【おことわり】

本ブログに使用した四半期ＧＤＰ（実質季節調整）の数値は年額換算のため、四半期の数値でありながら一年のＧＤＰに換算した値になっていますので、ご注意ください。
尚、四半期ＧＤＰは通常前期比か前年同月比の計算の元になる数値で、今回のように額で論じることは普通しませんが、内閣府の報告書に書かれた前期比でのグラフがごまかしであることを指摘するために、あえてそうしています。

（以下本文）

財務省と内閣府が「消費税増税は景気後退の主因ではない」と断言している。あの1997年の橋本行革で日本はいまにつながるデフレ不況に突入し、失業率と自殺率が急上昇した主な原因ではないというのだ。しかし、これは意図的なウソである。

5月30日に内閣府が発表した「社会保障・税一体改革の論点に関する研究報告書」にそう書いてあるが、その根拠になっている図表を見ると、とんでもないインチキをやっている。まさに結論ありきのとんでもない報告書なのである。どこがとんでもないかは後で述べるとして、まず筆者が作成したグラフを見て欲しい。

（グラフ１）出典：内閣府

ＧＤＰの変化と消費税増税による影響をまともに受ける民間最終消費支出と住宅投資（両方の合計）の変化を比べてみた。比較する為に項目軸を左右に分けているが、目盛の大きさは同じにしてある。

ちなみに、ＧＤＰ（国内総生産）を支出面から見た構成は次のとおりだ。

ＧＤＰ＝民間最終消費支出＋民間住宅＋民間企業設備＋民間在庫品増加＋政府最終消費支出＋公的固定資本形成（公共投資）＋公的在庫品増加＋純輸出（輸出－輸入）

1997年4月に消費税を３％から５％に引き上げた結果、それまで順調に伸びていた民間消費は一気に10兆円落ち込み、住宅投資も3兆円減少して、合計すると13兆円ほどの急激な減少になっている。その後は多少の変動は有るものの回復することなく推移している。

そして、1997年の1-3月期に505兆円あったＧＤＰも下がり続け、翌年の1-3月期には491兆円と14兆円も落ち込んでいるのである。要するに、民間消費の落ち込みがそのまま景気後退につながっているのである。

グラフを見て、「民間の消費と住宅投資が急激に減少しているのに、ＧＤＰはそれに比べて減少が緩やかだ」という指摘が有るかもしれないが、その理由は次のグラフでわかる。

（グラフ２）出典：内閣府

つまり、1997年の年末までは、民間企業が設備投資額を減らさず、商品の在庫を積上げていたからＧＤＰの減少が遅れたのである。このことはＧＤＰ上の数値を良くしているが、消費の急激な減少に直面した企業にとっては生産調整やリストラを実施する必要が生じることを意味し、結果的に景気に悪影響がある。

1997年度は消費税増税の他に、7月にはアジア通貨危機、11月には三洋証券、拓銀、山一證券の相次ぐ破綻が表面化するなど、景気に影響を与える要素はあった。しかし、２つのグラフを見ればそれらの影響もたしかに認められるが、景気悪化の主要因が消費税増税であることは明白である。

さて、「消費税増税は景気後退の主因ではない」と断言している財務省と内閣府の報告書である。全文は下記のリンクで読めるが、指摘したい図表の部分を抜きだして何処がおかしいのかを指摘したい。

社会保障・税一体改革の論点に関する研究報告書　（内閣府）
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/syutyukento/dai9/siryou3-4.pdf

（図表）上記報告書の46ページから

まず上の「４半期ＧＤＰの動き」のグラフを見ると、ＧＤＰ（赤い線）は消費税を増税した第Ⅱ四半期（４－６）は大きく落ち込んでいるがその後はすぐに回復し、山一證券などの破綻をきっかけにまた悪化しているように見える。

また、下の「実質消費支出の動き」の方（青い線）も第Ⅱ四半期に大きく落ち込むがすぐに回復し、その後のアジア通貨危機と金融危機により再び落ち込んでいるように見える。

つまり、両方を見ると、財務省が言うように消費税増税直後の落ち込みは直前の第Ⅰ四半期（１－３）の駆け込み需要の反動が大きく、その後は消費が回復していたように見える。そして、その後にアジア通貨危機と金融危機などが襲ったからまた落ち込んだということになる。

種を明かすと、そう見えるのは、このグラフがＧＤＰや消費支出の変化を『前期比』で表しているからである。

『前期比』は直前の３ヶ月の数値と比較している。そのため、直前の落ち込みが大きいと、その後少し回復しただけで次の期は大きく回復したように見えるのである。もう一度（グラフ１）と見比べていただけば、一目瞭然だと思う。

（グラフ１）をもう一度よく見ると、確かに１９８９年の第Ⅰ四半期（１－３）あたりから更に消費の落ち込みが見られる。これは確かにアジア通貨危機や金融危機の影響も有るだろう。これにより更に消費マインドが低下した可能性がある。しかし、数値を見れば明らかなように、増税直後の落ち込みに比べればその影響は特に大きいとはいえない。

以上から、財務省と内閣府が「消費税増税は景気後退の主因ではない」と言っているのは間違いであり、１９９７年のわずか２％の消費税増税は景気後退の大きな原因になっていたと言えるのである。失敗の原因は当事者である橋本元首相自身が言っているように、「財政再建を急ぐあまりタイミングを間違えた」ことであろう。

ところが、政府の税と社会保障の一体改革会議は、それを根拠にして消費税を段階的に引き揚げ、15年度には１５％、2025年度には２０％にする案を決定している。

税と社会保障：消費税「２５年度２０％必要」　集中会議、改革案を決定
　税と社会保障の一体改革に関する政府の集中検討会議（議長・菅直人首相）は２日、財源対策を含む社会保障改革案を決定した。改革のスタートと位置付ける１５年度に約２・７兆円、消費税率換算で１％分を要するとしている。高齢化に伴う費用増などで４％分も確保する必要があるため、消費税を段階的に引き上げ、１５年度に１０％とする方針を明示。１２年度後半以降の引き上げ開始を想定している。明記は避けたが、２５年度には２０％程度にする必要があるとの推計も示した。
毎日新聞　2011年6月3日
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110603ddm001010058000c.html

意図的に作った結論に基いて、しかも震災復興の道筋も見えないのに、『１２年度後半い以降の引き上げ開始を想定』し、その後の税率と引き上げ時期を先に決めようとしているのである。まったく与謝野大臣と財務省の異常なまでの執念にはおそれいる。

税収が安定している消費税を社会保障費に充当すると言う考え方には賛成する。その為のシュミレーションを行い、有るべき姿を描くこともいいだろう。しかし、事実を捻じ曲げてまで、それを急ごうとするのは許せないことである。また、橋本行革と同じ過ちを繰り返すだけだ。

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財務省のウソ「97年の増税は景気後退の主因ではない」を検証した