呼吸器外科の手術では全身麻酔下で、ダブルルーメンチューブを挿管した片肺換気による麻酔管理が当然だと思っていた。

 

ところが、近年、片肺換気どころか、挿管すらしない、Non-intubated VATSなる呼吸器外科手術が出てきているという。

 

Non-intubated anesthesia in patients undergoing video-assisted thoracoscopic surgery: A systematic review and meta-analysis.

 

Non-intubated video-assisted thoracoscopic surgery vs. intubated video-assisted thoracoscopic surgery for thoracic disease: a systematic review and meta-analysis of 1,684 cases.

 

によると、

気管挿管せずにVATSを行うと、

 

術後在院日数減少、

入院費節約、

chest tube留置期間減少、

食事再開短縮、

サイトカイン減少をはじめとした炎症反応軽減、

術後合併症減少、

手術時間&麻酔時間減少などが期待できる。

 

もちろん、挿管しないので、咽頭痛や嗄声も発生しない。

 

と良いことづくめらしい。

 

まあ、若者の気胸ぐらいなら良いじゃない!?と思わなくもないが、

例えば、術後在院日数の短縮効果は、major手術ほどその効果が期待できるという。

 

ということは、

今後、肺外科の手術の多くを挿管しないで管理する時代が来る!

かもしれない。

 

懸念としては換気状態が悪化し、全身麻酔にコンバートしなければいけなくなったとき大変ではないか!?とも思うが、

 

2014 LiSA Vol21 2014-7

awake VATSのやり方 安全な意識下胸腔鏡手術ー気胸治療を中心にー

 

によると、創部を閉鎖し、ドレーンで陰圧にすればまた元の両肺換気に戻すことができるから、全身麻酔へのコンバートは必要ない!という意見もある。

 

というか、2014年のLiSAに挿管管理しないVATSの記事が載っていたなんて!

 

では、実際にどう麻酔管理すれば良いのかというと、

 

 

Non-intubated VATS for the management in primary spontaneous pneumothorax

 

が参考になる。

 

合併症を懸念して硬膜外麻酔の代わりに胸腔鏡下肋間神経ブロックをやるのであれば、麻酔科医って、もしかして要らない!?と思ってしまう。

 

 

 

最新刊です。

読めるようになるのは随分先ですね。

 

 

 

とりあえず、これで確認していきましょう!

上腕内側の知覚は、

上腕内側皮神経(MBCN; The medial brachial cutaneous nerve)や、

肋間上腕神経(ICBN; The intercostobrachial nerve)

が担っている。

 

Ultrasound-Guided Selective Versus Conventional Block of the Medial Brachial Cutaneous and the Intercostobrachial Nerves: A Randomized Clinical Trial.

Reg Anesth Pain Med. 2018 Nov;43(8):832-837.

 

MBCNは腕神経叢の内側神経束から、

ICBNは第2肋間神経から分枝している。

 

腋窩領域では腕神経叢から離れて走行し、

かつbrachial fasciaで隔てられている。

 

そのため、

きっちり実施した腕神経叢ブロック(腋窩アプローチ)ではブロックできないかもしれない。

 

超音波画像上、

腕神経叢の腋窩viewでは、

腕神経叢とは離れた広背筋&Brachial fascia上に確認できる。

かなり細いので非常にわかりにくいが、

中枢→末梢、末梢→中枢でその走行を追わないと見つけにくい。

 

神経が同定できれば局所麻酔薬は1~2mlで十分にブロックできる。

もし神経が同定できなくても、

広背筋&Brachial fascia上の皮下に局所麻酔薬を5ml投与すれば良い。

注入を始めると神経が同定できるようになる場合もある。

 

超音波画像上、MBCN/ICBNの同定は47.6%の症例で可能である。

21.4%の症例では最初神経が同定できないものの、

局所麻酔薬の投与を開始すると神経が明瞭化する。

残念ながら31%の症例では最後まで神経を同定できない。

 

そのような状態でも、

20分後には約88%の症例で全領域がno sensationな状態になる。

末梢側は概ね全症例でno sensationな状態が得られるが、

中枢側では約10%で効果不十分なこともある。

 

超音波で神経が同定できなかったとしても、効果が劣るわけではない。

全領域でno sensationな状態になった割合は、

神経が同定できたか、できなかったかで差がない。

 

したがって、

内側上腕皮神経、肋間上腕皮神経を同定できなくても心配ない。

広背筋&Brachial fascia上の皮下に局所麻酔薬を5ml投与すれば良い。

 

特に、

腕神経叢ブロック腋窩アプローチを実施する際には覚えておくと役に立つかもしれない。

 

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臨床麻酔学会に参加した。

とりあえず気になった本のメモ

 

まずは一般教養としての、

臨床研究、それから論文作成への道のりについて。

経験が乏しい場合はまずはこれを読むことから始めるといい。とても読みやすいくてオススメ。

おそらく日本麻酔科学会の時にはあったはずだったが、なぜか手にとらずに素通りしてしまった。 ミス。

これよりももっと簡単に読みたければ、ちょっと前の浅井先生の本になるか。

 
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で、まるで大学受験の合格体験記のような、体験談集も。
 
 
どこかで見たことがある図、式、表が集められて開設されている。重要なものばかりなので専門医試験前とか、研修医指導など、もちろん復習のつまみ食いにも最適である。
 
 
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神経ブロックに関してはこの本がオススメ。
ただ、雰囲気がハンドメイドチックで、昔っぽくって、つまり古臭く見えて、ちょっと見て素通りしてしまいそう。
少し勿体無い気がする。
 
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詳しく勉強したかったら、実はこちらの方が本命かも。
 
ペインクリニック別冊 Vol.39秋号(2018.1―痛みの専門誌 超音波ガイド下神経ブロックup to date
 
間違っても末梢神経ブロックの疑問Q&Aの新刊なんて買わないように!
見た目が簡単そうでとっつきやすそうだから気軽に買ってしまいそう。
内容的には著者の単なる個人的な見解にmisleadingされそうで怖い。
間違っても手に取らないように。
だからリンクも貼らない。
 
 
 
 
 
 
 

麻酔導入後に発生する低血圧に対して、

麻酔導入時からノルアドレナリンの持続投与を開始する。

 

この管理方法の妥当性についての検討。

 

静脈の内圧は、

平均全身充満圧

(心臓が止まっている時に血液が血管壁を外側に押す力)と、

心拍動によって発生する陰圧成分

(血流によって発生する血管壁を内側に引き込む力)

とのバランスによって決まる。

 

例えば、

心拍動が増加(=血管内の陰圧成分が増加)しても、

平均全身充満圧が低いと(=hypovolemia)、

静脈が虚脱してしまい、

有効な心拍出量の増加は見込めかったり、

逆に輸液をして平均全身充満圧を増加させると、

静脈内圧が増加し、静脈還流量が増加、

そして心拍出量の増加も期待できたりする。

 

この概念が麻酔管理にどう関係があるかとういうと、

麻酔導入すると、

交感神経活動が抑制され、

血管収縮↓(=血管拡張)し、

平均全身充満圧が低下する。

すると血管内の陰圧成分が相対的に大きくなるため、

静脈内圧の低下、ひいては静脈還流料の低下が起こり、

心拍出量が低下し、血圧の低下につながる。

これが昔で言うところの相対的hypovolemiaの状態だろう。

 

相対的hypovolemiaなので、

対応としては輸液を選択する!と昔は指導されてきたが、

闇雲に輸液(=liberal fluid therapy)すると、

かえって予後が悪くなるとしばらく前から指摘されるようになった。

 

なんでかというと、

 

もちろん、

全身麻酔中は輸液により平均全身充満圧を元に戻してあげるとちょうど良い。

 

しかし、実際にはそれで終わらない。

 

手術が終われば、麻酔から覚醒させなければならない。

麻酔から覚醒させると、当然、交感神経活動は高まり、

血管の収縮力は増加する。

すると平均全身充満圧は増加し、静脈還流量も増加する。

 

つまり、

手術中はnormovolemiaでちょうど良いかもしれないが、

手術が終わり、麻酔から覚醒させた瞬間に、

overload、あるいはhypervolemiaの状態になってしまうのだ。

 

そこで近年は、

全身麻酔導入によって発生した血管収縮力低下

(=平均全身充満圧の低下)に対しては、

輸液ではなく、血管収縮薬を投与し、

平均全身充満圧の調整を行なう方法が言われている。

Anesthesiology 02 2014, Vol.120, 365-377

 

ノルアドレナリンの、

低い濃度では静脈を収縮させ、

濃度が高まってくると動脈も収縮させるという特性を生かした管理方法である。

 

麻酔の影響により低下した血管収縮力を、

ノルアドレナリンで代償する。

 

これにより無駄な輸液を制限し、overloadによる予後悪化を防ごう! という戦略である。

 

沖縄大学の垣花先生は、

麻酔導入後、血圧が下がったらとりあえずノルアドレナリンをlow dose(0.03γから開始)で、それでダメなら輸液負荷試験を実施という管理方法を実践しているとのことであった。

 

個人的には、

麻酔導入すれば高齢者はほぼ必ず血圧が低下するので、

特に普段から高血圧の症例などは全例でノルアドレナリンを麻酔導入時から開始している。

 

これが悪い方法ではない、ということが確認できたのでまあちょっと安心した。

 

第38回 日本臨床麻酔学会

「周術期の循環管理〜現在から未来へ〜」

聴講メモより

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全身麻酔中に、

突然、気道内圧アラームが鳴り出し、

換気量が低下、

さらにはSpO2が低下してくる。

血圧も下がってくる。

 

すかさずそばにあったエコーを患者の胸に当ててみると・・。

 

lung slidingは?

lung pulseは?

B-lineは?

 

何も確認できない。

そのままプローブを肋間にそって背側にスライドさせていくと、含気のある肺実質と、虚脱している気胸部分の境目であるlung pointが確認できた。

lung pointより腹側の、lung slidingのない部位を穿刺したところ、プシューという音とともに・・・。

 

気胸に関するエコーのお勉強

 

lung sliding

エコー画像上で臓側胸膜が換気とともに水平方向に左右に反復運動すること。

観察できない場合は、その部位が換気されていない、あるいは壁側胸膜と臓側胸膜の間に空気がある。

 

YouTube先生

 

lung pulse

換気していない時(肺が動いていない時)に心拍動と同期して壁側胸膜(肺)が振動する所見。観察できる時は肺実質が壁側胸膜まで接している証拠になる。

 

YouTube先生

 

B-line

エコー画像上(特にコンベックス、セクタープローブで)に放射状に伸びるコメットテイル陰影。Lung slidingと同調して左右に動く。正常初見は1肋間に2~3本。多いと肺胞内がwetである。

 

YouTube先生

 

lung sliding、lung pulse、B-lineはその場所に壁側胸膜、すなわち肺実質があることの証明になる。全てなければ気胸を疑う。エコーでの確定診断はlung pointの確認である。

 

lung point

虚脱して肺実質がなくなった部分に、換気とともに正常な肺実質が背側から前方にlung slidingしてくる部分である。

 

YouTube先生

 

文献

日集中医誌 2016;23:123-32.

 

日本麻酔科学会第65回学術集会に参加した。

 

麻酔関連の新刊本も多数あったので紹介する。

 

目立ったのはレジデント向けテキストである。

これからのニュースタンダードとなるのだろう。

この領域は今までS先生の独壇場だったのだが、

勢いのあるM先生に飲み込まれてしまったのだろうか。

 

麻酔科臨床SUMノート
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こちらも同じようなテキストだが、

扱いがちょっと悪くあまり目立っていなかった。残念。

↓こちらの方が随分安い。

 

IPACK blockって何?

 

TKAの術後鎮痛で使うblockらしい。

 

最近では、

筋力低下を最小限にするために、

 

大腿神経ブロック→内転筋管ブロック

 

のようにより末梢でブロックする流れがある。

 

で、坐骨神経ブロックをさらに末梢で、

膝関節に入る枝レベルでブロックするのが

IPACK blockのようである。

 

IPACKのoriginal文献としては、

 

Novel Regional Techniques for Total Knee Arthroplasty Promote Reduced Hospital Length of Stay: An Analysis of 106 Patients

 

であるが、

 

手っ取り早く、YouTube先生に教えてもらうのが良い。

 

IPACKの動画

 

これが一番わかりやすい。

 

 

それでは書籍紹介。

 

 

日本外科学会に行ってきました。

 

 おきまりの本屋巡りをしてきましたが、

 やはり外科学会なだけあって、

術式関係の本が目立ちます。 

そんな中で麻酔科領域に直接関係ありそうな本はあまり目にとまりませんでしたが、

この本は一回は読んでおくべき本かと思います。 

 

もちろん知っている人にとっては常識かもしれませんが、 

レジデントの人や、

 後輩を指導しなければいけないいけないような立場の人にとっては、

 一般教養として必読と思われます。

 

論文を正しく読むのはけっこう難しい: 診療に活かせる解釈のキホンとピットフォール
 
次は特に学会本屋巡りで出会ったわけではありませんが、
Amazon巡りで出会いました。
発売直前ですね。
 
HEATAPP!(ヒートアップ!) ~たった5日で臨床の“質問力
 
 
 
 

最近の輸液の考え方を知る上で、

この本はとても参考になる。

 

載っている概念を紹介している本は、

これまでやや難しく、とっつきにくかった。

 

この本はとっつきやすく、

肩肘張らずに寝転んで読める。

 

レジデントに加え、

レジデントを指導する立場の人にもオススメ。

 

 

知っておきたい!予後まで考える!!周術期輸液・輸血療法KEYNOTE
 

 

そして、

埼玉、順天堂に加え、

とうとう北里も無痛分娩の本を!

 

日本の産科麻酔をリードする中心的三施設が揃い踏み。

施設間の違いを見るのも面白い。

 

↓北里

 

 

 

開頭血腫除去術の麻酔におけるpointは、

 

 1. 脳出血増大の回避(一次性脳障害)

 2. 脳灌流圧の維持→脳虚血の回避(二次性脳障害)

 

である。

 

そのために大切なのは血圧管理である。

 

(191) 開頭血腫除去術の麻酔における血圧管理

 

ちょっとした配慮で脳出血症例患者の神経学的予後が変わると思えば、

日々の日常診療を丁寧に実施していく必要がある。