GCM郡山に行ってきました その8 ~第4部編(中)~ | 正直、スマンカッタ!

正直、スマンカッタ!

フリーランスライターSATOの仕事&プラペの記録。

 第四部のレポートに関しては、会の趣旨に従い、福島県人の話は基本的には匿名で書いていく。前回は順一さんの名前を出したけど、名前が知れている順一さんだし、当たり障りのない内容なら例外ということで…… なお、第四部の会話はメモをし切れなかったこともあり、東工大の久世さんがツイッターで生中継してくれていたログ「GCMふくしま 2012年7月16日(二日目)」http://togetter.com/li/339402も参照する。

 さて、最初の発言者である順一さんは、
「せっかく(放射線に関する正しい)情報を知って落ち着いた人も、別の煽り系の情報でまた不安になることがある」
 と話を続けた。だからこそ「丹念に不条理なデマと戦ってくれる人たちがありがたい」とも。GCMの講師陣には、ニセ科学の撲滅に注力してきたキクマコさんはじめ、今もなお放射線に関するデマに向き合ってくれているメンバーがそろう。何とも心強い。

 ただ、外の視点から見れば、福島県民はデマに左右されにくい、との印象があるようである。司会を務めた八谷さんは、早野教授の講演での放射線にかかわる○×クイズを例に出し、
「東京なら半分正解がいいところでしたが、福島では9割方正解だった。福島の人のリテラシーの高さは驚きました」
 と讃えた。

 確かに福島民報・福島民友という地元紙を読めば、毎日のようにギッシリと放射線情報が掲載されている。その情報量の豊富さに、後日、講師陣の奥村先生も舌を巻いていた。俺が震災後の5月に、実家の会津若松に帰省した際も、情報が濃いと実感した。テレビには常に二重枠が表示されていて、放射線情報、農業情報、就労支援、企業相談、求人情報などが細かく配信されていたのである。
$正直、スマンカッタ!
 あのとき「福島県民は正しい情報から隔離されている」というデマがはびこっていた(いや、今も変わらず?)。俺も田舎だから無理もないのかなぁ、と思いつつ現地に訪れてみたが、現地の多様な情報源に触れてみて、“情弱”なのは東京にいる自分の方だったと痛感させられた次第である。当然、福島県民のリテラシーは高くなるだろう。

 にもかかわらず、順一さんが言うように、福島県民の中にもデマに翻弄される人は数多い。豊富な情報が、果たして正しいのだろうか――政府やマスメディア等への不信感から、そんな疑念を抱いてしまうというのは致し方ないところではある。1年半もの時間が経過した今、そういう人たちの心理状態はどうなっているのだろう。GCMのような場において、自分と考えが違う福島県民が評価されているのを目の当たりにすれば、ますます心を閉ざしてしまうのではないか。頭が痛いところではある。

 参加者の中からは
「変な人を呼んで講演会している人は不安になりたいのではないか」
「いわき。根拠のないことを信じこんじゃっている人はもう聞く耳を持たない」 
(久世さんのツイートより引用)
 という意見もあった。東京でもそういう存在の話を聞くが、放射線の被害をダイレクトに受けた福島ならば話が複雑で、簡単には問題解決することはできないだろう。んー、ああ、頭が痛い。

 別の参加者は瓦礫問題に言及。瓦礫問題での意見の違いが原因で、友人(福島県外在住)と縁が切れてしまったという。もちろん、相手が受入反対の立場である。
 瓦礫問題はそもそも放射能汚染を問題視していたのが、広域処理するのが岩手・宮城の瓦礫だとわかると、アスベストやダイオキシンの話になり、政治的な手続きの方向にブレる。謝ることができないと、エスカレートするばかりという。
 その女性の元彼はなんとZABADAKのファンだったとか。小峰さんは「す、すいません……」と深々と頭を下げていた(笑)小峰さんによれば、アーティスト・演劇関係者まわりの放射線への誤解は、残念ながら大きいようである。リベラル層多数を占める業界だから諦めてはいるが、いい加減、反原発と福島の現状は、はっきりと分けて考えてもらえないだろうか。同じような話は第四部の後半にも出てきた。

 かの有名な「EM菌」についても俎上に載せられていた。いわきの人が「地元でEM菌関連の団体がチラシを配っている」と報告してくれたのである。
 有用微生物群と言われるEM菌は、土壌改善に効果があるとされており、今回の事故後には放射性物質を食べて除染するんですよぉぉぉぉぉぉ、ということになっていた。ぶっちゃけ、EM菌には土壌改善効果も、除染効果も、まったくありません。“2000度でも死なない”“「重力波を発する”という触れ込みを読むと、「言葉の意味は分からんがとにかくすごい」的なキン肉マンのノリになるが、2000度で死なない生物は皆無だし、重力波は誰も存在を確認できていない。すべて大嘘である。

 それにしても、重力波がこういうトンデモに引用されるなら、そろそろダークマターやダークエネルギー、反物質にも触手を伸ばすんジャマイカ。黒猫センセは暗黒物質、早野教授は反物質が専門なので、まだまだお二人に負担がかかるのだろうかね……。
 
 かねてからEM菌にNOを突き付けてきたキクマコさんは「家で使うのは勝手だが、除染で使うのは有害。止めなくてはならない」と断言。ちなみに福島県は2008年にEM菌に対してNOを出した実績がある。

(ウィキペディアより引用)
福島県では2008年3月、”EM菌(有用微生物群)などの微生物資材について「高濃度の有機物が含まれる微生物資材を河川や湖沼に投入すれば汚濁源となる」”との見解をまとめ発表している。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%89%E7%94%A8%E5%BE%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E7%BE%A4

 ようするにEM菌を川に入れると、汚染の原因になると福島県は明言しているのである。それでもなお、汚染浄化(放射線問題に限らず)にEM菌が役立つという記事が、全国紙にも定期的に掲載されている。科学のこと知らない俺が言うのもなんだが、科学リテラシーって大切だよねぇ。

 海外に福島の現状が伝わっていない、という話題も出た。
「だから、ドイツやフランスからおかしな人が登場するのではないでしょうか」
 とは参加者の弁。確かに独仏方面でご活躍中とされる学者先生がトンデモなことを言って、それをトンデモ系日本人が鵜呑みにするという鉄の連携ができあがっている。

 漫画家の鈴木みそさんは、ファミ通でゲームに関するルポ漫画を描いていた経験を踏まえ、
「チェルノブイリの事故後、日本のゲームで『チェルノブくん』ってのがあったんですよ。遠い国の話だから、そんな軽いノリで捉えてしまっているのではないか」と指摘していた。

 「日本人は英語が不得手なのが痛い。ダニエル・カール一人に頼っている感じ」と評する人もいた。山形弁研究家でタレントのダニエル・カール氏は、震災後、早い段階で英語での情報発信を始めた。震災後に発信した動画「Stop the hysteria」は、放射能ヒステリーの存在を早くに指摘してくれている。(参照:http://d.hatena.ne.jp/hsilgne/20110319/1300463712)。今も継続して妥当な線での情報発信を続けており、その真摯な姿勢には頭が下がる思いがする。だがしかし、山形芋煮は邪道である。芋煮は豚肉と味噌しか認めない。

 再度、久世さんのツイートから引用すると、海外の問題にはこんな意見も出されていた。
「海外のメディアが偏った見方で作るのは仕方ない。それを事立てて騒ぐ日本の人が問題」
「イギリスに行った時、日本は嫌われていると思っていたら実は無関心で驚いた。毛嫌いしたり差別している人はいなかった」

 これに関連する情報としては、togetterの「英国で安積咲さんの受けた優しさ」http://togetter.com/li/184672というまとめを挙げたい。安積咲さんが昨年、英国に渡航した際のエピソードが記載されているのだが、英国民の温かな反応が伝わってくる。

引用すると

>先日PUBで話したおじさんに福島から来た事を言って、また事情を説明した
>んだけど、「ないない。嫌われるなんてないから。福島の事故は大変だったけ
>ど、影響はそんなに大げさなものじゃないよ。誰も日本を嫌ってなんかない
>よ。皆日本食レストラン大好きだよ」と言ってくれました。


 国によって違うんだろうけど、日本が壊滅したような勘違いをしている人は、お天道様の当たるところを歩いていなさそうである。

 今回はここまで。後半は明るい話になれば(いいな)。