四月一日生まれのさよなら。 | 絶望と天使の殺し合い。

絶望と天使の殺し合い。

夢のはてのおとぎばなし。

新しく目を開けると、浅い光が瞼を覆い私の目を閉じさせる。
私は今がなにもわからない。
私は再び瞼を閉じて、透けてくる光の明度を確かめながら私のことを思い出そうとする。
静寂を突き倒すように時計の鐘が二つなって私は午後2時を知った。
私の午後2時
意識が混濁して瞼の中で目玉が動き回っている。

「私は」と思った。
誰かが「さよなら」と言う。
知っている声のような気がする。
「私は」と考えた。
誰かが「四季」と言う。
私の意識は更に混濁していく。
「さよならとは」
「四季とは」
「私とは」
私は自分を見るために意識の中で立ち上がってみる。

真っ白い空間の中に私は立っている。
両手を見ていた。
左手の薬指に青い指輪が嵌っている。
見覚えがあるような気がして指を持ち上げ光に晒してみる。
光に晒してみると綺麗に青く輝いている。
(「永遠」と誰かが言う。)
とても大切なもののような気がした。
しばらくそれを眺めていた。
綺麗な青い色と思った。
空というより海という青色で、
私はここに海があればいいなと思った。
(「あなたが世界」と誰かが言う。)
気がつけば目の前に海があった。
どこまでも続く白い砂浜に穏やかな波が寄せて返していた。
波の音だけがサラサラと聞こえる。
太陽に照らされて光返す波の色が鮮やかに光り一面を青と白の世界に変えた。
海の青は指輪と同じ青い色だった。
波打ち際に膝を立てて座って素足を波に濡らしていると、ここが意識の中だということを忘れそうになる。
(「それもまた世界」と誰かが言った。)
もうここは私の一部になっているんだと思った。
波がゆっくりとしたリズムで足を濡らす。
再び指輪に目をやる。
「やっぱり綺麗だ」私は嬉しくて笑いたくなった。

ここを私の新しい世界にしようか。
何も思い出せないなら最初から作り直せばいい。

それならそうだなあ。
私の名前は、
「さよならという名前よ。」と誰かが言う。
私の名前は、さよなら、にしよう。
「あなたの王国」と誰かが言った。

砂つぶでお城を作り波がそれを壊しても、
何度も作り直していつか本当の世界に帰る。
「早く私に会いに来て」
「私たちが出来なかったことをあなたが為すの」

私はさよなら。
青い海と白い砂浜のさよなら。
私はここで生きていく。
私は今日生まれたの。
4月1日生まれのさよなら。

「ようこそ、さよなら。私たちの世界へお帰りなさい。」