この解説は、「過去問解説evolution 平成20年度 行政法 」の下書き原稿となります。(解説として十分お使いいただけるレベルには達していますのでご安心ください。誤字・脱字等はご了承ください。)



問題20 国家賠償法1条にいう「公権力の行使」に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。



1 裁判官の裁判過程における行為は、司法作用にかかわる行為なので、「公権力の行使」には該当しない。


最判昭和57年年3月12日 228事件
裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても、これによって、当然に国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく、右責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限に明らかに背いてこれを行使したものと認めるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である。


 判例は、国家賠償法の責任を認めるには上記灰色部分のような特別の事情があることを必要とする、としています。
とすれば、裁判官の職務行為も、国家賠償法の「公権力の行使」にあたることを前提としていることがいえます。
 よって、本肢は「公権力の行使」には該当しないとしており、「誤り」。



2 国会議員の立法過程における行為は、国の統治作用にかかわる行為なので、「公権力の行使」には該当しない。


 国会議員の立法過程における国家賠償請求の事件には2つの超有名判例があります。
 肢2を見た瞬間、ぱっと思い浮かばなければ合格には程遠いです。
 下記の判例は、そのうちの1つです。


最判昭和60年11月21日 227事件
国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとい、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。


 記述問題で出てもおかしくない有名な判旨ですね。
 上記判例は、例外的な場合には国家賠償法の適用があるとしていますので、国会議員の立法過程における行為も、「公権力の行使」にあたることを前提としていると考えられます。
 よって、本肢は「公権力の行使」に該当しないとしており「誤り」。

 

3 国家公務員の定期健康診断における国嘱託の保健所勤務医師による検診は、医師の一般的診断行為と異ならない行為なので、「公権力の行使」には該当しない。


 最判昭和57年4月1日・判例百選231事件の問題です。
 この事件の概要は、まさに本肢と同じく、国から嘱託を受けた医師の検診で、重大な病気を見落としたがために、重大な被害を被った被害者が国家賠償法を提起した事件です。


最判昭和57年4月1日 231事件
レントゲン写真による検診及びその結果の報告は、医師が専らその専門的技術及び知識経験を用いて行う行為であつて、医師の一般的診断行為と異なるところはないから、特段の事由のない限り、それ自体としては公権力の行使たる性質を有するものではない。


 よって、本肢は、判例通りなので「正しい」。
 判例百選に載っている判例なので、絶対正解できないとダメ!と言いたかったのですが、本肢の聞いている部分は、判例百選の判旨に載っていない箇所であり、かつ本肢の正誤判断には、かなり深く読み込んで理解しないといけないことから、「難問」といえます。
 したがって、本肢は出来なくてもかまいません。
 (もっとも、本肢が問題の正解の肢なので、残りの肢を正確に判断できなければ、この問題で点を稼ぐことは厳しそうです。)



4 国による国民健康保険法上の被保険者資格の基準に関する通知の発出は、行政組織内部の行為なので、「公権力の行使」には該当しない。


 最判平成16年1月15日・判例百選222事件の問題です。


最判平成16年1月15日 222事件
本件処分は、本件各通知にしたがって行われたものであるところ、――社会保障制度を外国人に適用する場合には、そのよって立つ社会連帯と相互扶助の理念から、国内に適法な居住関係を有する者のみを対象者とするのが一応の原則であると解されていることに照らせば、本件各通知には相当の根拠が認められるというべきである。


 上記判例では、一応、通知の発出についての違法性判断をしているとみることができます。すくなくとも本肢の「行政組織内部の行為」を理由に「公権力の行使」には該当しないとはしていないでしょう。
 よって、本肢は「誤り」。



5 勾留されている患者に対して拘置所職員たる医師が行う医療行為は、部分社会内部の行為なので、「公権力の行使」には該当しない。


最判平成17年12月8日
勾留されている患者の診療に当たった拘置所の職員である医師が、過失により患者を適時に外部の適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において、適時に適切な医療機関への転送が行われ、同医療機関において適切な医療行為を受けていたならば、患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは、国は、患者が右可能性を侵害されたことによって被った損害について国家賠償責任を負う。


 よって、本肢は「部分社会内部の行為」を理由に「公権力の行使」には該当しないと、しているのに対し、上記判例は、適切な医療機関へ転送しなかった医師に対して国家賠償法の適用を認める余地を残しているので、本肢は「誤り」。


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