気の変わらない内に戻って参りました。

以前触れたショッキングな光景(昨日のコンサート  後半)についてです。


しかし...

刺激的(挑発的?)なタイトルだなぁ。

成ブル、つまり成金ブルジョア。

私はそういった人達を全面否定するものではない。

寧ろ、親の残した財産でのうのうとしている輩より、自分の能力と才覚でのし上がった人の方が余程尊敬に値すると思う。(まともな手段でならの話)

ただ、ある種の行動パターンをとる人たちのことを表すのに、この「成ブル」という言葉は実に座りがいいのだ。

ということで、この言葉はあくまで象徴的に使っています。


昔々、ホロビッツという往年の名ピアニストがいた(そうな)。

20世紀最後の巨匠だの、世紀の大ピアニストだのとも言われていた(らしい)。

何で一々曖昧語尾が付くかというと、私自身はよく知らないのだ。

1度もその凄いという演奏を聴いたことがない。


そのホロビッツがかなりじーさんになってから、日本で公演を行った。

それが初来日だったのか、何度目かの来日だったのかは知らないが、宣伝の力の入りよう、マスコミの大々的な取り上げようからすると、初来日だったのかもしれない。

(だから私はよく知らないんだってば。まだ子供だったんだから)

母なども、「ホロビッツが来るのよー」とかなり興奮していた。

(まぁ、興奮しやすい人なので)

何でもその昔トスカニーニとかいう有名な大指揮者の娘と結婚したことも相当話題だったらしい。

(それが何だっちゅうねん?誰と結婚しようが、実力には関係ないだろうが)


この時の来日公演のチケット幾らだと思います?

5万ですよ、5万!

(5千円じゃないですよ)

ふざけてると思いません?


これがバレエとかならまだわかる。

いやそれでも高過ぎるが。

バレエの場合、出演者も多い、舞台美術も必要、音楽をテープでなくオケで生演奏にするならその費用もかかる。

(実際、かつてボリショイバレエ団の「白鳥の湖」公演でS席が5万円だったことがある。だがその時もS席だけである、そんなふざけた値段だったのは)


ピアノリサイタルですよ、ソロの。

ピアノリサイタルのチケットって、バレエやオケの公演のように、席が細かく区分されてないから、確かホロじーさんのこの時のリサイタルは全席5万だった(!)

誰が行くかと思ってたら、あっという間に全席完売...!!!

じーさんは意気揚々とお抱えコックまで召し連れて来日したのであった。


これだけ騒がれれば当然TV放映も入るわけでして。

サントリーホールでの公演を私もTVで聴きました。

それが...

酷かった...


好みの演奏スタイルか否かなどというレベルの問題ではない。

とにかく酷い!

はっきり言って、下手である。

プロのピアニストというのは技術はあって当たり前、その上でどういうスタイルを築くかだと思うのだが...

こうなるとスタイルもへったくれもない。


しかし客席からは石が飛んでくる気配もない。

(当たり前だ)

(私なら石だけでなく生卵もぶつけてやりたくなるが)

私の耳がおかしいのか...?

だが縦から聴いても、横から聴いても、斜めから聴いても

(どういう聴き方だ)

酷いものは酷いのだ。


更に信じられない光景が待っていた。

終演後、拍手が鳴り止まない(!)

その内皆、立ち上がる(!)

画面で見る限り全員が立ち上がって、いつまでも拍手をしているのだ。

「...やっぱり私の耳がおかしいのか...?」

純真(?)な子供はそりゃ混乱しますよ。


次週ピアノのレッスンに行った時にこの疑問を先生にぶつけてみた。

「この前ホロビッツのコンサートをTVでやりましたよね。あれ、私は全然良くなかったと思うんですが...?」

「ああ、あれね。酷かったよ、実際」

「でも、みんな立ち上がって拍手してましたよね?」

「あんなのは成金ブルジョアだから」

...

ほんと、はっきり言う人だったなぁ。

レッスンでもかなりきついことを言われることもあったけど、腹も立たずに受け止められたのは、全て的を得ていたから。


結局あそこで立ち上がって拍手してた人達は、じーさんのかつての名声と、破格の5万円というチケット代に対してだったんだな。

そういうのって、虚しくありませんか?

(って、余計なお世話か。でも同国人として恥ずかしい。自分で判断しろよ、自分で)

中には「この間ホロビッツのリサイタルに行ってきましたのよ。やはり巨匠は違いますわ。ほほほ」

なんていうおばさんや、

「君、一流を目指すならやはり一流のものに接しないとダメだよ。僕はこの前ホロビッツのリサイタルに行ってね。5万円だったけど、その価値はあったよ」

なんていうおっさんもいたのだろうな...


後日、新聞か何かに評論家による批評が載ったそうな。

私は読まなかったが、姉によると相当な酷評だったらしい。

「ひび割れた骨董品。あんな姿は見たくなかった」とか何とか。

上のようなおじさん、おばさんはそれを見てどんな顔をしたのだろうと想像するのは、意地が悪いですかね?


(まぁ、私はたとえ評論家がベタ褒めしようと嫌いなものは嫌いだし、幾ら酷評しようと好きなものは好きですけど。

そもそも評論家の言うことを気にしたことがないので。

音楽って、自分が味わう為に聴くもんだと思うけどなぁ...。

人の意見気にしてどうするんだろう?)