『博奕打ち 総長賭博』  名台詞 六 | 俺の命はウルトラ・アイ

『博奕打ち 総長賭博』  名台詞 六

 『博奕打ち 総長賭博』の名台詞を

学び、笠原和夫脚本の偉大さを管見

しておりますが、この感想では、物語

の核心をネタバレします。


 映画未見の方・脚本未読の方は、ご

注意下さい。


 暴力に関する記述があります。暴力

シーンが苦手な方もご注意下さい。


 脚本及び映画完成版は、暴力を肯定

するものではありません。


 天竜一家二代目石戸孝平は兄貴分松田

鉄男に襲われて、重傷を負いますが、旅館

呉竹荘において、兄貴分の中井信次郎の介

護や医師の手当てを受けて、一命を取り留

めます。


 叔父貴分仙波多三郎の部下野口進は、石戸

が一人になった隙を狙って、看病するふりをし

て、匕首を抜いて無残にも石戸を刺殺します。


 仙波は石戸暗殺の罪を松田に擦り付け

ます。


 中井信次郎は、松田が犯人ではないこと

を力説します。


 信次郎「叔父貴・・・・・・(と鋭い眼光で見返

      して)この宿には、猫一匹入る隙は

      ねえ筈です。今朝の事件は松田だ

      が、二代目の命を断ったのは松田

      じゃねえ・・・・・・」



 仙波「こんな、松田の肩を持つような男に大

    事なテラ銭を預けられねえ・・・・・・(と、

    一同に)儂の云ってることは違っている

    かい・・・・・・?」




 信次郎「(深い決意の色で)叔父貴衆、御一党

      さん、そこまであっしを疑うのなら、松田

      のことはキチンと身の証を立てて来ます」



 信次郎は、石戸暗殺の真犯人の黒幕が仙波で

あると推測していますが、証拠がなかったのです。

松田は襲撃に関しては犯人なので、罪を着せられ

てしまった。松田の無罪を明かそうとしても、その

心を邪推された信次郎は、涙を飲んで最も辛い

行為をすることを選び取ります。


 組のけじめの為に、松田を処罰・制裁しなければ

ならないという冷厳な行為です。


 中井は任侠道を貫いて、松田の潔白を明かそうと

しましたが、それが却って松田を擁護する行為と見

なされ、「弟分に甘い」と叱責され、筋目の為に、最も

酷いことをしなければいけない立場に自らを追い込

んでいく。


 笠原和夫氏は、ギリシア悲劇に学んで、運命に抵

抗しようとする人間を描こうとしました。


 信次郎が任侠道に徹して、自身に厳しく道を課せば

課すほど、大切なひとびとを傷つけてしまう。


 妻つや子も、乾分岩吉も、弟分石戸もが犠牲になって

しまった。


 自身を責めながらも、任侠を貫いて、最愛の義弟松

田との対決に身を追い込んでしまいます。



 笠原さんがシナリオを書きながら、中井に鶴田浩二、

松田に若山富三郎の配役を想定したことは、シナリオ

を読んでいると想像できます。


 映画完成版の鶴田浩二と若山富三郎の迫真の芸は、

まさに鬼気迫る熱演でした。


 自分が見た映画館は1991年の朝日シネマでしたが、

銀幕から伝わる闘魂に圧倒されました。



 山下耕作監督の狙いは、「『兄弟仁義』の逆を行きた

い」という企画でした。『兄弟仁義』は、北島三郎の主人

公のやくざが、悪玉の悪事に苦しみ耐えますが、兄弟

分との仁義によって力を合わせ、悪玉を倒すという物語

が基本的パターンでした。


 シリーズには、鶴さんも、富さんも助演されています。


 笠原さんはこの企画に乗りました。


 中井・松田・石戸の義兄弟三人が、仁義によって固い

絆でしっかり結ばれていながら、跡目問題に暗躍する

仙波の陰謀により、松田・石戸が対立し、松田は失脚し

追いこまれ、石戸は暗殺されてしまう。


 中井が平和的に葛藤を解決しようとした試みは、仙波

の権謀術数により砕かれる。


 中井と松田は対決することを余儀なくされます。



 笠原さんが精密な構成によって書く悲劇は、重く深い

です。


 物語は終盤に悲劇美の極まりを示します。



 中井と松田の激突シーンは、感涙が溢れます。



 脚本     笠原和夫





 中井信次郎  鶴田浩二


 中井つや子  櫻町弘子

 石戸孝平    名和宏

 野口進     沼田曜一



 松田鉄男    若山富三郎

 仙波多三郎  金子信雄



 監督       山下耕作


                   


                    文中一部敬称略




                           合掌