アクアリストにとって、大切に飼育している熱帯魚が病気にかかって死んでしまうなどということは、普段は想像もしないし、また考えたくもない嫌なことです。
ところが私たち人間がいくら願っても病気から無縁でいられないのと同じように、熱帯魚たちもまた常に病気の危機にさらされているのです。悲しいことですがこれは現実です。

犬や猫が病気になった時には獣医さんに診てもらうことが出来ますが、熱帯魚の病気を治してくださるお医者さんは日本中どこを探しても見つかりません。唯一治せるのは飼育者自身なのです。そしてそのためのお手伝いをさせて頂くことが、当店を含め、すべてのアクアショップの責務であると私は考えています。

今回は熱帯魚がかかりやすい病気の中で、最も多いのではないかと思われる『白点病』について、私が日頃から感じていることを述べてみたいと思います。

ところでこの『白点病』ほど分かったようでよく分からない、悩ましい病気はありません。あまりにポピュラーな病気であるが故に、色んな情報が氾濫し過ぎ、一体全体何を信じてどのような処置を施すのが正しいのかよく分からないというのが多くの方の感想なのではないでしょうか。

しかも、ある意味十分理解しているはずの私たちプロショップや多くの魚を扱う問屋さんでさえ、未だに日々この病気と悪戦苦闘しているというのが恥ずかしい話ですが正直なところです。魚の入れ替わりが激しく、過密飼育している水槽で一旦この病気に見舞われてしまうと、どんなに手を尽くしたところで無傷では済まされないのが実情です。

『白点病』とはその名が示す通り、ある日突然魚の鰭や体表に1mmにも満たない白い点々が表れ始め、そのまま何もしないで放っておくと短期間の間に水槽内の魚全体に広がっていき、場合によっては魚が全滅してしまう可能性もあるという恐ろしい病気です。イクチオフチリウスという病原虫が魚体に取り付くのが原因で、飼育水の温度変化が激しい季節の変わり目などに発生しやすい病気です。人間に例えるなら風邪ひきのようなもので、普段元気な時なら何ともないのに、何かの理由でストレスを受けたりして体力が落ち免疫力が低下している時に感染してしまうのです。

この病気のメカニズムについてはインターネット上でも多くの情報が寄せられており、この場で繰り返すことは控えたいと思いますが、100%解明されていないということだけは紛れもない事実です。

でもご心配なく。その治療法に関しては多くの先人達の研究努力により、かなりの精度で確立されています。

まず当店が日頃から実践している、最も代表的な治療法を述べてみます。

魚体に白点を少しでも見つけたら、マラカイトグリーンの水溶液である『ヒコサンZ』(当店では少し前までスーパースカットという商品名で販売していました)という薬を飼育水10リットル当り1ccの割合の量を直接飼育水中に投入します。同時にサーモスタットを調整して飼育水の温度を2~3度上げます。2日後に4分の1程度の水換えを行ない、さらに薬を同量投入します。ほとんどの場合これだけの作業で完治させることが出来ますが、発見が遅れて薬浴のタイミングが遅れてしまうと治るまでに時間がかかり、同じ作業を何度も繰り返さなければならなくなります。白点が見られなくなったら水温を徐々に元の温度まで戻しますが、このタイミングが早すぎると再発があり得ます。

ところで、薬の使用はろ過バクテリアや水草に悪影響を及ぼすので、『鷹の爪』で治療するのが良いと言う民間療法の話を最近よく耳にすることがありますが、当店が使用する『ヒコサンZ』は水草を枯らすことなく、また飼育水が色付くのも初めの2~3時間だけなので美観を損なうこともありません。何よりも、他のどの方法よりも短期間で治すことが出来るという点で最もお勧めな治療法です。

ただし治療を行なう上で注意して頂きたい点がいくつかあります。

まず薬浴は、飼育水槽そのものの中で行なってください。症状の出ている魚だけを別の水槽に隔離して治療するのも決して悪いことではないのですが、その場合でも元の水槽内には白点虫がすでに蔓延しています。したがって元の水槽の白点虫を死滅させない限り、根本的な治療にはならないことを知っておいて欲しいのです。

また、どんな薬も活性炭によって吸着されてしまうという性質があります。
最近ポピュラーになっている、テトラのワンタッチフィルターをはじめとする外掛け式フィルターのろ過材の中には活性炭が入っています。フィルターを通常の状態で使用したまま薬を投入しても病気は治りません。
当店がお勧めする方法は、ろ過材であるバイオバッグの上蓋を開けて、一旦中に入っている黒いツブツブの活性炭を全て取り出し、中身が空になった状態のろ過材をセットしてフィルターを動かすというものです。ただし使用中のバイオバッグは水で濡れているので、活性炭を取り出すのは至難の業です。ストックされている新しいものをお持ちであれば、この作業はラクに行なえると思います。
当然ろ過バクテリアは大幅に減少しますので、水質の悪化防止の為に餌はしばらくの間与えないようにします。

また最近の傾向として、ほとんどの小型水槽には水温が26℃固定式のオートヒーターが使用されていることが多く、水温を上げようとしても上げることが出来ません。この場合最も適切な処置としては、水温コントロールの出来るサーモスタット付のヒーターに買い換えて頂くことなのですが、とりあえずは薬浴することを最優先に考えてください。水温を上げた方が短期間に治るのは事実なのですが、放置しておくよりは多少日数はかかりますが必ず改善の方向に向かうはずです。

もうひとつ当店では、魚種によっては使用する薬を変えています。『ヒコサンZ』は、カラシン科やコイ科をはじめとする小型種にはとても使い易い薬ですが、アロワナや大型ナマズの幼魚には相性が悪く中毒症状を引き起こす恐れがあります。このような魚種には、無色透明の液体薬『グリーンFクリアー』を使用します。使用必要量が多目で少し割高感があり、完治するまでに多少日数は要しますが何よりも安全に治療出来る点でお勧めです。

白点虫は肉眼では主に魚の体表に付いているように見えますが、実は鰓の中にも取り付いています。このことが魚の呼吸困難を引き起こし、結果的に死に至らしめているのです。したがってここで重要なことは、エアーレーションを十分に施し、魚の呼吸困難な状態を少しでも改善してあげる必要があるということです。このエアーレーションをするのとしないのとでは、治癒する確率が大きく変わってきます。CO2を添加している水草水槽の場合は添加をストップし、24時間のエアーレーションに切り替えてください。

以前は白点病の治療薬といえば、メチレンブルーを主成分とした『グリーンF』という薬を使用するのが一般的でした。しかし水草を枯らしてしまったり、飼育水が強烈に青色に染まり、治療終了後でも水槽の接合部分のシリコン部分が青く染まったままになってしまったり、治癒するまでに1週間以上時間がかかったりと多くの問題点を抱えていました。

そこで登場したのがマラカイトグリーンなのですが、この薬は古くから白点病や尾ぐされ病の治療薬としてプロの間では使用されており、その効能は高く評価されていました。しかしながら発がん性物質であるという理由で当局の認可が下りず、一般薬品としては長い間製品化されませんでした。
魚病薬の最大手メーカーである日本動物薬品(株)から『アグテン』という商品名でこのマラカイトグリーン水溶液が発売されたのはほんの最近であり、ようやく日の目を見たのかというのが正直私の感想です。
それまでは魚病薬という表示ではなく、水質活性剤という名目でひっそりと陳列される日陰の商品だったのですから。
色々な経緯を経て商品化された、いわくつきのマラカイトグリーンではありますが、今や水草愛好家にはなくてはならない救世主と言えるのではないでしょうか。

ここで述べた以外にも『白点病』には昔から多くの治療法が存在します。

塩を使ったり、他の魚病薬を使ったり、中には水温を上げるだけで治すという方もおられます。確かにアロワナなどの大型魚の場合、水温を上げるだけで治る場合があります。
ただひとつ注意して頂きたいのは、水温を上げる理由は白点虫のライフサイクルを早めることにあります。薬では死滅しない魚体に奇生している状態から、一日も早く薬で死滅させることが出来る仔虫の状態にもっていくことが目的なのです。
したがって薬を使用せず単に水温を上げるだけでは、白点虫の勢力を助長してしまうこともあり、逆効果になりかねませんのでご注意ください。

もうひとつ忘れてはならないことは、仮に一つの水槽の中に数種類の魚が混泳している状態の中で『白点病』が発生したとしても、必ずしもすべての魚体に白点虫が取り付くとは限らないということです。

この現象は一体何を意味しているのでしょうか。

すべての魚は、その表皮がヌメっとした粘膜によって覆われています。このヌメリは、水中の雑菌などの外敵から身を守る大切な役割を果たしています。ところが水質の急変や悪化、あるいは他の魚からしつこく攻撃を受けたりしてストレスを受けた時などにこのヌメリが一時的に失われてしまう時があります。
この無防備な状態になった時に、病原菌や病原虫に取り付かれてしまう隙ができてしまうのです。
私はこのヌメリが失われやすい魚とそうでない魚との差が、同じ水槽内でも白点虫に奇生される魚と奇生されない魚との差に現れているのだと考えています。

例えば入荷したての魚が白点病にかかりバタバタ落ちていくのに、同じ水槽に以前から泳いでいた別の種類の魚はなんともないという現象が当店では普通に見受けられます。一般に白点病には免疫はないと考えられています。一度発症して完治したとしても、また何度でも発病の可能性はあります。
その点をふまえて考えてみると、やはり病気にかかりやすい魚とそうでない魚との差は、先程のヌメリの強さの差としか考えられないのです。

そしてその差を生み出すのが、日頃からの管理状況なのですが、とりわけ日々与える餌の品質や内容が重要なポイントだと思います。

その意味でも当店がお勧めしている『MAX BIO 35』というバクテリアを餌に混ぜて与えることは、とても意義のあることだと私は確信しています。

とにかくどんな病気でも人間と同じで早期発見、早期治療が何よりも大切なことです。

いつもよりも食欲がないとか、隅のほうでじーっとしていて動きが変だと気付いた時は、水槽に顔を近づけて良く観察してみてください。
そしてもし白い小さな点をわずかでも見つけたら、迷わず少量の水換えと魚病薬の使用をお勧めします。

あなたが大切にしている小さな生命を救えるのは、あなた自身の決断力と行動力なのです。