まつとしきかば | 『hige*neco』

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ヒゲコがいなくなって、もうひと月たつ


2月26日

こまるの6か月健診から帰ってくると

家の近くで待っていたらしいヒゲコが鳴きながら追いかけてきたので

一緒に家の中に入った


ひとまず抱っこひもからこまるを布団に移動させ

ヒゲコのゴハンをお皿に入れて

またすぐにこまるのお世話をしに戻った


2,3回、キャットフードをカリカリならす音を聞いたのだけど

ヒゲコは突然、窓際にダッシュして

「窓を開けろー!」と鳴いた


いつもなら、もっとたくさん食べてから

ゆったりと毛づくろいをはじめるのに、どうしたのか、と思ったけれど

窓を細く開けて、またこまるのところへ戻った


しばらくして、窓枠にヒゲコの体が擦れる音が聞こえた


その音で、ヒゲコが外に出て行ったと分かったけれど

まだゴハンもほとんど食べていないし、

すぐ戻って来るだろう、とその時はそれ以上深く考えることもなかった


けれど、

夜が更けても

朝になっても

ヒゲコが帰ってこない


次の日も

次の日も

きゅはやって来るのにヒゲコがいない


1週間、2週間

3月になって暖かな日が続くのに

よくひなたぼっこをしていた出窓の上にも姿を見せない

近所でばったり出くわすこともない


あの日、窓を開けずにこまるのお世話よりもヒゲコの相手を先にしていれば・・・

と思うとかなしくて仕様がない


こまるが生まれて6か月

こまるを優先するわたしに、ヒゲコは愛想を尽かしてしまったのかもしれないな


窓の外で、物音がすればヒゲコかと思う

庭の木が、風で揺れただけでも

鳥の影が、さっと横切っただけでも

ヒゲコかと思う


猫が帰って来るおまじないとやらをやってみたら

次の日から何故だかカラスが寄りつくようになってしまった・・・

会いたいのはヒゲコなのに


近所は昨年末から

家の解体やら建設やらで騒々しい

よく見かけたノラネコたちの姿も消えてしまったし

みんな別の落ち着ける場所を探しに行ってしまったんだろか

早く工事が終わって

みんながまた戻ってきてくれたらよいのに


ヒゲコの小さい頭を撫でたい

干したての毛布みたいな匂いを嗅ぎたい

寝ているこまるを起こしてしまうほどの大きな鳴き声を聞きたい

仰向けで伸び伸びと眠る姿や

窓際で雨の音を思案げに聞いている後姿を眺めたい


そしてもうすっかり癒えてしまったひっかき傷を

またこの手につけて欲しい


帰っておいで

ヒゲコ