黒人でホモセクシュアル | マンハッタン88丁目の窓から、生のNY、生きた英会話お送りします

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ニューヨーク在住12年目を迎えた筆者が、現場の生きた英会話をニューヨークの風にのせてお届けします。

今日はニューヨーク不動産売買のお話です。


私達の古いアパートは、売りに出してから6ヶ月強もたった今年の6月末ごろにやっと買い手が見つかりました。

この不景気、1年以上も売れないことも珍しくありません。なので、6ヶ月もかかったとは言え、見つかったときには思わず、シャンペンを空けました。ビール


でも、アメリカでは、それだけでは不動産の売買は成り立ちません。


先ずは、売り手買い手両方で不動産専門の弁護士を立て、買い手はMortgage(住宅ローンのこと)の設定をし、それだけで3ヶ月は優にかかります。でも、更にそれでもまだ売買は成立しません。というのも、私達のアパートのビルは、Co-op(コープ)と言って、そこに住む住人の持ち株制で成り立っていて、そこのビルの中のアパートを買うには、住人を代表するボードの役員によるインタビューを受けなければならないのです。少し前だったと思いますが、マドンナが、あのジョンレノンが住んでいたことでも有名なダコタハウスの中のアパートを買おうとして、ボードメンバーが大反対したことがありました。ボードというのは、結構権力を持っているんです。


私達はStudioと呼ばれる、日本で言うところのワンルームマンションを二つ所有していたので、売買契約も2件になります。最初の一件は比較的順調に進み、ボードの役員によるインタビューもすんなり通りました。

そして、9月の上旬に契約締結。めでたしめでたし。


ところが、です。同じく順調に進んでいた筈の2件目のアパートの買い手は、かなり安定した職業についていて年収も円にして一千万は超えているのに、それだのにボードのインタビューで却下されてしまいました。


私達は、なぜ彼が却下されたのか、あらゆる手をつくして事情を入手しようと試みたのですが、だめでした。


不動産屋が言うには、その買い手には長く未払いになっているクレジットカード残高があったし、税金申告漏れがあって、課徴金を請求された、とのこと。でも、聞いてみると、その額たるや、それぞれ60ドル、そして500ドル。ボードが目くじら立てて反対するような額では決してありません。そんな理由で年収1000万円ある人を却下するはずはありません。


そこでだんだん判ってきたのは、買い手がどうも黒人でホモセクシュアルの男性らしいということでした。(不動産屋を通しているので、私達は、買い手には会ったことがありませんでした。)不動産屋にしても、口はばったく、はっきりとは言いません。アメリカという国は、差別を禁止していますから、誰もそんなことはおくびにも出せないのです。Race & Sex orientation(人種と性認識ーつまり、同性愛かそうでないか、ということ)はただでさえデリケートな話です。そんな理由でアパートの売買を禁じたなどといったら、途端に裁判沙汰です。なので、暗黙のうちには皆わかっているけれど、敢えて誰も口には出さないのです。彼らは自分達の住むアパートのビルの中に黒人であり、更に同性愛者である男性を置きたくない、という決断なのでした。ボード役員は4,5人います。その中の誰が反対したのかは判る由もありません。


私はこの一連の話にかなり愕然としてしまいました。片田舎で外国人が一人も居ない、白人だけのコミュニティーならまだしも、この大都会のニューヨークのマンハッタンです。黒人も沢山いれば、ゲイの人たちだって沢山います。それがマンハッタンの醍醐味ってものじゃありませんか。それだのに、いざ自分達の住むアパートのビルへ、となるととんでもない、と眉をひそめてしまう人たちもまだいるのです。


私の友人でジャマイカ出身の黒人女性が以前に言っていました。”あなたたちが住んでいるアッパーイーストは、圧倒的に白人が多くて、黒人は殆どいないじゃないの。あの辺りには絶対住みたくないわね。”確かにその通りなのでした。アッパーイーストだけでなく、アメリカ全土で、ほんの50年くらい前までは、黒人およびユダヤ人は公然と差別され、お店にも出入り禁止といったビラが貼られていたと聞いています。同性愛者の黒人男性が受け入れられるようになるには、もう何十年かかかってしまうのでしょうか。アメリカの暗い一面を垣間見たような気がしました。


でも、そんなことばかりは言っていられません。一刻も早く2件目のアパートの買い手を見つけないと、私達の出費は減りません。私達にとっては、今人種差別なんかよりも、ずっと深刻な問題です。