津の城下を歩く二人の武士。吉良への仇討ちのため密かに東へ下る大高源吾と中村勘助だ。
    この地には源吾が義兄弟の契りを結んだ東堂家御留守居役の水沼久太夫がいる。源吾は、義兄に合わせてほしいと勘助に頼むが、「久太夫が足軽から八百石の大身に出世した」と聞いた勘助は、それは優れた人物に違いないから会いにきた意図を見抜かれてしまうと反対する。玄関で挨拶しただけで帰るならとやっと話がまとまり、二人は久太夫の家へ向かう。
    訪ねると久太夫が飛ぶように出てきた。二人は挨拶だけして、「火急の用で江戸へ行くので帰りに寄るから今は失礼する」と帰ろうとするが、無理やり座敷にあげられてしまう。
    久太夫の妻にも挨拶するが、鮗(このしろ)を載せた膳部が出される。鮗は「この城を食う、焼く」に通ずる忌み魚で切腹前に出される腹切魚だ。源吾が「江戸へ行き仙台侯に二度の主取りする自分たちにこんなものを出すのは出世の妨げだ」と怒ってみせるが、久太夫は「東へ下って吉良を討つ決心だろう。なぜ本心を隠す?水臭いぞ」と真実を見抜いている。だが討ち入りを前に秘密を漏らすわけにはいかない源吾はわざと怒った顔をして「そんな考えは微塵もない。自分勝手な刃傷で殿様はどれだけ家来に苦労をかけたか?吉良より浅野の殿をかえって恨む。仇討ちなどと二度と口にして欲しくない。勘助、帰ろう!」と席を立ち、久太夫もその言葉に怒って「縁を切る」と膳部を投げつける。
    水沼の家を離れた二人だが、勘助はこれではまだ久太夫の疑いを晴らせていないと考え、源吾に向かい「久太夫が浪人していた頃に貸した十三両二分の金を返してもらって来い。利子として五両もらって来い。罵倒されるだろうが、五両の利子で赤穂の義士となれ。」と言う。
    戻って源吾がその通りに言うと、案の定、久太夫も妻も呆れ返り、久太夫は「腹わたの腐った腑抜け武士とはあいつのこと」と激怒する。
    元禄十五年極月十四日に見事吉良邸へ討ち入り本懐を遂げた源吾から久太夫の元へ十八両二分の金と連判状が届く。久太夫は「源吾、あっぱれ!」と涙を流す。