#69 バス事故 | かふぇ・あんちょび

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このカフェ、未だ現世には存在しません。

現在自家焙煎珈琲工房(ただの家の納屋ですけど…)を営む元バックパッカーが、

その実現化に向け、愛するネコの想い出と共に奔走中です。

 シルクロード本道に戻るべく、次の目的地は武威である。
中国辺境の町らしい、勇ましい名前だ。
 早朝出発するバスに乗るために、朝早く宿を出る、と前日のうちにフロントに告げておいたのに、宿の玄関は開いておらず、仕方なく裏口から出て高い塀を乗り越えなければならなかった。
飛び降りた時にザックの重みでシリモチをつきながら、なんかわくわくした。

 どうやら僕はバスのチケットを買うのが早すぎるらしく、いつも座席番号が1番で、運転席のすぐ後ろである。
銀川-武威のバス路線はマイナーなのか、中国に来て初めてスカスカの乗員のまま出発。
今日の運転手はクラクションをあまり鳴らさない珍しいタイプの運ちゃんで、これは快適なドライブになりそうだ、と思っていた。

 思っていたが、もちろんタダではすまなかった。
今思うとこの普通ではない状況のひとつひとつがなにかを暗示していたのかもしれない。

 車窓からは砂の砂漠や小さなオアシスなどが見えて結構楽しいバスの旅であったのだが、出発から9時間後、枯れた川に架かった小さな橋を渡っている時に、バスは右前輪を縁石に乗り上げたのである。

 僕はただ、運転手の隣のエンジンフードの上に座っていた車掌のお姉さんが視界の中を飛び跳ねまくっているのを何の感情もなく眺めていただけであった。
何を考えるヒマもなかったように思える。

 バスは何とか横倒しにならずに、土手のように盛り上がった道路から滑り落ちて停止した。
乗客には怪我はなく、バスもタイヤがパンクしただけで済んだようだった。
どうやら運ちゃんが居眠りをしたらしい。

 乗客たちはゾロゾロとバスを降り、問題の橋を見物に行った。
縁石が途中で途切れ途切れになっていて、バスはそこから乗り上げたようだ。
タイヤの跡からすると、あと15センチくらい外側であったら涸れ川に転がり落ちていたことだろう。
皆で橋の上から連れ小便をした。

 運転手は皆に取り巻かれ散々嫌味を言われていたが、死にかけたにしては皆あっさりしているように思えた。
話を後ろで聞いていると、どうやら運転手はこの銀川-武威路線を毎日往復しているらしかった。
・・・それは居眠りもするわ。

 砂漠の真ん中であるので、どうしようもない。
皆で力を合わせてバスを土手の上に押し上げ、その日陰に座り込んで運ちゃんのタイヤ交換が終わるのををぼんやりと待った。

 結局所要14時間で武威の町に到着。
それにしても、死ぬかと思ったのは乗客の中で僕だけだったのだろうか?
皆ホントに逞しいと思った一日であった。