設ではSASの手術患者に対して、
術後1週間は夜間酸素投与を継続しているところもある。
酸素投与により無呼吸をマスクしてしまうデメリットもあるが、
低酸素を回避できるというメリットの方が上回る。

睡眠時無呼吸症候群・・・。
存在は地味!?・・ではあるが、周術期管理する上では重要だ。

SASの患者のうち約80%は診断すらされておらず、本人はまったくの無自覚、というのも大きな問題である。

そのため、
自己申告の病歴の確認だけではなく、
術前のスクリーニングが大切である。

STOP-Bang questionnaire

S:snoring いびき
T:tired 日中の倦怠感や眠気
O:observed 家族からの無呼吸の指摘
P:blood pressure 高血圧の既往
B:BMI 肥満
A:age 年齢50歳以上
N:neck circumferennce 頸部周囲長40cm以上
G:gender 男

感度: 軽症83.6%、中等症92.9%、重症100%
特異度: 軽症56.4%、中等症43%、重症37%

該当項目が3項目以上あればSAS疑い。
polysomnograpy(sleep study)したいところだが、
残念ながら当院ではできない。

太った中年男性というだけでSAS疑いか。

Perioperative evaluation for the patients with obstructive sleep apnea syndrome.
Tuberk Toraks. 2015;63(1):53-9.


Obstructive sleep apnea of obese adults: pathophysiology and perioperative airway management.
Anesthesiology. 2009 Apr;110(4):908-21.

http://www.seminmedpract.com/pdf/jcom_sep11_apnea.pdf
ほか