蒸れる本棚 | 美術館ラヴ

蒸れる本棚

先日聴いてきた横尾忠則と平野啓一郎の対談で、平野啓一郎は、三島由紀夫が「金閣寺」で女性の顔を切り株に例えた比喩が忘れられないと言っていた。

妙に気になって、実家に帰った折に本棚を漁って「金閣寺」を探した。そしてお目当ての文章を探し当てた。

 私は息を詰めてそれに見入った。歴史はそこで中断され、未来へ向かっても過去へ向かっても、何一つ語りかけない顔。そういうふしぎな顔を、われわれは、今切り倒されたばかりの切株の上に見ることがある。新鮮で、みずみずしい色を帯びていても、成長はそこで途絶え、浴びるべき筈のなかった風と日光を浴び、本来自分のものではない世界に突如として曝されたその断面に、美しい木目が描いたふしぎな顔。ただ拒むために、こちらの世界へさし出されている顔。・・・・

確かに凄い。
なんとなく読み進めていくと、面白くて止まらなくなって、今、隙間時間にちょこちょこ読み進めている。
蝉の声も一瞬聞こえなくなる。芳醇な色彩を呼び起こす文字の世界。

最初に読んだのはたぶん中三のとき。
その頃は何の感銘も受けなかった。
十五で嫁に行った娘のように、テキストの快楽がまだわからず、折り重なる比喩の愛撫にただただ鬱陶しさを感じるだけだった。

実家から持って帰った本は以下

P・レアージュ「O嬢の物語」
平野啓一郎「日蝕」
谷崎純一郎訳「源氏物語第四巻」
谷崎純一郎「卍」
三島由紀夫「禁色」

ならべてみると、厳しい残暑にもってこいの、暑苦しいセレクション。
本棚が蒸れそう・・・・