『必殺シリーズ10周年仕事人大集合』(1982/10/1)は何故失敗したのか 弐 | 俺の命はウルトラ・アイ

『必殺シリーズ10周年仕事人大集合』(1982/10/1)は何故失敗したのか 弐

 『必殺シリーズ10周年 仕事人大集合』(1982/10/1)は

何故失敗したのか?』 http://amba.to/14FHyiv


 この記事で尋ねましたように、最大の失敗の原因は

過去のシリーズにおいて既に亡くなった登場人物を安

易に復活させて再び殺してしまうという、スタッフの「使

い捨て」の傲慢さでしょう。


 「必殺」の歴史を尊ばない脚本・演出では、「10周年」

記念作品を名乗ることは許されません。


 山崎努氏は念仏の鉄役での再登場を断り、藤村富美

男氏は虎役での再登場を承諾した。


 藤村氏にも断って欲しかったですね。


 しかし、なんで山内さんは、鉄・虎をもう一度出すという

愚挙を為そうとしたのか?


 『新必殺仕置人』が『必殺シリーズ』最大の傑作である

という認識はあるのかもしれませんね。


  安易に山崎さん・藤村さんを鉄・虎で復活させて、虎

会を西の殺し屋の集いとして描いても、緊張感が全くな

いし、大いなる傑作『新必殺仕置人』に対して失礼に当たり

ます。


 もとより、山崎さん・藤村さんに鉄・虎でオファーする

という愚行自体大無礼なんですけどね。


 後に『必殺仕事人Ⅴ 激闘編』(1985-1986)で闇の

会が描かれ、念仏の鉄を投影した殺し屋壱が登場し

ました。柴俊夫さんが壱を演じました。



 この作品でも当初山崎努さんに鉄役でオファーが

為されたという情報もありました。


 『新必殺仕置人』を意識していたことは窺えました。し

かし、ハードさ・残酷さ・凄絶さではまだまだ足りなかっ

た。


 山内久司氏が、『新必殺仕置人』を意識していたこと

は察せられるのですが、「制作姿勢」の甘さが、『新仕置

人』を継承する作品に成り得なかったのではないかと見て

います。


 それでも、『激闘編』は、『仕事人大集合』よりかはまし

です。


 否、「藤村富美男氏を虎役で再登場させ、又虎を殺して

しまう」という最悪の暴挙を思えば、『必殺仕事人 2009』

「最後の大仕事!!」で火野正平氏を巳ノ助役で起用した

ことさえも、「まし」であると言わざるを得ないのです。


 正八を軽薄悪役にして出すという愚挙まではしなかった

のですから、阿呆駄作『必殺仕事人 2009』でさえも「まし

」なのです。 


  昭和五十二年(一九七七年)十一月四日放映『新必殺

 仕置人』「解散無用」で仕置人虎の物語は終わったのです。


 過去の記事に書きましたように、この「一期一会」をしっか

りと確認・認識することが肝要であると思います。


 しっかりと確認・認識しなかったために、『仕事人大集合』

は、『新必殺仕置人』を愚弄・冒涜する大駄作となりました。


 山崎努氏がオファーを断ったことを支持します。


 断られた時点で、山内氏は、虎・寅の会・天平の再登場

を再考し思いとどまるべきだった。


 つまり、繰り返しになりますが、『新必殺仕事人』における「

善人が悪人に殺されて、仕事人が悪人を華麗な殺し技で

悪人を倒し殺す」という単純で軽薄な作りで、『新必殺仕置

人』の登場人物虎を、「やられ役」で安易に殺してしまうと

いう杜撰さに怒りを覚えるのです。



 「仕事人」ごときの引き立て役に、偉大な「からくり人」「仕置

人」の英雄を犠牲にするなと叫びたいです。


 『新必殺仕置人』

 「問答無用」 (第一回)

  1977/1/21  脚本/野上龍雄 監督/工藤栄一

                  ゲスト/岸田森(筑波重四郎)


 「愛情無用」 

 1977/10/28 脚本/野上龍雄 監督/高坂光幸

                  ゲスト/戸浦六宏(長次)

                      黒部進(参次)



 「解散無用」(最終回)

 1977/11/4   脚本/村尾昭 監督/原田雄一

                   ゲスト/佐藤慶(辰蔵)


                       清水糸宏治(諸岡)



 『江戸プロフェッショナル 必殺商売人』

 「女房妊娠主水慌てる」 1978/2/17

               脚本/野上龍雄  監督/工藤栄一

                 ゲスト/小松方正(政五郎)


 「毒牙に噛まれた商売人」 (最終回)

               脚本/安倍徹郎  監督/工藤栄一

               ゲスト/桜井浩子(おりん)



 『必殺仕事人』

 「主水の浮気は成功するか?」(第一回)

               脚本/野上龍雄  監督/松野宏軌

               ゲスト/岸田森(戸ヶ崎)

              



 『必殺シリーズ10周年スペシャル 仕事人大集合』

       脚本/野上龍雄 高山由紀子/ 監督/工藤栄一

        ゲスト/小松方正(角屋)




 スタッフ・キャストを見ていると、偶然ですが、「必殺」の

歴史において、「ウルトラシリーズ」と「大島渚監督作品」

で活躍された方々が、ターニング・ポイントで出ておられ

ることが窺えます。


 『新必殺仕置人』最初の悪役筑波に岸田森さん。

牧史郎・坂田健・『ウルトラマンA』ナレーターですね。


 「愛情無用」は寅の会を死神の悲壮な戦いを描き

ます。


 彼の恋人お徳を無残に刺殺する外道仕置人参次に

黒部進さん。ハヤタ隊員ですね。




 『必殺商売人』最終回でおせい・新次を苦しめる尼姿

の殺し屋おりんに桜井浩子さん。フジ・アキコ隊員で

すね。


 『必殺仕事人』が始まる第一回では、岸田森さんが

悪役戸ヶ崎役で主水と対決します。


 勿論、筑波とは別人であります。



 「大島渚監督作品」の出演者の活躍も光ります。


 前記「愛情無用」では、参次の親玉で虎を揺さぶる隻

眼の殺し屋長次に戸浦六宏氏。


 「解散無用」では、虎と念仏の鉄に立ちはだかり、二

人を苦しめる冷酷な仕置人辰蔵に佐藤慶さん。


 『必殺商売人』第一話では、「主水・正八」と「おせい・

新次」のチームが組みます。黒人青年キンタを殺害す

る政五郎に小松方正さん。


 つまり、「主水・正八」シリーズの『新必殺仕置人』最

終二話と再開の『江戸プロフェッショナル 必殺商売人

』第一話では、戸浦六宏・佐藤慶・小松方正の三者が

活躍しています。


 大島渚作品の名優・重鎮達が重要な役割を果たし

ています。


 だから、『必殺シリーズ10周年スペシャル仕事人

大集合』では悪の首魁角屋に小松方正氏を再起用

し、虎と対決させたことは、「愛情無用」の戸浦さん

・「解散無用」の佐藤さんとの呼応を考えたのかもし

れません。


 その意図も察するんですが、復活した虎が角屋

にあっさり殺されるシーンは、何の哀感もなかった

ので、落胆しました。



 藤村さんは、くだらない脚本を熱演されていたの

で、一層悔しかった。


 脚本/野上、監督/工藤、ゲスト/小松のトリオに

よる「中村主水シリーズ」では、前述の名作「女房

娠主水慌てる」を思い出します。

 


 この時の小松さんの憎たらしさは圧巻でした。着ぐ

るみを着用しておせい・新次に仕置される展開には

哀感もありました。


 ところが、角屋では説明的な台詞ばかりで、野上

脚本・工藤演出に冴えが無く、政五郎のような憎た

らしさが無かった。

 小松氏も気の毒でした。


 即ち、藤村富美男さんの虎役での再起用、小松方

正さんの角屋で悪の親玉での登場という名優諸氏の

起用の前に、山内さんは物語を検討すべきでした。


 まず、一番問題なのは、兄キャピタンを殺害された

マリアの怨念がしっかり描かれていない点です。


 それ故に秀との切ないロマンスも哀感が弱いのです。


 『新必殺仕置人』『必殺商売人』の頃の野上さんな

らば、異国の美女マリアの悲しくも切ない「頼み」の物

語を繊細に描いたでしょう。


 山内敏男(現・山内としお)氏のオーバーなオカマの演

技もあざとくて、全然面白くない。

 


 唯一の救いは、棺桶の錠がしっかりと描かれていた

ことでした。


 『必殺仕置人』の時代は純情青年だった錠。


 愛するおさきが自己を犠牲にして、礼金を作ったことを

聞いて悲しむ若者でした。


 その錠が『仕事人大集合』ではしたたかな女衒になって

いる。


 野上さんの視点・洞察は鋭いです。


 『仕事人大集合』における安易な寅の会再現は失敗です

が、「大人の錠」の描写には、「錠の歩み」が察せられまし

た。


 それだけに、杜撰な展開に悲しみを覚えるのです。


 くどいようですが、主水と錠の再会シーンが無かったの

は致命的な失敗でした。


 「『仕事人大集合』は『必殺からくり人』『新必殺仕置人』の

パラレルワールドや」と山内さんは仰るかもしれません。



 「パラレルワールド」で死者の役を復活させるならば、丁寧

な配慮が必要でした。


 『帰ってきたウルトラマン』「ウルトラマン夕陽に死す」(1971

年12月17日放映)で犠牲になった坂田アキが、37年の歳月

を経て、『大決戦超ウルトラ8兄弟』(2008年9月13日公開)で

郷アキとして甦ったことに深く感激しました。


 それは単なる懐かしさや郷愁ではありません。


 ウルトラシリーズを敬愛する脚本/長谷川圭一・監督/八木

毅の情熱がパラレルワールドにおいてのアキ復活を成就した

からです。


 37年の歩みを経て、岸田森の健の写真を掲げながら働く

郷秀樹・アキ夫妻。


 そこに「ウルトラ」への愛が溢れていました。


 『仕事人大集合』は「必殺」への愛が無かったから大駄作

になったのです。


                        


                           

                            南無阿弥陀仏