Aug 11.Los
白亜の教会に併設されている薔薇園のカフェテラス。
ロサンゼルスの日差しを柔らかなものに置き換える大きな窓は、幸せの象徴たる教会の全貌を見渡せた。
隠されるように置かれた二人掛けのソファはとてもキョーコの好きそうな色合いで、とても彼女に似合っていた。
記憶しているよりも少し薄くなった肩に、久遠の心が歓喜に揺れたことを・・・
キョーコは、知らない。
そして嫉妬に染まった彼女の心に、再度久遠の心が囚われたことも・・・
キョーコは、まだ知らない。
**
「キョーコ」
「・・・・なんですか、敦賀さん」
キョーコが声にならない悲鳴を上げて取り乱してから、ようやく落ち着いた、今。
アメリカサイズのソファに座る二人の間に、ぽっかりとあいた一人分の隙間は、まるで遠い昔の出会いたての様な距離だった。
久遠が手を伸ばして抱き込もうとすると、ぺちんとその手を叩き落とされる。
その柔らかな拒絶は、つい先程まで絶望の淵にいた心に優しく響いた。
「キョーコ」
「・・・・嘘つき」
クッションを抱きかかえたまま、教会を睨んで。
泣き腫らした瞳をそのままに、唇を突き出す。
時折、ぐっと奥歯を噛み締めるような仕草をするのは、湧き上がる涙を堪えてのことで、久遠の心を掻き乱す。
「ジュリママは悪くないんです・・・・」
そう、ママは一切悪くない。
軽くウエーブが掛かるハニーブロンドの髪を、ステージのイメージのためにストレートにするなんてことはよくあることだろうし。
愛に満ち溢れた家族なのだから、腕を組んで歩くことだって日常だろう。
それでも、やっぱり。
自分が逢えない時間に、自分との思い出を巡って欲しくはなかった。
そんな思いは、優しい優しい母親に対して、失礼であることくらいキョーコには分かりきっている。
それでも、やっぱり。
あの蕩ける笑みは、自分だけに向けていて欲しかった。
そしてあんな嘘っぱちの笑顔で自分を騙せると思った、その時の久遠にも腹が立って仕方がない。
試される、ということは。
自分の愛は、信用されていなかったのだろうか。
もやもやする気持ちを持て余し、すんっと鼻をすする。
鼻の奥が痛くなって、更に涙が溢れそうになった。
「キョーコ・・・・」
「触ら、ないで」
辛抱できなくなって距離を縮め横にぴったりと張り付く久遠に、体温が上がっていく。
抱いていたクッションを奪われて、突き放そうとした腕を掴まれて。
視線が、絡んだ。
その瞬間に、触れ合う唇。
かさついた唇同士の、涙味の触れ合い。
「キョーコ・・・愛してる・・・」
久遠の吐息のような囁きは、キョーコの心に染み入って、ささくれ立った感情を蕩けさせる。
「本当に、愛してる」
唇を合わせながらの愛の言葉は、逢えなかった時間に求めていたもの。
啄ばむように、味わうように、確かめ合うように・・・・
触れては、離れて、また触れる。
「く、おん・・・」
触れ合いの中、ようやっと本来の名前をキョーコが呼ぶ。
久遠は嬉しそうに目を細めて、きつくキョーコを抱きしめた。
背中に回る細い腕に、許されたわけではないけれど、それでも心を許してくれたのだと感じ取り、不意に涙がこみ上げそうになる。
「ごめん」
「・・・・許しません」
「うん、でも愛してる」
「・・・・そう、ですか」
「うん、愛してる」
ぴったりと抱かれた身体に、合わせられた唇。
満たされる心を無視出来なくなったキョーコは、ひとつ想いを決める。
全てをなかったことには出来ないけれど、離れることなど、もう出来ない。
だから、少し。
ほんの少しだけ、譲歩しよう。
そこから先は、久遠に任せれば良い。
「・・・・もう一回、ちゃんとプロポーズして」
「・・・・」
「それで、美味しいご飯おごってくれたら・・・・」
「・・・・」
「うっかり、許しちゃうかも、ね・・・・」
ようやく後輩時代の口調は抜けて、いつものように窘める口調で久遠を誘う。
「・・・・もちろん。喜んで、俺の奥さん」
感極まった久遠に再度、背骨が軋むほど抱きしめられて、幸せを感じた自分はやっぱり・・・・
愚か者、なんだろう。
二人に降り注ぐ日の光はとても、優しい。
******
限定記事が連続したことに怯えて、び、びとう!!と思ったんですが。。
ウソパラ(嘘つきパラダイス)の微糖は薄いなー。。。そして密会話と被るw被るww
あと、読み返して思ったのですが・・・
もしかして、ep:3までの5話が全部、プロローグ・・・?( ̄□ ̄;)!!←
お話これから・・・??
書き方がだいぶ変わってきているのは、退化ではなく、成長だと思いたい←