週刊朝日・篠田麻里子
『松井珠理奈について』
彼女は当時まだ11歳の小学生。
それが突然、名古屋から東京に通うことになり、
年上で経験者だらけのAKBの真ん中にポンと立たされることになったのです。
誰もつらく当たることはなかったけど、
最初はどうしても孤立してしまいがちだった。
その姿を見ていたら、胸が苦しくなって、なんとかしてあげたいと思いました。
あとから入るつらさが痛いほどわかるから。
私だけ、どうして後から入っちゃったんだろう…。
そんな寂しかった当時の自分を、珠理奈にだぶらせていたのかもしれません。
だけど、珠理奈は私ではない。私が変に気を使ったら、
よけいに嫌な思いをさせるかもしれない。
それに私が話しかけて、珠理奈は答えてくれるとは限らない。
そうためらっていたときに、母の言葉を思い出しました。
「見返りを求めるなら、やらないほうがいい」
「見返りを求めるなら、やらないほうがいい。人にやさしくするときは、
自分のためじゃなく、その人のために、やりたいからやるんだと思いなさい」と。
私はその言葉に背中を押されるように
珠理奈に話しかけていました。「珠理奈が来てくれて、うれしいよ」
まるであの日の自分に語りかけるように。
私はそれ以降も彼女に語りかけ続けました。ただ純粋に、私がそうしたいと思えたから。