ファイアパンチ 3 藤本タツキ 感想 『カタルシスの解放』 | 墜落症候群

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墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 第二巻は主人公であるアグニを使って映画を撮りたいというトガタを中心として進行する実験的な巻だったが、第三巻はカタルシスのある盛り上がりを見せてくれる。
 一般に物語には『大きな問題が起こり、それを解決する』というプロットが多い。例えば、ミステリにおいては殺人事件が『問題』で、探偵はその謎を解き『解決』する。
 第二巻のトガタは、主人公のアグニの目的を補佐するように見せかけながらも、同時に裏で動き、主人公の『敵』役を設定しようとするという、敵でも味方でもない第三者というか、作中にいながらメタっぽい動きをするトリッキーなキャラクターだった。そんなトガタに物語が引っ張られていた。
 しかし、この巻において、第二巻で仕掛けられたトガタの計画に、主人公のアグニが真正面から乗るかというと、そんな事はない。
 作中作のようにして、『作者の意のままに動かないキャラクター』という躍動を見る事が出来る。
 夢も希望も未来もない世界、そんな世界の中で、主人公の心の切り替わりが鮮やかに展開を創り変えていくところは素直に面白いと感じる。
 又、建物を巻き込んだ派手な戦闘や、やる気を出した主人公の不屈の精神、不死身さ振り等、本巻はなかなか見どころが多い。

 主人公はやはり生きる糧に乏しく、特に妹関連は今巻で決着が付いてしまったようにも思う。だが、そこで更なる敵を出現させ、主人公に動機付けをする引きで次巻も気になる。

 次章は序章から続く、序破急をもじった破章ならぬ頗章。頗には偏りというような意味がある。

 それと第二巻であっさりとファンタジー的な氷の世界ではなく、寒冷期→氷河期への移行期である事へのトガタの言及があったが、この巻のラストの人物の出現で、あくまで真相はどっちつかずというか、うまく世界観に含みを持たせたのも上手いと感じた。

 

ファイアパンチ 3 (ジャンプコミックスDIGITAL)