Aug 11.Los
















新しくもらったフキンに水を含ませて、泣き腫らした顔を冷やす。

気休め過ぎるが、何もしないよりはマシだろう。
ソファとキッチンを蜜蜂のように行き来するのは、罪悪感に苛まれているだろう久遠。
その甲斐甲斐しい姿にほんのりと心が温かく染まることは・・・・まだ、彼に教えてはいけない。

「お水・・・新しいの持ってこようか?」
「もう、大丈夫よ。ちょっと落ち着いて」
「でも、目が真っ赤だよ?」
「大丈夫ってば」
「・・・・」

しゅんっとするくらいなら、しなければ良かったのに。
そんな言葉が出てきそうになるが、キョーコはそっと喉の奥でその言葉たちを潰していく。

愛を疑った彼が、悪いのか。
愛に疑いを持たせた自分が、悪いのか。

青地のフキンで目を隠し、全てを見ないようにする。
鮮やかな青は闇の色に変化して、キョーコの心を凪のように落ち着かせた。





愛すべき、世界。
愛すべき、家族。
愛すべき、唯一無二の人。






全てをないものにしようと訪れたこの地で、結局はなにひとつ変わらない自分たち。
そして、誰かの掌で踊るようにクルクルとすれ違った自分たち。
とても、愚かで滑稽だと思う。
それでも、彼の隣にいても良いとわかった時の歓喜は・・・・それこそ、世界を飲み込んでしまいそうなくらいの大きさで。
思い出して、また涙が目尻を伝っていった。

「久遠・・・」
「どうした?」

隠した目元はそのままに左手を宙にかざすと、きゅっと握り締められる。
泣いたことによって末端に血液が上手く回らずに冷えたキョーコの指先は、久遠の手の温かさによって、元の感覚へと戻っていく。

「キョーコ・・・・」
「なんでもないの。ねぇ?」
「うん?」

握り締められた手はそのままに、青のフキンをずらしてみると、本当に困り顔の久遠と目が合った。
悪戯っぽく微笑んで、助け舟を出してみる。

「お腹すいた。仲直り・・・しましょ?」

ブルーの瞳が透明度を増して、あぁ・・・・この人も泣くのね、と思った瞬間抱、視界が大きなもので遮られた。
先程の比でないくらい、きつく、きつく、抱きしめられて言葉にならない音が出た。




苦しい、とか。
嬉しい、とか。
温かい、とか。




色んな感情がキョーコの中で混ざり合って、ひとつになっていく。
離された手を背中に回して、今回はキョーコ自身も久遠を抱きしめた。
ありったけの力でもって、きつく、きつく、お互いの存在を確かめ合うように。

「うん、美味しいご飯・・・食べに行こう」
「お店は・・・任せるわね?」
「喜んで」

腕の力を緩めたことによって出来たわずかな空間で、おでこを合わせて。
泣きはらした瞳と、潤んだ瞳が絡み合う。
どちらともせずに触れ合う唇は、少しかさついていたけれど、今までに交わしたどの触れ合いよりも瑞々しいものだった。。

「じゃぁ、行き先は新しい店にしよう」
「・・・・うん、でもどうして?」
「新しい、思い出を、作りにいこう」
「・・・・うん」

誰とも経験したことのないことを、お互いと。
新しい未来とこれからの思い出を作るために、二人の距離は少し離れて、白亜教会と薔薇園のカフェテラスと後にする。









出来た距離をゼロにするのは、絡み合う指先。



















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今日、起きたら嘘パラの続きが降りてきました←
というわけで、ふぃよるどはちょっと置いておいて・・・・
長らく停滞中のこちらの二人を纏めたいと思います。

ファンタステックでセンセーショナルなプロポーズは諦めて、通常運行を決めました。
所詮、私クオリティ・・・・
結果がこれでごめんなさいです。。