突然の訪問者
店をつくって半年後の私が病院を退院して大阪市内のマンショ

ンに1人暮らしをはじめてすぐのことだった。
夜10時過ぎ、のんびりサザンの音楽を聴きながらテレビを見て

いるときだった。
チャイムが鳴ったので誰かと思いドアをあけると青果担当Yであ

った。
明日も仕入れがあるだろうに遊びに来るなんて元気だなぁと思

い「はいれよ。」というと布団を持っているではないか。
するとYは「飲酒運転で免停になってどうしたらいいか考えたん

やけど、社長が(何が起こるかは問題じゃない。どう対処するか

が問題だ)言ってたように自分なりに考えてこれしかないとおも

って来たんやけど。明日から朝の仕入れに乗せていってほしい

ねん。」と言った。
「どうしてここまで来たんだ。」と聞くと彼女に乗せてきてもらった

と言うことだった。
「社長ええかな?」と聞くが「それしかないやろ。余ってる人間は

俺しかいないし。」と言って中に入れた。
でもよくよく考えて見ると簡単に言えばYの運転手になると言うこ

とだった。
ここにはトラックを止めるところがないので会社にトラックを取りに

行きそこから東部市場(生鮮の仕入れ先)に行くことになる。
ハードな毎日になるなぁと思ったが、みんなががんばっているの

を見るのも必要だからいい機会だとも思った。
考えたら最初から仕入れはすべてまかせっきりで楽をさせてもら

っていたしと思い楽しみにも思えてきた。
私には飲酒運転の免停については別にとがめる気はなかったし、

私自身とがめる資格もなかった。
「すんだことは忘れよ。」と言うことも私の口癖で社員の失敗の慰

めの時や、自分の失敗の時の逃げ口上に使っていた。
私は酒は飲まないがくるまで飛ばすのが少し?好きだった。

私にはスピード違反の可能性が大いにあった。

明日は我が身かも知れないからだった。
私は何時に起きるのか聞くと3時半に起きると言うことだった。
「ええー。」私はあまりの早い時間に引きつった。
しかしとにかく言う通りに目覚ましをセットし明日の準備をした。
私の仕事の稼働時間はY社員とは違い、朝はゆっくりだが夜は

遅かった。
私はいろんな事をYに話しかけたがYはいつも朝早いのでいつの

間にか返事もなくなり寝てしまった。

30日間の運転手。
朝、4時前にはマンションを出て会社でトラックに乗り換え、東部

市場に向かった。
朝は道が空いていることもあり4時半ぐらいには市場に着いた。
私はそれぞれの仕入先を回ってみた。
仕入先は「あれだけの出店反対運動があったのによく頑張ったな。

みんな応援してるからな。」と言ってくれり、「市場の出店に反対し

た人たちにどつかれたりしてないか。」とかいわれ、私は「みんなが

がんばってくれてるから。」と言ってすこし照れた。
スエット姿で仕入れ先を回るI社員は今風の若者と言うことで市場

では評判になっていた。
社員たちは私が市場に来ているということで集まってきたが私が「み

んなで飯食おうや、おごらせてもらうから。」と言うと鮮魚の担当者は

「えーえー儲かってからおごってもらうから。

みんなまだしっかり利益もようあげんのに給料だけは一丁前にもらっ

てんねんから。」と言われてしまった。
私は「めったに来ないんだから今日ぐらいはええやん。」と言い、みん

なで飯を食った。
朝早いのにみんなめちゃくちゃ元気だった。
私は仕入先10件ぐらいをまわり、歓迎され各場所でコーヒーを出され、

腹ががぽがぽになってトラックにもどった。
待っていると仕入れた野菜が運ばれてきた。
運んできた野菜の仕入先の社員に「いつもお世話になっています。」と

いうとその人は「社長ところの社員はよく働くね、おたくのYさんなんか

は俺みたいな奴が担当を持たせてもらってるんだから会社に損させる

ことはできないって言って、朝早く来て我々仲買が元売り(卸の本元)

から競りで落として仕入れる値段を書き、高く買わされないようにし
てる。

我々もやりにくいけどそれだけがんばってる者もいないから応援して

る。」と言われた。
みんな知らないところでがんばってるんだと思い、普通は自分も含め

て楽な方に楽な方に行こうとするのに、そういう社員がいることがうれ

しかった。
店に帰る道中、私はYに「朝、高く買わされないように仲買がいくらで

買うか見てるんやて、そんなことしてたら体がもたんぞ。

野菜仕入れるのはY君しかおらんのに、倒れたら俺が仕入れに来な

いといけないやろ。俺も野菜の仕入れはしてたけど素質ないから
俺が仕入れたら店つぶれるぞ。だから無理すんなよ。」と言った。
でも聞くようなYじゃないことはよくわかっていた。
でも免停中の30日間はやめてくれと、自分勝手な私は思っていた。

かなりきつかったが何とか30日間の運転手は終わった。
でもこれが前例になり、その後、別の社員も飲酒運転で免停になり、

くることになるのだった。
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