Aug 11.Los
















夕暮れ手前のこの時間。

繋いだ手は離さずに郊外へと向かう。


「ここにきて、タイ料理・・・・」

「そう、パクチー好きでしょう?」


泣き腫らした目元はようやく落ち着き、離れていた間の出来事を面白おかしく、時に真剣に伝え合って、到着した先はアジアン色の強い外観の開放的な店。

確かにエスニックな香りは、キョーコの麻痺していた食欲をかき乱すが・・・・

あまり香草の得意でない久遠がここを選んだ事に驚いて、空腹を感じるよりも先に疑問が湧いて出る。


「好きだけど、久遠得意じゃないでしょう?」


きゅっと繋いだ手に力を入れて、ここではなくてもいいからと伝えるが、店の方へと歩き出す久遠を止めることは出来なかった。


「タクシーも帰しちゃったしね。ここは俺みたいな人でも美味しく食べられるみたいだから」

「本当?・・・・ご機嫌取りなら、違うところでもいいのよ」

「まぁ、それもあるけど・・・・3ヶ月の俺の成長を見てよ?」

「なに、それ?」


含むような笑い方に慄かなくなったのはいつからだろう。

しょうがないな、と笑いながら、幼さを感じさせる行動を許せるようになったのはいつからだろう。

遠い昔のようで、つい最近のことのような気がするけど、確かな時は覚えていない。

二人で過ごした時間が膨大過ぎて、玉ねぎの皮を一枚一枚そいでいくよりも、過去を思い出すことは難しい。


最近こちらでの活動が多い久遠のお陰で、通されそうになった個室を断って、席についたのはロサンゼルスの海を遠くに見える大きな窓辺のカウンター。

少し奥まっているがいつパパラッチにあっても不思議でない。


「大丈夫?」

「夫婦で食事に来てるんだから、気にする事ないよ」


少しだけスツールを近づけて、膝と膝がくっつく位置へと置き換える。

少しだけ気恥ずかしいけど、可能なのであれば知らしめたい。





久遠は、私のパートナーとしての久遠であって。

私は、久遠のパートナーとしての私であることに。





つい数時間前まで固めていた、別れるんだという決意はどこにいったのか。

醜い独占欲は留まる事を知らなくて、そんな自分に辟易する。

彼との生活の中で感じていた不安の大元は、自分自身の愛情の醜さ。

鼻で笑われるかもしれないが、後悔するほど依存してしまっている状態では自分自身が一番信用しがたい。


「どうしたの?まだ頭痛い?」

「あ・・・・ううん、大丈夫。飲み物、頼みましょ」


心配そうに覗き込む瞳に笑みを送って、軽めのタイビールを二つ注文する。

アルコールを摂取するか、一瞬考えたが、自分はそこまで弱くはないだろうという判断の元に、タイビールを流し込む。

日本のものとも、アメリカのものとも、全く飲み心地の違うビールは飲み口が軽く、アルコールというよりはミネラルウォーターの代わりだった。


新鮮な野菜と大きな海老の生春巻き。

白身魚に香草盛りだくさんのソース。

パパイヤとレモングラスの炒め物。

揚げた豚肉をナンプラーを付けて食べる。

そして物足りない分の、パクチーを別注。


タイのフルボディの赤ワインは甘くて飲み口が軽い。

東南アジア特有の太陽を沢山浴びた料理に飲み物は、栄養の不足した身体に優しく染みた。

二人で食べる久し振りの夕食は格別で、キョーコの箸が進むが、同じように箸の進む久遠に驚きを隠せない。


「どうしたの?そんなに一杯・・・・」

「だから、成長?」

「もしかして・・・・パクチー練習したの?」

「美味しく食べられるようになりました」


思わず見開いた瞳をなかなか閉じることは出来なくて。

思わず両手で口元を押さえてしまう。

思わず・・・・・聞いてしまうのは、誰と練習したのか。


「誰と、行ったの?」


声のトーンが自分でも落ちていくのがわかる。

でも、止められない。

そんな心情を受け止めてか、久遠はおどけた表情から、真剣な顔に切り替えて。


「一人で」

「アジアの料理って一皿でてんこ盛りよ?」

「ランチプレートは何種類も楽しめるよ」

「撮影だったでしょう?」

「だからバイクを借りて、市内のアジアンレストランを駆け回った」

「・・・・・・・そんなに暇じゃなかったでしょう?」

「キョーコと一緒に、キョーコの好きなものを美味しく食べる努力は無駄じゃないよ」


いつの間にか絡まっていた指先を弄んで、伝えられる言葉を・・・・・鵜呑みには出来ないけど、嬉しくて。

うにゅ・・・・と緩んでしまう頬を止められなかった。


「ばか、みたい」

「馬鹿かもしれないけど、馬鹿じゃないよ」


ひそひそと罵りあいながら触れ合った唇は・・・・・やっぱり香草と甘いワインの味がして。


「ふふ、パクチーの味がする」

「ん、キョーコは甘いワインの味がする」


ムードもへったくれもなかったけど、なんだかようやく家族が戻ってきた感じがした。



















前回の拍手で嘘パラでも良いよっていう方々の多さに泣きそうになりました。
本当にありがとうございます。
この二人には、じりじり家族になってもらおうと思いますので、温かく見守ってやってくださいm(_ _ )m


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大好き☆香草!!

人を選ぶハイレベルな食べ物ですが、新芽っていうのかな?

柔らかい葉っぱはえぐみが少なくて美味しいのです(°∀°)b

なかなかそんな美味しいパクチー取り扱ってるところに出会わないので、自家栽培を目論見中でございますw

これについて語り出すと、長くて面倒な人になるので(←)割愛致します~!



次は蓮さんターン。

彼の渦巻く感情の内側を・・・・・お見せ出来ればと思います。