本日休診 鶴田浩二・柳永二郎出演 渋谷実監督作品 | 俺の命はウルトラ・アイ

本日休診 鶴田浩二・柳永二郎出演 渋谷実監督作品

 『本日休診』


 昭和二十七年(1952年)二月二十九日公開

 制作 松竹大船

 製作 山本武

 原作 井伏鱒二

 脚色 斎藤良輔

 撮影 長岡博之

 美術 浜田辰雄

 録音 大村三郎

 照明 小泉喜代司

 音楽 吉沢博 奥村一


 出演

 淡島千景(お町)

 鶴田浩二(津和野加吉)

 岸恵子(滝さん)

 角梨枝子(津和野悠子)

 佐田啓二(湯川春三)

 三國連太郎(勇作)



 市川紅梅(豊子夫人)

 田村秋子(湯川三千代)

 中村伸郎(竹さん)

 長岡輝子(お京)

 十朱久雄(松木巡査)

 多々良純(兵隊服の男)

 山路義人(船頭)

 増田順二(三雲伍助)

 望月優子(やくざの女)

 諸角啓二郎(やくざの男)


 柳永二郎(三雲八春)


 監督 渋谷実


 渋谷実監督が三雲八春医師の優しき心が町の

人々を癒し励ます道を暖かく語ります。


 井伏鱒二の小説を原作にして、斎藤良輔が脚色

しました。


 主演は演劇界の重鎮として敬われていた大御所

柳永二郎氏が勤めました。


 わたくしは、柳さんの新派の舞台に間に合わなか

った世代の人間で映像でしか柳さんの演技を知り

ません。

 

 歌舞伎界に提言された文章を拝読したことがあり

ます。


 柳さんは明治二十八年(1895年)九月十六日に

兵庫県に誕生され、昭和五十九年(1984年)四月

二十四日に八十八歳で死去されました。


 本名を永井武さんと申し上げます。


 三雲八春先生の大きくてあったかくて優しい心

と人柄を全身を挙げて演じておられます。


 戦争でたった一人の息子を亡くした三雲医師は

甥の伍助を三雲医院の院長に迎えて、伍助が旅行

に行ったので、「本日休診」と掲げようかと思った

矢先に医院に様々な人々が訪ねてきて応対しま

す。


 戦争から帰ってきた若者勇作は後遺症の発作が

起きて軍隊の言葉で叫びます。


 暴漢に狙われた女性や流産してしまった飲み屋

勤務の女性が三雲医師のもとに来ます。


 三雲は医院に訪れた人々の話を聞き、彼らの傷を

思い、そのこころを包むように接します。


 美男のやくざ加吉は「先生、指を詰めるぜ」と言い

ますが、三雲が「指を切ってやろうか?」と問うと流石

の加吉も恐れびびって「切られたくない」と思い、指

を大切にします。


 三雲は親としての能力と責任感を持っている者のみ

が子供を養育する資格があると語ります。


 時に厳しく時に優しく、三雲は医院に来た人々を見

守り、彼らを励まして生きる意欲を回復せしめるので

した。


 三國連太郎さんの勇作は凄い迫力です。戦争で心

に傷を負った男の生き方を熱く演じます。


 三雲先生が勇作を優しく見守る視座が忘れられま

せん。


 佐田啓二さんの春三と三國さんの勇作が仲良く自

然の中で過ごすシーンが印象的でです。



 

 お姉様千景さんの町の色っぽさに息を呑みます。


 岸恵子さんの滝さん、綺麗でした。


 この映画はこの後戦後を代表する大スターとなる

人々が重要な脇役で出演していることにおいても

歴史的な作品であります。


 そして、加吉に鶴さんです。


 鶴田浩二さんは大正十三年(1924年)十二月六日

に誕生され、昭和六十二年(1987年)六月十六日に

死去されました。


 本名を小野榮一さんと申し上げます。


 『本日休診』の加吉は二枚目時代の役柄です。

美男のやくざで粋がってカッコを付けようとして、老練

の人三雲先生に子供扱いされ、早まった生き方をたし

なめられます。


 後に東映仁侠映画で男の哀しみを深く探求されて

一時代を築かれる鶴さんですが、この時期は華やか

で綺麗な美男スターです。


 しかし、時折見せる陰影に後に東映やくざ映画に

おいて開花するガマン劇の哀切感と通ずるものを

見ました。


 鶴さんはプレイボーイとしても有名でした。


 岸恵子さんとのロマンスは本気であったと聞いて

います。


 演技でも恋愛でも本気を貫き通した方と拝察します。


 台詞覚えの凄まじさは有名で、必ず暗記され、撮影

現場では台本を持ち込まなかったそうです。


 加吉の華麗な魅力も素晴らしいです。


 ラストは勇吉が大声で号令をかけます。


 三雲先生を始め医院に関わる人々が敬礼をします。


 先生の笑顔と優しさが、みんなに力を与えてくれた。


 心の底から暖かさを実感させてくれる傑作でありま

す。


 ☆

 京都文化博物館において鑑賞しました。

 ☆


                        文中一部敬称略


                              合掌